第77話 バカ聖女、東都でやらかす
結局、あたしたちは徒歩で東都に行く羽目になったわ……。
徒歩って何よ!? あたし、聖女さまなのよ!?
な~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んで、何時間も歩かないといけないわけぇえええええええええええ!?
むっきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!
しかも……このゲーム、地味にキツいのよ。
ゲームのくせに、ちゃんと疲れる。長時間歩くと、リアルにクタクタ。
ゲームなんだから、もっとゲームらしくしなさいよっ!
あるでしょ? 今どきのゲームならファスト・トラベルとかさぁ!
どうしてそんな便利な機能が、この主人公には備わってないの!?
なんか急に不親切じゃない!?
ブツブツ文句を言いながら歩くこと数時間──。
ようやく、あたしは東都の目前までたどり着いた。
現在地は川崎。
目の前には、多摩川にかかる大きな橋。
あれを渡れば、東都に入れる……はずだったんだけど。
「なにこれ……?」
目の前に広がっていたのは、黒い半球状の膜。
「結界ではないのか?」
「それはわかってんのよ」
あたしが聖女だからこそわかる。
これは結界。でも、問題はその“色”よ。
結界は本来、透明か、せいぜい薄く色づいている程度。
こんな漆黒に染まるなんて、ありえない。
明らかに異常。何か、とんでもないことが起きてる。
でも──
「九頭竜ってのは、この中にいるのよね?」
「あ、ああ……極東王城は東都にある」
つまり、あたしが会うべき九頭竜は、この得体の知れない黒い結界の中。
……入りたくない。絶対に。
中がどうなってるかもわからないのに、そんなの怖すぎる。
というわけで──。
「ちょっと、あんたら。誰か中に入って、様子を探ってきなさいよ」
「「「えっ……」」」
黄昏の竜の面々が、揃いも揃って露骨に嫌な顔。
は? なにその顔? こっちは雇ってやってんのよ? 聖女に護衛として!
「さっさと壊して、中に入んなさいって」
「いやでも……絶対なんかヤバいっすよ、これ」
「そんなの赤ん坊でもわかるわよ! だから、あんたらが先に入って安全かどうか確かめてこいって言ってんの。聖女の命令よ!」
全員、さらに嫌そうな顔になる。
「中に入って呪いとかかかったらどうするんですか……?」
「大丈夫よ。このコビゥルさまがついてるんだから。呪いでも毒でも、一瞬で浄化してあげるわよ。怪我も病気も、治癒で即回復!」
聖女には、固有スキルが三つある。
……結界、治癒、浄化。
この主人公コビゥルも、当然ぜんぶ使えるわ。
「……でも、お前、こないだそれで大恥かいてなかったか?」
ガッ……! 帝国でのことよね!?
あ~~~~~~~~~~~~~~~思い出したらムカついてきた!!
「あ、あれは! その……ちょっとだけ調子が悪かっただけよ! 今度は絶対大丈夫だから! 百%、あんたらになんかあっても、このコビゥルさまが助けてあげる。だから誰か行ってらっしゃい」
しぶしぶ話し合いを始める黄昏の竜。
……で、リーダーのカスクソーが行くことになったらしい。
「ていうか、これって入れるのか?」
「あ……確かに」
「確かにって、おいおい……マジで大丈夫なのかよ、聖女さん」
「うっさいわね! とにかく、さっさと入ってみなさいよ!」
カスクソーが結界に手を伸ばす。
ずぶ……と、腕が結界に沈んでいく。
「あ、入れる……ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!」
悲鳴。ものすごい悲鳴。
「痛い! 熱い! 肌が焼けるぅうううううううう!!」
あら。どうやら中には毒性のガスでもあるみたいね。
それで皮膚がやられてる、と。
「もういいわ、腕を抜きなさい! 治してあげるから」
「あ、ああ……って、ぐっ、ぬ、抜けねぇえええええええええええ!?」
「はぁああああああ!?」
なにそれ!? 中に入ったら出れないってどういうこと!?
結界を通過できたのも不自然だったのに、今度は戻れない!?
「聖女ぉおおおおおおおおお! なんとかしてくれええええええええ!」
「な、な、なんとかって……!」
どうすりゃいいのよ……!
ここ、攻略ウィキもない世界なのよ!?
「早くぅううううううううううう! 助けてぇええええええええ! 腕があああああああああ!」
「コビゥル! 早く何とかしろ! お前が入れって命令したんだぞ!」
テンラク王子まで、あたしをにらみつけてきた。
……えっ、なに? 全部あたしのせいなの!?
「コビゥルぅううううううう!」
「聖女ぁあああああああ!」
「「早く! なんとかしろぉおおおおおお!!!」」
もう!! どうにもできないってのよ!!
あたし……基本的にゲームやるときは、攻略サイト見ながら派なのよ!
サイトがなきゃ、こういう異常事態にどう対応すればいいかなんて、わかるわけないじゃない!!
「クソ聖女ぁああああああ! はやくぅううううううう!!」
ああもう!!
どうすればいいのよおおおおおおおおおおおおおおおお!!!




