第67話 マニュアル運転
横濱に襲撃してきた鬼、および鬼化魔物を鎮圧した。
鬼になっていた人たちは、土地瞬間移動を使い、ケミスト領へ連れて行く。
烈日さんに後のことを任せ、横濱へと戻ってきた。
「では東都を目指しましょう」
「とーとってどこですかぁ?」
「この極東ヒノコクの中心です」
「ふぇえー……? 中心なのに、東の都って名前なんですかぁ? 変わってますねぇ」
……東都は、現実で言うところの東京都だ。
極東の地理は、現実のそれと同じという設定なのである。
確かに事情を知らない西の人たちからすれば、なんで東京が中心なんだって話になるだろう。
「どうやっていくんですぅ? 徒歩ですぅ?」
「いや、自動車を使います」
「じどーしゃ……?」
わたしは烈日さんから、自動車の使用許可を貰ってる。
彼ら……異能狩りの人たちの詰め所へと向かう。
そこには、現実でもよく見るような、自動車がいくつも並んでいた。
「なんですぅ、この箱?」
「馬を使わない、まあ、馬車みたいなもんですよ」
するとエルメルマータが「セントリアさん何を言ってるんですかぁ?」と小馬鹿にした表情を浮かべる。
「馬を使わずに、馬車が動くわけないじゃあないですかぁ~? えるもおばかさんですがぁ、そこまでじゃあないですよぉう」
全くこの子は……。
「一郎さん、運転は?」
「で、できません……二葉も。いつも使用人に運転して貰っていたので」
なるほど……。
「では、代わりにわたしが運転しますね」
「!? せ、セントリアさんって……西の大陸の人ですよね? 自動車なんて触ったことあるんですか?」
「こっちではないですよ」
【びにちる】における極東は、魔法が使えない代わりに、科学技術が発展してるという設定だ。
それゆえに、現実と同じ、ガソリンで動く自動車が存在する。
無論、これは西の大陸にはないものであり、わたしたち西大陸人には運転できない……。
が。
わたしは、知ってる。運転の仕方を。
運転席に座り、鍵を回す。
ぶぉん! という音とともにエンジンが点火する。
「うひい! 変な音ぉ!」
さっ、とエルメルマータが二葉の後ろに隠れる。
おまえのほうが年上だろうに……まったく……情けない。
わたしはクラッチを操作し、自動車を動かす。
「す、す、すごいですぅ~~~~~~~~~~! 本当に馬もなく動き出したのですぅぅううううううううううう!?」
とまあ、西大陸人からすれば、このリアクションが普通なのだ。
一方で、一郎も驚いてる。
「すごいです……ぼくらには、この自動車の操作、難しくてできないのに……」
「まあ、マニュアル車って動かすの難しいですよね」
令和日本でもそうだった。というか、もうオートマが主流で、マニュアル車なんてほとんどみない。
「セントリアさんセントリアさんっ。えるも、操作したいですぅ~!」
目をキラキラさせながら、エルメルマータが言う。
「いいですよ」
わたしは車から出て、エルメルマータに操作を変わる。
「この鍵を回すでしょ? で……動かす!」
すこんっ。
「あ、あれあれ? 動かなくなったですぅ? もしかしてえるこわしちゃった!? ひぃん! ごめんなさぁい!」
「ああ、違う違う。このクラッチってやつを践まないといけないんですよ」
「くらっち?」
「ええ。ただ鍵を回して動かすんじゃあないんです」
「????? えるにはむずかしすぎるですぅ~……」
まあ、初心者にマニュアル車の運転は不可能だろう。
わたしだって最初はできなかったし。
エルメルマータと運転を代わる。
皆は座席に座る。
「さ、いきますよ」
わたしは自動車を動かす。
「ふぇえ! すごい……ちゃんと動いてるですぅ! あんな難しい操作、よくできますねぇ」
「まあ、慣れてるんで」
エルメルマータがじーっ、と見つめてくる。言いたいことはわかる。
どこで運転の仕方を習ったとか、そういうのを聞きたがっているのだろう。
公用車がマニュアル車だったのだ。だから、マニュアルの免許を取らされたのである。
「えるは、待てる子! セントリアさんがぁ、いつかえるのこと信頼してぇ、秘密を打ち明けてくれるの……待てる子!」
ふふん、とエルメルマータがその大きな胸を張る。
……いつか言うと、わたしは言った。それをちゃんと待ってくれるようだ。
「ありがとう、エルさん」
「ぬへへ~♡ えるは待てる子……! たとえ、なんで西大陸の人が、どうしてこんな複雑そうな魔道具を、一瞬で操れるんだろう、おかしいなぁ、って思ってても、言わない子……!」
……いいえ、違いますよ。
あなたは残念な子です。




