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第74話 都市化



 ケミスト領に、木更津の人たちを運んだ。


 鬼化してしまった者たちは、鬼化を解く温泉へと案内し、元の姿へと戻す。


 怪我人たちは、治癒の湯に浸かってもらう。


「すごいのぅすごいのぅ! なんと見事な温泉じゃ……! 我が国にも欲しいのじゃ……!」


 ここはアインの村。

 公衆浴場に来ていた我々の前で、はく王女が湯を見て大層驚いていた。


「嬢ちゃん」


 声をかけてきたのは、アインス村長だった。


「アインス村長」


「この見慣れん連中は……?」

「極東ヒノコクの人たちです。そして、あちらの方が白王女殿下です」


「へー………………。へぇあ!? 極東の王女ぉ!?」


 驚くのも無理はない。


「しょうがないですよぉ、アインスさぁん」


 セントリアがうんうんとうなずいている。


「急に王女ちゃんが来たら、ほうれん草くらい欲しいですよねぇ」


 ……それ、たぶん報連相のことを言いたいんだろうな、この残念エルフは。


「いきなりすみません」

「申し訳ないのじゃ……!」


 白王女が隣に来て、ぺこりと頭を下げる。


「ヒノコク王・九頭竜くずりゅうりさとの娘、九頭竜くずりゅうはくじゃ! この度は、突然大勢で押しかけてしまい、すまんのじゃ!」


 若いのに、しっかり挨拶できる娘だ。


「あ、いや……どうも……。おれはアインス。この村の村長やってます」

「アインスか! よろしくなのじゃ!」


 にぱーっと笑う白王女。


「で、ヒノコクのご一行様が、一体なんの用でケミスト領に?」

「実はかくかくしかじかなんですぅ~」


 ……リアルでそれって通じるのか?


「なるほど」


 通じた……!


「またトラブルに巻き込まれて、それの対応中か。時間もないと」

「そ、そこまでお見通しでしたか……」

「ま、嬢ちゃんも乙女だねぇ」


 アインス村長がにまにま笑っている。

 残念エルフと同じ顔すんな。エルメルマータまで同じ顔すんな。


「とりあえず、ヒノコクの人たちを泊めてあげてください」

「構わねえけどよぉ……こんだけの人数、急には泊めきれねえぞ」


 白王女が困ったように眉を八の字にする。


「そうじゃよな……この人数では、宿泊施設が足りぬじゃろう。でもそなたが気にすることではないのじゃ。国民たちにはテントを――」

「あ、大丈夫。嬢ちゃんがなんとかするからよ」


「な、なんじゃとぉ……!?」


 白王女がわたしを振り返る。


「セントリア、またなのか!?」

「ええ、まあ。わたしの力があれば」

「何をするのじゃっ」


 わくわく顔でこっちを見る白王女。

 緊急事態ってこと、ほんとにわかってる……?


 まあいい。サクッとやってしまおう。


「また『どーん!』ってやるですかぁ?」


 エルメルマータが両手を挙げてポーズを取る。

 土木建築スキルのことを言っているらしい。


「ただ、建物を作るには村を少し拡張しないとですね」


 私たちは村の外へ出る。

 目を閉じると、周囲の地形が頭に浮かぶ。


 これから先のことを考えると、この村はもっと大きくしなければならない。


「村長、村を広げてもいいですか? 管理は大変になりますが」

「ん? まあいいぜ」


「本当に?」

「ああ」

「かなり広くなりますよ」

「任せろ」

「……ヒノコク・カントーの人たちを入れるくらいになりますけど」

「ちょ……? それは……さすがに……」


 そうでしょうとも。


「ですが、今後は奈落のアビス・ウッド経由でこの地を訪れる者も増えるでしょう。いずれ村は拡張が必要になります」

「んー……そうだな。わかったよ」


 話の通じる人で助かる。


「セントリアさんなら、スキル一発ドーン! で村をおっきくできるのに、なーにグズグズしてるんですぅ~?」


 ……話の通じない残念エルフも一人。


「村が広くなればなるほど、管理も面倒になるんですよ。人とのトラブルも増えるし」

「ふぁー……たいへんだぁ~……」


 全然大変そうに聞こえない。

 こいつ、何もわかってないな……。


 まあいい。


「ルシウムさまに人員をお願いしておきます」

「助かるぜ。つーか、この件、上にあげなくていいのか?」

「もちろん聞きます」


 私は帝国産の通信用魔道具マジックアイテムを取り出し、咳払いひとつ。


 髪を手で整える。そんな暇ないってわかってるけど、つい。


 そしてもう一度、咳払い。


「ルシウムさま」

『セントリアさん、どうかしましたか?』


 ……その声だけで、心が和らぐ。


「実は、アインの村を少々……拡張したいのですが」

『ああ、いいですよ。好きにしてください』


 スピーカーモードにしていたので、周囲の人々にも聞こえている。

 エルメルマータが「愛~♡」とちゃかしてくる。くそっ……。


「なんと、即決とな。素晴らしい決断力じゃな!」

「そうでしょう、そうでしょうとも……!」


『では、また』

「あ……」

『どうしました?』

「い、いえ……その、終わったらすぐ戻りますので」

『ありがとう。貴女も気をつけて』

「は、はいっ」


 通信を切ると、胸の奥に熱が広がっていた。


「では……さくっと広くしちゃいましょうか」

「また土木建築でドーン! ですぅ?」

「いえ、新しいスキルを使います」


 私は手を前に差し出す。


「【都市化】」


 土地神の加護によって得た、新しいスキル。


 ズズズズズズ……!


「な、なんだぁ……!? 地震かぁ……!?」


 村長が慌てて周囲を見回す。

 その間に、村の外の地面が整地されていく。


 草原が消え、森の木々が伐採され、地面は平らに――。


 ズォオオオオオオオオオオオオオオオ!


「な、なんじゃぁああ!? 壁が……壁が生えてきおった!?」


 魔物の侵入を防ぐ大きな壁が現れる。


 ボコボコボコ……!


「わ、我々の立っていた地面が、石畳に……!? なんなんのじゃこれはぁ……!」


 完全に混乱する白王女たち。

 一方、エルメルマータは「まーまー」となだめている。


「大丈夫ですよぉーう。いつものやつです」

「い、いつもこんな天変地異を起こしておるのか、セントリアは!?」

「だいたいそうですよぉう」

「さすが叡智の神じゃ……!」


 そこ納得するんだ……。


 数分後。


 アインの村は、すでに“街”へと変貌していた。


「ふふーん。見よ! これがセントリアさんの力! 必殺・土地神の加護ですぅ~!」

「うぉー! すごいのじゃー!」


 ……だから、別に殺してはいないってば。

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