第71話 信じられない作戦
叡智の神の生まれ変わりにされてしまった。
……まあ、その方が話が早いなら、それでいいけども。
「これからの方針を手短に話します」
「頼むのじゃ、エッチの神よ」
「やめてください。セントリアとお呼びください」
「わかったのじゃ!」
わたしは地面に指で図を描く。
デフォルメされた日本地図だ。ここ極東ヒノコクは、現実の日本をベースに作られてる。無論、地理も一緒だ。
「鬼祭りの結界は、ヒノコクの、カントー地方に七つ、存在します」
現実で言うところの、関東地方。
そして東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬、栃木、茨城。
この七つに、それぞれ鬼祭りの結界が張られてる。
神奈川の点から始まり、東京、埼玉……と点を繋いでいくと、ぐるりと大きな半円ができあがる。
「7つの結界を作り、それをつなげることで、巨大な1コの結界を作るのです。そこを邪気で満たし、鬼神へ成るための供物とするのです」
「はぁ~……セントリアはすごいのぅ! 何でも知ってるのぉう!」
白王女はちょっと素直すぎる。
百目鬼があからさまに胡散臭いやつを見る目を向けてくる。
が、無視する。今は時間に余裕がないのだ。
「七つの結界の場所は全部わかってます。これより各個撃破していきます」
「でもでもぉ、セントリアさん。結界の破壊って、そんなに簡単にいくもんなんですかぁ? えるたち、さっき壊したときも、まあまあ時間かかったじゃあないですかぁ~」
エルメルマータが手を上げて言ってくる。
確かに横濱では時間がかかった。
「しかし、今度はもっと早く結界を破壊できます。なぜなら、異能殺しの異能を持つ、一郎くんがこちらには居るからです」
異能殺し。異能を無効化する、強力な異能だ。
「な!? なんと! 一郎! おぬし異能が発現したのかっ!?」
白王女が驚いてる。王女もまた、一郎が異能を使えず悩んでいることを知っていたのだろう。
「はい、つい先日」
「それはよかったの! おぬしはずぅっと悩んでおったからな」
「ありがとうございます」
……一郎は、偉い。ちゃんと話の腰を折らないように、どうやって異能を発現させたのかを黙っている。
「ふぇ……? ほがほが」
……残念エルフが早速話の腰をバキバキに折ろうとしていたので、頬をガッ、とつまんだ。
どうせ、セントリアさんの温泉パワーで異能が発現したんですよぉ、とかのたまうつおりだったのだろう。
「黙れ」
「ひゃい……」
……強い言葉を使って、脅すようなことをしてしまい、申し訳ない気持ちにはなる。
でも、今はTPOをわきまえて欲しい。
「なるほど、レイ様と同じ異能を使えるのであれば、結界の破壊は容易いかもしれんの」
「ふぇ? だれです、レイさまって?」
「一郎くんの祖母ですよ」
「ふぇー……でもその人って確か……」
……そう、もう死んでいるのだ。
現在、異能は祖母から一郎に引き継がれている。
「作戦を伝えます。わたしは一郎とともに、結界を七つ……いや、横濱の結界は壊したので、6つを破壊してきます」
「となると……かなり時間がかかるの。それに、人員も多く割く必要があるのじゃ」
関東中に存在する、6つの結界を、順々に破壊していく。
それは大規模な作戦に、本来ならなるはずだ。
「いえ、問題ないです。わたしと一郎くんが居れば、1時間もしないうちに結界を全て破壊できます」
「そんなバカな!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
今まで黙っていた、百目鬼が、口を開いた。
「ふざけるのも大概にしろ! カントー中に存在する結界を、1時間で全部回るなど不可能だ!」
……百目鬼が怒るのも無理はない。
時間がないとほざいてるくせに、言ってることは冗談みたいなことなのだから。
現実でもそうだろう。いくら車があるからといって、関東を1時間でぐるっと一周できるわけない。不可能だ。
……だが、ここは現実ではない。
異世界である。
そして、わたしには不可能を可能にする力が存在するのだ。
「できます。わたしには」
「虚偽ではないという根拠を示せ!」
気持ちはわかるが、状況を考えて物を言って欲しい。
「では、知波へ参りましょう。皆さん手を繋いで。一郎くんはエルメルマータさんの手を」
わたし、エルメルマータ、一郎、二葉、白王女、百目鬼と手を繋ぐ。
「土地瞬間移動」
シュンッ、とわたしたちの姿が一瞬で消える。
そして……知波。
現実で言う、千葉県へと飛んできた。
……目の前で、一瞬で切り替わった光景を見て、百目鬼が驚愕する。
「しゅ、瞬間移動だと!? ば、ば、バカな!? そんな高度な術を使えるのか!?」
極東にも一瞬で移動する術というのが存在する。だがそれは、めちゃくちゃ高度な術であり、現代で使えるものは数えるほどしかいない。
「すごいのじゃ……! セントリアは何でも知ってるだけでなく、こんな凄い術までつかえるのかー! すごいのじゃー!」
白王女は本当に純粋だな。
「あれぇ? 一郎くんって、異能殺し持ちじゃあなかったんですぅ? なぁんで、セントリアさんのスキル、普通に発動したんですかぁ」
「良い質問ですね。それは、一郎くんの手に、わたしが直接触れていないからです」
異能殺しの発動条件は、異能(スキル、魔法含む)に直接触れること。
異能殺しが進化すると、触れずとも異能を消せるようになるのだが、一郎にはその技量はない。
「あ、なるほどぉ。確かに一郎くん、直接、スキル使用者であるセントリアに触れてませんでしたねぇ」
だから転移は異能殺しによって阻害されることなく、普通に発動できたのだ。
「信じられん……なんなのだ、この女……!」
百目鬼が目をむきながら尋ねる。
「ただの元悪女です、えっへん!」
……わたしのセリフを、残念エルフが横取りした。
「ただの悪女にこんなことできるわけないだろう……!?」
「だから、セントリアは叡智の神なのじゃ、できて当然じゃ、すごいのぅ」
「おひい様はもう少し人を疑うってことを覚えてください……!」




