第7話 怪我が治る温泉、完成
ややあって。
アインス村長が、けが人(衛兵)を引き連れて戻ってきた。
「な、んだこれは……!?」
村長が声を張り上げる。
そりゃ、そうだ。
「なんだこのデケえ建物は!?」
わたしの目の前には、大きな木造平屋がある。
「銭湯です」
「せ、せんとー……?」
「はい。だれでも利用可能な、公衆浴場です」
古式ゆかしい、日本の銭湯を、再現してみました。
でも異世界人(NPC)たちからすれば、日本の銭湯なんて入ったことないだろうから、目の前の建物がなんなのか気になることだろう。
【びにちる】の世界でも、風呂という概念は存在はする。
火と水の魔道具を使って、お風呂やシャワーを再現可能なのだ。
でも、便利な魔道具は、結構値が張る。
なので風呂がない家もあるのだ。特に田舎の村なんかには、いまだに川で身を清めてる人もそこそこ居る。(公式設定集より抜粋)
現に【びにちる】でも、アインの村の宿屋には風呂がなかった。
「こんなデケえ建物、今まで無かったぞ。嬢ちゃん、いったいどうやって作ったんだ?」
「【土木建築】スキルを使用しました」
「どぼく、けんちく?」
「はい。土地神の加護の一つです。指定した場所に、好きな建物を、一瞬で作るスキルです」
「はぁ!? なんだそりゃ! 好きな建物を一瞬で作るだって!?」
そう、家でも、外壁でも、暮らしていくのに必要な建物を、作ることができるのだ。
「と言っても、作れるものは、スキルレベルに依存しますけどね」
「じょ、嬢ちゃん。こんなデケえ銭湯立てられくらい、スキルレベル高かったのか?」
「いえ、今日スキルを初めて使いました」
「は!? じゃ、じゃあレベル1で、こんなデケえの立てられるってことか?」
「いいえ。スキルレベルを上げたんですよ。裏技使ってね」
【びにちる】では、キャラクターにレベルが存在するように、スキルにもレベルが存在する。
スキルレベルが上がると効果が拡張する。威力が上がったり、効果範囲が広がったり。
スキルレベルを上げる方法は、スキルを何度も使用する。……それ以外にも、存在する。
「まさか……神の力を使ったのですか?」
「ですです、ルシウムさま」
この神有地には、神の力が眠っている。
神の力は消費アイテムだ。そして……わたしの【採掘】スキルを使えば、取り放題。
「【採掘】スキルで、バフアイテムの神の力を取り出して、それを使って【建築】スキルのレベルを上げたんです」
【びにちる】初心者にありがちなんだけど、神の力を手に入れたプレイヤーは、たいてい、自キャラのレベルを上げてしまいがちだ。
神の力のフレーバーテキストには、『これを使うと神の力によって、強化される』と書いてあるのだ。
しかし肝心の【何を】、という文面が抜けている。そこから、皆自分のレベルを上げるアイテムだって、勝手に思い込んでしまう。
けれど、やりこんでいくうちに、神の力には、スキルレベルも上げられる、ということに気づくのである。
【びにちる】廃プレイヤーだったわたしは、当然、神の力によるスキルレベルアップ方法を、知ってる。
だから待ってる間に、建築レベルを上げておいたのだ。
「さぁ、けが人を中へ運んでください。脱衣所で服を脱いでね。巻いてる包帯もとってください」
衛兵達が、だいぶ困惑してる。みんな包帯まみれだ。
中には、腕がちぎれてる人もいる。顔面に大きな傷ができて、目が潰れてる人も。
「お、おい……どうする……」「入ったら怪我が治るみたいだけどよ……」「うさんくさくないか……」
……衛兵達がひそひそと話し合ってる。まあ、気持ちは分かる。風呂に入れば怪我が治りますよ、なんて急に言われても信じられないだろう。
しかも、言ってるのが、元悪役令嬢のセントリア・ドロなのだから。
疑ってしまうのも当然である。
「皆さん、セントリアさんの言うことを、聞いてはいただけないでしょうか」
「「「領主さま……」」」
ルシウムさまが、皆さんを説得する。
「彼女の言うことを怪しむ気持ちも理解できます。……けれど、彼女が村を、魔物から救ってくれたのは、間違いなく事実です。我々に対する悪意がないことは、明白ではありませんか?」
ルシウムさまがそう言うと、皆さん「まあ、確かに」「領主様がそうおっしゃるなら……」少し、警戒を解いてくれた。
「よし、おまえら、すぐに風呂入るぞ」
アインス村長も、温泉に入る決意をしてくれたようだ。
ぞろぞろ、と衛兵達が男湯へ向かう。わたしもその後についていく。
「ルシウムさま。彼らの怪我が治るか、確認してもらえますか」
「承知しました。では、後ほど」
わたしは女だから、男湯に入るわけにはいかない。
傷口の確認は、男であるルシウムさまに任せよう。
……残されたわたしは、女湯へと向かう。
待ってる間、暇なので、わたしもひとっ風呂浴びるとしよう。
脱衣所も、日本の銭湯のそれと同じだ。籠のなかに、洋風ドレスを入れるの、すごい違和感があった。
……姿見に、わたしの体がチラリと映る。……つり目がちで、人相が悪い。
顔のパーツの配置が神懸かってはいる。……けどよく見ると、肌荒れとかニキビが目立つ。
まあ、しょうがない。セントリアは、わがままお嬢様だったのだ。
大好きなのは、肉料理とお菓子。つまりは油物だ。
野菜? バランスの良い食事? だまりなさいを地で行くような子だったのだ。不摂生がたたって、肌荒れしほうだい、ニキビできほうだいである。
また、貴族なので運動なんてするわけもない。ドレスを脱ぐとちょっとお腹とか二の腕に、たぷたぷのお肉が付いてる。
……まあ、外見の問題は後回しだ。
色々片付いたら、頑張ろう。色々と。
さて。
湯船へと向かう。内風呂と、外風呂、両方付いているのだ。
外には、日本式の露天風呂。
どちらから入ろうか……。
「うぉお! すげえええええ!」
……男湯から、歓声が上がった。
ちょっと気になったので、わたしは女湯から、声を掛ける。
「ルシウムさまー。怪我人達の様子は、どうですかー?」
壁の向こうにいる、ルシウムさまに声をかける。
「皆、怪我が治ってます! 潰れた目も、折れた骨も、ちぎれた腕も! 完璧に元通りに!」
よし、問題なく、治療できてるようだ。
「おぉおお!? 嬢ちゃんこれどうなってんだよ!? まじで温泉入っただけで、みんな怪我が治ってる!?」
この声は、アインス村長だ。
「湯治って言葉、知ってます?」
温泉に入って病気やけがを治療することだ。
「ああ……知ってるけどよ」
「それです」
「いやいやいや! 湯治レベル超えてるから!」
まあ、冗談はさておき。
「その温泉には、神の力が混じってるんです。そこに、上薬草も一緒に入れました。それにより、温泉には【治癒効果】が付与されたんですー」
神の力には、キャラレベル(やスキルレベル)を上げる以外にも、アイテムの性能をアップさせる効果がある。
「上薬草の性能である治癒力が、神の力(入りのお湯)を得て向上したんです。結果、入っただけで、怪我が治る温泉になったんです」
今回、銭湯を作って分かったことがある。
温泉を掘る際に、一緒にアイテムを使うと、そのアイテムの効果が、お湯に付与されるってことだ。
薬草を使って作った温泉は、入ったら怪我が治る温泉となった。
なら他のアイテムを使えば、もっと色んな温泉が作れるかもしれない……。
「これは……夢が広がる」
一方で、ルシウムさまが、壁越しに言う。
「ありがとうございます、セントリアさんー。おかげで、皆さんの怪我が治りました」
「いえいえ、どういたしましてー」
さて、一段落ついたので、わたしはのんびり温泉にでも浸かりますかね。
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