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第78話 バカ聖女、ピンチ!



 ……結局、カスクソーの仲間が彼の腕を切断し、ようやく結界から引き抜くことができた。


「いでええ……いでええよぉおおお……!」


 カスクソーは地面に倒れ込み、顔を歪めて苦悶の声を上げている。

 うわ……血、めっちゃ出てる……グロッ……。


「コビゥル、早く治療してやれ」


 テンラクが命令口調で言ってくる。


「言われなくてもわかってるっつーの……まったく、しょうがないわね」

「しょうがないってなんだ!!!!!」

「ちょ、どならないでよ……!」


 テンラクが怒りを露わにして睨んでくる。

 なんなのよ、ほんと。ヒーローが聖女に怒鳴るとか、筋違いもいいとこでしょ?


 あんたは主人公あたしを喜ばせるためのキャラじゃなかったの?


「カスクソーも国民なんだぞ!? しかも、Sランク冒険者、我が国の宝の一人だ!」

「はいはい、わかってるってば……」

「わかってない! くそっ……なんでこんな女が……やっぱり……」


 やっぱり、なによ?

 セントリアのほうが良かったとか、そういう話?


 またあの女か。

 あいつのせいで、何もかも上手くいかない……!


「早くしろ!」

「わかったってば、ったく……!」


 私はため息まじりに手をかざし、聖女スキル《治癒》を発動させる。

 カスクソーの腕に手を添え、癒しの光を流し込む。


 そういえば、セントリアもなんかブツブツ言ってたっけ。

 ゲーム舐めすぎだのなんだの……偉そうに、ほんとムカつくわ。


 じわじわと、止まらなかった出血が収まっていき、やがて傷口は塞がった。


「はい、終わりっと」

「終わりって……お、俺の……腕は……!?」


 カスクソーが、アホみたいなことを言い出した。


「はぁ? 腕がどうしたの?」

「腕が! まだ失ったままだろ!?」

「あんたバカ? 腕がまた生えてくるとか思ってたの? マジで? ありえないんだけど。治癒スキルってのは、傷を治すものであって、欠損部位が再生するわけないでしょ」


 まったく、バカなキャラだこと。

 知識がないって、ほんと恐ろしいわ。


「ふざ……けんな……ふざけんなよ!!!!!」


 ごぉおお……! カスクソーの体から、黒い靄が立ち上った。

 ……え、なに、これ……?


 なになになに!? なんなのよ、これ!?


「お、おいリーダー……? ど、どうしたんだよ……?」


 手下の一人が恐る恐る声をかける。

 そのとき――


 どちゅっ。


「え……?」


 呆然と胸元を見下ろした手下の身体に、大きな穴が空いていた。


「がふっ……!」


 ぐらりと崩れ落ち、動かなくなる。

 え? え? 今の、なにが起きたの……?


「クソ聖女……許せねぇ……許せねぇええええええええええええええええ!」


 カスクソーの額から、一本の角がにょきりと突き出す。

 そして――切断されたはずの腕が、まるで元からあったかのように再生する。

 ……ただし、その腕は黒ずみ、ゴツゴツとした質感で、鋭い爪まで生えていた。


 まるで……鬼の腕。


 その異形の腕には、手下の心臓が握られていた。

 カスクソーはそれを口に運び、ぐちゃぐちゃと咀嚼し始めた。


「う゛ああああああ……人間の心臓ぉ……うめぇええええええええええ~……」


 ひ、ひぃい……完全に目がいっちゃってる。

 もう、人間じゃない。


「お、おい! コビゥル!? おまえ何したんだよ!?」

「あ、あたしじゃない! あたし関係ないってばぁああああああ!」


 なんで!? 一体なにが起きてるのよぉ!?


「うまそうな肉がよぉ……たくさんあるなぁ……!」


 カスクソーがこちらに向かって突進してくる!

 手下たちが止めようとするが――


「どけぇえ、雑魚どもおおお!」


 鬼と化したカスクソーが腕を振るうと、それだけで数人が宙を舞った。


「なんてことを……! コビゥル! お前が鬼にしたんだろ!? だったら、戻せよ!」

「知らないってば! あたし知らないし関係ないし……こんなの、無理無理無理いいいい!」


 どうしてこんなことになってるのよぉ!? ねぇ、誰か説明してよぉおおお!


「聖女なら治せるだろ!? 神の奇跡でもなんでもいいから、何とかしろよぉおお!」


 テンラクがわけわからないことを叫んでくる。

 奇跡? バグ? そんなご都合、ゲームにあるわけないでしょ!


 ゲームは、あくまでルールに従って動いてるんだから!


「うるせぇぞ、おまえぇえええ!」


 鬼がテンラクの頭をがしっと鷲掴みにする。


「ずっと偉そうで、ムカついてたんだよ……そこの女もなぁ!」


「ぎゃあああああああああ! 痛い! 痛いぃいいいいいいいいいいい!」


 テンラクがこちらを必死に見やる。


「聖女ぁああああああああ! 助けてくれえええええええええ!」

「む、無理無理ぃ! そんなのぉおおおおおおおおおおおおお!」


 ぐしゃっ。


 カスクソーがテンラクの頭を握り潰した。

 ひ、ひぃいいいいいいいいいいい!


 私は尻もちをつき、全身を震わせる。

 て、テンラクが……あたしの……男がぁ……!


「さて……」


 にちゃあ……と笑うカスクソー。

 生き残ったのは、あたし一人だけ――。


 最大のピンチ……!


 でも、でもでも!


 あ、わかった!

 これ、イベントフラグだわ!


 ゲームだったら、こういうピンチのときに、ヒーローが助けに来るのが王道展開!

 そうよ! 今ここで、一郎が来るのよ!


 間違いないわ、絶対に、100%来るわ!


 がしっ。


 ……カスクソーが、あたしの首を締めた。


 ぐ、げええええ……く、苦しい……。


「おまえも随分と偉そうだったよなぁ……ずっとムカついてたんだよお……」


 ぎゅうううう……!

 く……くるしい……。


 来なさいよ、一郎……。

 ヒーローは、主人公のピンチに来るって……そういうお約束でしょ……?


 まだ……?

 うそでしょ……。


 やだ……このまま……死ぬ……?


 死ぬの……?

 い、やぁ……


 ゴキン!

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あっさりテンラク逝った…転落だけにw
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