第62話 つぼ風呂に入って異能開花
一郎には、異能がある。
それもこの異能社会において、とても希有かつ強力な異能だ。
しかし、彼は異能がないと言う。
自らを落ちこぼれと断じてしまっている。
この先の、極東での戦いにおいて、一郎の異能はなくてはならない。
だからわたしは、一郎の異能を使えるようにする。
「そのために、温泉ですかぁ~?」
わたしたちは領主の古城へとやってきた。
エルメルマータが言う。
「どんな問題も、温泉入れば即解決、ってなってきましたけどぉ、さすがに今回は無理ではないですかぁ?」
「そうですよ」
一郎が俯きながら言う。
「ぼくには才能がないんです……風呂入ったくらいで、才能が開花するわけない……」
「あ、ご、ごめぇん……一郎くん。別にその、君を落ち込ませたくて言ったんじゃあなくて……あうあう……」
エルメルマータがぎゅううう、と一郎を抱きしめながら言う。
その無駄にでかいおっぱいに、一郎が挟まれてトンデモナイことになっていた……。
男子からすれば、喜ばしいシチュだというのに、彼の表情はくもったままである。
「大丈夫。わたしに任せてください。絶対に君に、異能を使えるようにしてみますので」
「……どうして、そんなに自信満々なのですか?」
「君が凄いことを、わたしが知ってるからです」
【びにちる】において、一条 一郎は強キャラの一人だった。
彼の使う【あの異能】は、本当に凄かった。
わたしは、知ってる。彼の可能性を。
才能の芽が潰れるまえに、腐ってほしくないのだ。
ややあって。
古城の裏庭にて。
「さ、一郎くん。これに入ってください」
わたしがペンペン、と【それ】を叩きながら言う。
「えっと……?」
「セントリアさん、なんですぅ、この……でっかぁいツボは……?」
わたしの隣には、人間の子供サイズの、ツボが置いてある。
壺の中には並々とお湯が入っている。
「ツボ風呂です」
「つぼ……ぶろ……?」
「はい。湯船がツボになっているお風呂です。さ、一郎くん入って」
「え、え、え?」
「いいからほら」
わたしは彼の背中をぐいぐいと押して、脱衣所へと向かわせる。
一郎は困惑しながらも、服を脱ぎに行った。
残された二葉が首をかしげる。
「お姉様、これで本当に、兄さんは異能が使えるようになるんですか?」
「バッチリですよ」
エルメルマータはじろじろとツボを見やる。
「なーんか窮屈そうじゃあないですかぁ?」
「そうですね、手足は湯船のなかで伸ばせないかと」
「ふぇえ……。温泉の良さを完全に殺してるじゃあないですかぁ」
彼女の言うとおり、手足を伸ばせるのが、温泉の良いところだ。
「まあ、入ればわかりますよ」
ほどなくして、一郎が帰ってくる。
彼は言われたとおり、ツボ風呂に入る。
「…………」
彼は微妙な顔をしていた。多分窮屈なんだろう。
「あの……」
「良いから黙って風呂に入りなさい」
「はひ……」
彼は何度も体勢を変えた。
やがて、両足をツボの外に出す、というスタイルで落ち着いたようである。
「ふぅ……」
両手を壺の縁にまわし、足を外に出す。
すると、自然と目線が上……空へと向く。
「あの……どうすれば……?」
「しばらくぼーっとしてなさい。ああ、一つアドバイスが」
「なんですか?」
「ぼーっと空を見ながら、頭を空っぽにしなさい。そして、内なる声に耳を傾けるのです」
「???????」
「さすれば貴方は異能に目覚めることでしょう」
わたしたちは彼の側から離れる。
彼はぼーっと空を眺めている。
エルメルマータがしびれを切らしたように、わたしに言う。
「あの温泉に、異能が使えるような効能があるんですかぁ?」
「ないです」
「ないですぅうううううううううううう!? あいたっ」
うるさかったので、エルメルマータの頭を軽く小突く。
「え、え、えー……じゃあどうして風呂になんて入れさせたんです?」
「内なる声に、耳を傾けるためですよ」
「ふぇええ……? 難しいこと言わないでくださいよぉ。えるお馬鹿さんだからわからないですよぉ」
「まあ、エルさんがバカだからというより、エルさんは西大陸出身者だから、多分わからないでしょうね」
「ふぇー………………。ん? 遠回しにえるのこと、バカって言いました? ねえ?」
さて……彼を観察しよう。
彼はしばらく空を眺めていた。
だが、やがて……つぶやく。
「こんなことしてて、いいのかな……」
彼が独り言を言い出した。
いいぞ。
「うん……だって、みんな、戦ってるのに……いや、戦いたくないよ。でも……みんなが傷つくのは、嫌なんだ。……どうしてって……」
ぶつぶつとつぶやく一郎を見て、エルメルマータが青ざめたかおで言う。
「い、一郎くん、どうしちゃったんですかぁ? ブツブツ独り言言って……」
「内なる声と対話してるんですよ」
「意味不明なんですがぁ」
「上手く行ったみたいです。しばらく待ちましょう」
ややあって。
一郎が風呂から上がってきた。
「エルさん」
「ふぇ? なんですぅ?」
「彼に魔法矢を打ち込んで」
「ふぁ……!? な、何言ってるんですかばかですかぁ!?」
エルメルマータが怒りながら言う。
「そんな危ないことできるわけないじゃあないですか!」
「いいから、撃って」
「無理! 無理無理の無理! 子供にそんな酷いことできませんっ!」
やれやれ……。
一方、一郎が言う。
「あの、エルさん。撃ってください」
と、自らそう提案してきたのだ。
「ふぇ……!? な、なんで……?」
「あの、多分ですけど……ぼく、あなたの魔法矢を打ち消せます」
「ど、どういう……?」
「おねがいします。力を……試したいんです」
エルメルマータは不審がりながらも、「わ、わかったよぅ」といって魔法矢を構える。
威力を最小限にしぼって、かつ、急所を外して、魔法矢を放った。
大丈夫だって言ったのに……。
飛んでいった魔法矢が、一郎にぶつかる……。
パキィンッ……!
と、硝子が割れるような音とともに、魔法矢が砕け散ったのだ。
「ふぇええええええええ!? ま、魔法矢が消えたですぅううううううううううう!?」
よし、上手く行ったようだ。
「対話はできましたか?」
「はい。できました」
よしよし。これで一郎は異能が使えるようになった。
「どどど、どういうことですかっ?」
「一郎が異能を使ったんですよ。【異能殺し】の異能をね」
「いのうごろし……?」
「異能無効化能力、とでもいえばいいですかね。魔法や異能を殺す……打ち消すことができる力が、彼には備わっているんですよ」
「ふぁあー……なんで知ってるんですか?」
「知ってるからです」
「……なんか最近説明が雑になってませんかぁ?」
気のせいだ。
「異能殺しの力があったから、魔法矢が消えたのは……まあわかりましたけどぉ。でも、どうして急に使えるようになったんですぅ?」
「それは彼が、自分と向き合ったからです」
「自分と、向き合う……?」
「はい。彼は、今まで自分に異能がないと決めつけて、そこで思考停止していました。自分の中にある、力や、可能性に……目を向けていなかったのです」
そこで……ツボ風呂である。
「ツボ風呂は、狭いので、体を動かせない。空を見ながら、ぼーっと風呂に入る。最初は何もかんがえてなくても、次第に、あれこれ考えるようになるんです」
「なるほどぉ……確かに考え事するのは最適ですねぇ。お湯の温度もそこまで高くないし……って、温度も調整してるんですかまさか」
「もちろん」
あと、体がリラックスできるように、成分を調整してある。
「そっかぁ。リラックスしながら、自分と向き合った結果、自分の中にある可能性に気づけたんですねぇ」
「まあそれと、彼の中には、異能を与える存在がいるんですよ。それと対話したんです」
「異能を与える存在……?」
「はい。ヒノコクの人間には、体の中にそういう特殊な存在がいるんです。それと会話することが、異能上達に繋がるんです」
一郎はわたしに頭を下げる。
「ありがとうございます。セントリアさん……。まさか、おばあさまと同じ異能が、ぼくの中にもあるなんて……」
兄が晴れやかな表情を浮かべているのをみて、二葉が目に涙をためながら、頭を下げる。
「ありがとう、姉様っ!」
よし、これで一郎の異能も使えるようになった。
「あのぉ~……。なんで極東の人しか知らないことを、セントリアさんが知ってるとかってぇ……聞いちゃ駄目な雰囲気ですかぁ~~?」
「ええ。この件は内密に」
「はひぃん……謎多き女性ですぅ……」
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