第75話 次の結界へ
都市化スキル。
土地神の加護から派生する、上位スキルのひとつだ。
すでに存在する村を“都市”、つまり街へと変える。
外壁が生え、建物が立ち並び、地面まで整備される。スキル一発で。
「セントリアさんって、本当に叡智の神の生まれ変わりかもですねぇ……」
エルメルマータが、感心したように呟く。
「だから、神の生まれ変わりなんかじゃありませんってば」
「わかってますよぉ。でもでも、都市開発って、普通は国家事業でしょう? それをスキル一発でドーン! なぁんてやれちゃうの、神様くらいですよぉ?」
……まあ、そうか。
ゲーマーの感覚だと、建物がぽんと出てきても違和感ないけれど、現実でそれをやったら……神扱いされてもおかしくない。
否定してきたけれど、もしかしたら私(※転生前:セントリア・ドロ)、本当に神の生まれ変わりなのかもしれない。
いや、わからないことを考えても仕方ない。先に進もう。
「アインス村長……いえ、もうアインス“街長”ですね」
「ちょうちょー?」
エルメルマータが両手を広げてぱたぱた動かす。蝶の真似らしい。
「……お、おう、オレのことか……ああ……」
「後の管理は、お任せしてもよろしいですか?」
「え、ええ、ああ……嬢ちゃんも忙しいだろうしな」
「助かります」
私は手早く、街に設置した施設の詳細図と地図を紙に描いて、アインス街長に手渡す。
「どの施設がどこにあるか、ここにまとめてあります。街の運営にお役立てください」
「わ、わかった……。嬢ちゃん、気ぃつけてな」
アインス街長がぽん、と私の肩を叩いた。
「人手が足りねぇ時は、いつでも声かけてくれよ。あんたには、いつも世話になってるからな。オレにできることなら、なんでもやるぜ」
にかっと笑うその顔に、嘘はなかった。
「ありがとうございます」
「敬語、別にいらねえけどな」
「そうですか? でもこれがデフォルトなので」
「そっかい……じゃあ、嬢ちゃん。気をつけて、いってらっしゃい」
「はい、いってきます」
私はエルメルマータたちと合流した。
「では、行きましょう」
「次の目的地はどこですぅ?」
「筑波山です」
知波のさらに北。つまり茨城県の筑波である。
栃木、群馬、埼玉、東京──その順番で、残る結界を破壊していく。
「忙しいですねぇ」
「仕方ありません。悠長にしていると、こちらが不利になりますので」
「不利?」
「わたしたちの行動が筒抜けになる。敵が先回りして、対応策を打ってくる可能性があるということです」
「なはは~。セントリアさん、心配性ですねぇ~?」
……なんでこの残念エルフは、こんなにお気楽なんだろう。
こっちはもう、わりと派手に動いているんだが。
横濱、知波──二つの結界を壊したとなれば、敵には即座に伝わっているはず。
まともな相手なら、黙って見てるはずがない。
「セントリアよ、呪符が必要ではないかの?」
白王女が訊いてきた。
「はい。街の人々を転移させるため、大量の呪符が必要です」
「ならば──ちょっと待っておれ!」
だー! と叫んで、白王女が街の方へ走って行く。
そして木更津の住民たちに、何やら声をかけ始めた。
しばらくして──
彼女は両腕いっぱいの呪符を抱えて、駆け戻ってきた。
「これでどうじゃ!」
「すごい……! しかし、こんなに大量の呪符、いったいどこから……?」
「木更津の人々が分けてくれたのじゃ。皆、異能者じゃからの!」
なるほど。
【びにちる】の情報では、異能者たちは普段から呪符を携帯していることが多い。
白王女は、それを知って人々に呼びかけ、譲ってもらったのだろう。
「……本当に、使わせていただいてもよろしいのでしょうか?」
「無論じゃ! 皆、喜んでおったぞ!」
……白王女が、この地の人々に愛される理由がわかった気がした。
素直で、まっすぐで、国のために行動している。そして──可愛い。
「セントリアさんってぇ、白王女と似てますよぉね」
「………………は? 似てる? どこがですか?」
「かわいくってぇ、がんばりやさんなところ……♡ よーしよしよし」
残念エルフが私をぎゅっと抱きしめ、頭をわしゃわしゃ撫でる。
……なんか、完全に年下扱いされてる。中身はもう成人済みの大人なんだが。
けれど──まあ、悪くない。
私にはきょうだいがいなかった。
もし、お姉ちゃんがいたら……こんな感じだったのかもしれない。
「さぁ、セントリアさん! 残りの結界も、ぱっぱらぱーって片付けちゃいましょ!」
ぱっぱらぱーって……。
相変わらず残念な人だ。
でもまあ、「残念エルフ」と呼ぶのは、やっぱりちょっと控えておこう。
「はい。残りの結界も、さくさくっと片付けましょう」




