第59話 仲間の信頼
その後、わたしたちは手分けして、横濱に設置された結界石を回収した。
結界石を回収するたび、結界の規模は小さくなっていった。
全ての結界石を回収すると、完全に、結界は消えたのだった。
一郎たちといったん合流。
「これからどうするんですぅ?」
「まずは横濱の人たちを、ケミスト領へ連れて帰ります」
「鬼から人に戻すんですねぇ?」
「そういうことです」
鬼になった人たちは、ケミスト領の温泉に入ることで、人に戻すことができるのだ。
わたしの転移スキルを使えば、一瞬で、帰還できる。
「でもでも、横浜の人たち全員を移動するとなると、かなり大変ですよぉ?」
エルメルマータの言う通りだ。現在、横濱の人間は全員鬼になってる。
かなりの人数がいる。彼らを全員移動となると、なかなかに骨が折れる。
わたしの転移スキルは、わたし自身、およびわたしが触れている人にしか適応されない。
転移できる人数に、限りがあるのだ。
時間をかければ、全員を転移させられるだろう。でも時間が経過すればするほど、鬼による被害がひろがっていく。
かといって、麻酔で眠らせてる横濱の人たちも、いずれ目を覚まして、動き出してしまう。
手早く、彼らを横濱からケミスト領へ移動させる必要があった。
「そこで、この結界石、そして、あなたたちの協力が必要となります」
わたしはエルメルマータ、一郎、二葉に、結界石を渡す。
「どうするんですかぁ?」
「今からこの四人で、横濱に再度結界を張ります」
「ふぁ? 解いた結界を、もう一度貼り直すってことですかぁ?」
「そういうことです。転移を使って、この街の、東西南北に、あなたたちをそれぞれ配備させます。わたしのあいずで結界石を地面に打ち込んでください」
三人ともが首を傾げている。
まあ、そうなる。結界を一回解いたのに、なんで貼り直すのかって。
「口で説明するより、実際見た方が早いです。今はわたしを信じて」
「わかったですぅ〜!」
一条兄妹も、わたしを信じてくれたらしく、うなずいた。
わたしはスキルを使って、この街の東西南北に、人員を配置する。
銃を取り出して、空に向かって発砲。
それと同時に、結界を張る。
ずずずう、と簡易結界が構築される。街を結界が覆っていく。
ドーム城の結界が、次第に小さくなっていく。
小さく、小さく、なっていく。よし。
わたしは転移し、仲間たちを回収。
結界の中心点には、黒くて小さな球体が浮かんでいた。
「これなんですぅ?」
「簡易結界ですよ」
「ふぁ!? え、結界こんなちっちゃくできるんですかぁ!?」
「はい。結界は、こんなふうに条件を書き換えることができるんです」
「条件?」
「そう、結界を構築しようとした際に、大きさ。そして、中に何を閉じ込め、何を閉じ込めないか。みたいに、色々と条件をいじることができるんです」
今回は結界のサイズを球体に、そして中にいる鬼だけを閉じ込める、と結界の条件を書き換えたのだ。
「条件を書き換えるためには、一度結界を解除し、貼り直す必要がありました」
「なるほどぉ。だから結界石を回収したんですねぇ」
あとは、結界を張り直せば、こうして鬼だけを回収した結界が完成するというわけだ。
わたしは球体を手に取る。
「すごいなぁ、セントリアお姉様は! って、兄さん、どうしたの?」
一郎がこちらに、不審そうな眼差しを向けてきた。
まあ、わかる。
「……結界の条件を変えられるのは、結界師なら誰でも知ってること」
「うん、なら何がおかしいの? 兄さん?」
「結界師しか、知らないことなんだよ?」
極東の結界師、もっといえば一条家しか知らないことを、どうしてわたしが知ってるか。
一郎は、そう思ってるようだ。
もちろん、わたしがそれを知ってるのは、【びにちる】というゲームをやりこんでいるからだ。
でも、この世界に住んでいる彼らからすれば、なんのことを言ってるのかさっぱりだろう。
本来知らないはずのことを、知ってる。それが、超機密なら、なおのこと、こいつは何ものだと疑いたくなる気持ちは理解できる。
さて、なんと説明しよう。
「ままま、いいじゃあないですかぁ〜」
エルメルマータが、にぱーと笑いながらいう。
「彼女が何を知ってようと、セントリアさんはセントリアさんです。優しくて、お節介焼きな、ケミスト領主の妻。それ以上でも以下でもないですよぉ」
「エルさん……」
きっとエルメルマータも、わたしが何かを隠してると、わかってるのだろう。
わかったうえで、聞いてこない。
それは無知がゆえにではない。
……わたしを、悪人ではないと、信じてくれているから。
そんな、信頼が、彼女からは伝わってくる。
「セントリアさんは悪い人じゃあないって、えるが保証するですぅ」
「……そうですね。疑ってすみませんでした」
ぺこ、と一郎が頭を下げる。
「こちらこそ、すみません。別に君たちを騙そうとか、そういうつもりではないんです。ただ、説明ができないんです」
「わかりました」
エルメルマータのおかげで、一郎からの疑いを晴らすことができた。
「ありがとう、エルさん」
「どういたしましてですぅ〜」
……仲間って、いいものだなって、そう思った。
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