第63話 鬼への対策に温泉に入る
「それじゃあ、さっそく極東へ、れっつらごーでーすぅ~」
エルメルマータが手を上げて言う。
「その前に、やることがあります」
「ふぇええー……? まだやることあるんですかぁ~?」
出鼻をくじかれたエルメルマータが、わたしを見て尋ねてきた。
「はい。これから行くのは、鬼の巣窟。きちんと対策が必要となります」
「対策ぅ~? なんのです?」
「鬼に噛まれた際の、鬼にならないようにする……対策です」
鬼には……というか鬼の王には、かんだ相手を鬼にする能力がある。
無策で行けば、全員鬼になって終わり……という可能性はある。
「確かにぃ。でもでもでも、どうするんですかぁ? まさかぁ~。温泉に入るとか、さすがにないですよねぇ~?」
「はい、温泉に入るんですよ」
「ふぇえええええええ!? またですかぁ~~~~~~~~~~!?」
エルメルマータが大げさに驚いている。
「ええ、またです」
「なんかワンパターンですぅ~? なんでもかんでも温泉で解決させすぎじゃあ?」
「強みを生かした戦い方、と言ってくださいな」
わたし、セントリア・ドロの強みは原作知識、そして土地神の加護だ。
土地神の加護を、最大限利用できる形、それが……ケミスト領で温泉を作ることなのである。
「美容温泉、魔力温泉とかみたいにぃ、入ると鬼に襲われなくなる温泉でも作るんですかぁ? なーんて」
「その通りですよ」
一郎と二葉が目を輝かせる。
「すごいです……温泉って何でもできるんですね!」
「温泉すごいです!」
いやいやいや、とエルメルマータが首を横に振る。
「普通の温泉にそんなことできないですぅ。セントリアさんの温泉がおかしいんですぅ?」
「オカシイ? すごいってこと?」
「変って事ですよぉ! 一郎くぅん! 二葉ちゃん! そこ間違えちゃだめですよおぉ!?」
エルメルマータが一条兄妹の肩を揺すっている。
……さて、では鬼に襲われなくなる温泉を作ろう。
「実際どうやって作るんですかぁ?」
「妖精花を使います」
「よーせーか……? なんですぅ?」
「特殊な場所にしか咲かない、妖精達の媒介となる、特別な花です。これには鬼を避ける効果があるんです」
「ふぇー……! そ、そんなものあるんですかぁ!?」
「ええ、あるのです」
つまり、だ。
妖精花を、温泉に入れる。で、そこに入れば、鬼避けの温泉が完成するってわけだ。
たとえ鬼に襲われて、噛まれそうになっても、鬼よけが発動し、鬼にならない。
「でもでも、妖精花なんて、一体どこにあるんですぅ?」
「特別な花なんですよねぇ? 希少なんじゃあ……?」
「そうですね。こっちでは、ね」
「ふぇ……? どゆことー?」
わたしは横濱で仕入れておいた【それ】を、ポシェットから取り出す。
「はい、これ」
「それって……篝火花ですよ?」
と一郎が言う。
「かがりひばなぁ?」
「はい。ヒノコクでは、普通に生えてる花です。観賞用に使われてる、ありふれた花なんですけど……」
篝火花。これは、日本で言うところの、シクラメンだ。
そう……極東には、鬼避けの原料となる花である、シクラメンが普通に生えているのである。
「篝火花には、鬼を避ける力があるのです。これを温泉に入れます」
「へー!」「知らなかったぁ……!」
純粋な子供たちは、素直に驚いてる。
一方で、エルメルマータがジト目を向けてくる。
「あのぉ~? さすがにえるも、バカじゃあないんですがぁ?」
……なんでそんなことを知ってるんだと、言いたくなる気持ちも理解できる。
答えは簡単、【びにちる】をやりこんでいるから。
ゲーム内時間での、未来において、この篝火花には鬼を避ける効果があると発見されるのである。
「内密にお願いしますね」
「いやいや! あの、まあ、別にいいですけどっ? えるのことも、少しはその、信用して欲しいんですけどぉ!?」
まあ、エルメルマータが言いたいことも理解できる。
それに、仲間だとも思っている。そこまではわかる。
けど……この子に真実を話して、理解してもらえるとは……思えない。
……いや、違うな。怖いんだ。
真実を言って、それで……きらわれてしまうことが。
まだ……。
「ごめんなさい。でも……勘違いしないで。あなたを信用してないってわけじゃあないんです」
エルメルマータがわたしを見て、小さく息をつく。
「わかったですぅ~。える、セントリアさんが言ってくれるの、待ってあげるですぅ~」
にぱっ、と笑うエルメルマータ。
……いい人だな、ほんと。そんな人に、どうして言うのをためらっているんだろう、わたし。
「さぁ! さっそく篝火花いりの温泉に作って入りましょう!」
ぱっ、と採掘スキルで温泉を作り、そこに篝火花を投入する。
「さくっとお風呂はいっちゃいましょう。さぁ皆さん、お早く」
「ちょっとまてぇえええええええええええええええええええい!」
エルメルマータが叫ぶ。
「どうしたのですか?」
「温泉一個しかないんですぅ!?」
「ええ。どうして?」
「彼男でしょ!? 男湯……必要でしょ!? 女の子と一緒にお風呂はだめでしょぉ!?」
まあ、そうかもしれない。
「ですが子供ですよ? しかも二葉ちゃんは一郎くんと兄妹です。別に一緒にお風呂入っても問題ないのでは?」
「健全な青少年の性癖を、えるのバリボーなおっぱいで、ゆがませてしまったらどうするんですかぁ……!?」
……自分で言うか、バリボーって。
まあでも、確かに、いくら相手が子供だからって、男女同じはまずかったか。
「では一条兄妹が先に入ってください。わたしとエルさんは後から入りましょう」
「「は、はい……」」
一条兄妹が着替えに脱衣所へと向かう。
一方で、エルメルマータがため息をつく。
「セントリアさんはぁ、もうちょっと人の心を理解した方が良いですぅ」
「……人の心、わかってないですかね、わたし」
……そう言われて、わたしの脳裏をよぎったのは、もう一人の転生者のことだ。
コビゥル。あの女も、この現実を、ゲームととらえていた。
この現実に生きる人たちを、ゲームのキャラだと思って、好き放題していた。
……人の心がわからないという点において、わたしもあいつと同じ……なのかもしれない。
「うーん、なんかそんな深刻な顔しないでほしいですよぉ~?」
「え?」
「別にぃ、セントリアさんが人の心を全く理解してない、冷たい人ってぇ意味じゃあないですよぉ」
「え? じゃあどういう意味……?」
「もうちょっとですね、青少年の気持ちを理解してーって意味ですぅ?」
「??????」
……な、なんだ。どういうことなんだ……?
「男心ってぇ言えばいいんですかねぇ? えるはほら! けーけんほーふなので、男の心とかわかっちゃうんだなぁ~?」
「……なんだそれ。男に騙されたくせに」
「うが! え、えるの最大の黒歴史を……!」
百面相を繰り出すエルメルマータが、おかしくて、わたしは思わず吹き出してしまう。
「よかったぁ、笑ってくれた」
「え?」
「ずっと、セントリアさん険しい顔してたですぅ」
「そんな顔してました?」
「ですですぅ。……一人で考え込んだり、背負い込んだりしなくていいんですよぉ。えるもいますし、ルシウムさんもいるんですぅ。もっと頼って、ね?」
……人を頼る、か。
今まで、そんなことしてこなかったな。
わたしは、【びにちる】が好きだ。なぜって、一人用ゲームだからって理由が大きい。
昨今の、オンラインゲームっていうのは、どうにも、わたしには向かなかった。
一人で、自由に、色んな事ができる。それがゲームの醍醐味だと思っていた。
……でも。
ゲームって、確かに一人でやるものだけじゃあない。
特に、この人生ってゲームは、一人用ゲームじゃあないのだ。
「頼りにしてますよ、エルさん」
「頼りにしまくってくださいよぉ~♡ ところでぇ、なんで色々知ってるのか、えるにそろそろ教えてほしいなぁ~なんて」
「駄目です」
「んがー! どうしてぇ? 教える流れじゃんかー!」
「とりあえず、最初は貴方じゃあない」
「? ははーん、にゃるほどねぇ~~~~~~~~~~~~」
エルメルマータがニマニマ笑いながら、わたしの頬を突く。
「なるほどなるほどなるほどぉ~? 愛しのダーリンが一番ってぇわけだぁ?」
「……まあ、そういうことです」
「ん。いーよいーよ、えるはおねえさんだから、我慢してあげるですぅっ。える、おねえさんですからっ!」
……仲間と協力して、人生をプレイするのも、いいものだって、そう思った。
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