第55話 鬼の力
「あぶないですぅ……!」
エルメルマータがわたしを突き飛ばす。
わたしが居た場所に、上空から、凄まじい速さで何かが落ちてくる。
「鬼……!」
しかも、ツノありの鬼だ。
目の良いエルメルマータは、上空から襲いかかってきた、ツノ鬼の動きが見えていたのだろう。
「エルさん! 腕が……!」
エルメルマータの利き腕である右腕が、肘のあたりでちぎれていた。
「えるは大丈夫ですぅ! セントリアさんは、撤退を……!」
エルメルマータが傷口をヒモで縛って、止血する
土地瞬間移動を使えば撤退できる。しかし……。
「駄目です」
「ガゥウウ……!」
襲い来るツノ鬼相手に、エルメルマータが短刀で相手取る。
「どうして!?」
「ここは……領域結界の中だからです」
「領域結界……?」
わたしはこのイベントを、【びにちる】でやったことがある。
「特別な力を使って、相手を閉じ込めることに特化した結界です。現在横濱には、それが展開されています」
現に、土地瞬間移動が発動しない。
やはり、ゲームでやったときと同じ、離脱不可能な結界の中に、我々は閉じ込められてしまってるようだ。
キンッ!
ガキィイン!
エルメルマータの持っていた短刀の刃が、半ばで折れる。
「で、でも……どうして? ぼくたち、結界のなかに入って来れたのに……」
「領域結界は、閉じ込める結界です。外から入ることはできます」
外から入る意味がないのだ。
入れば、出れなくなる結界なのだから。
「ど、どうしよう……」
一郎が震えてる。
ツノありの鬼は、思った以上に強い。
わたしの銃弾を軽々避けてみせる。
超優秀な狩人の目でも、敵の動きについていくのがやっとだ。
戦闘員が負傷してるので、こちらがかなり不利な状況である。
……土地神の加護は、基本的に、戦闘向きの加護ではない。
わたしの力でツノ鬼を倒すことはできない。
「一郎さん。異能を、使ってください」
極東人たちは、異能と呼ばれる特殊能力を使えるのだ。
特に、この一条 一郎は、とてつもない異能を秘めている。
【びにちる】では、何度も、彼の強力な異能に助けられた。
「む、無理です……。ぼ、ぼく……異能使えなくて……」
……異能が使えない?
おかしい、【びにちる】では、一郎は普通に、異能を自在に操っていたのに。
主人公が転生者だったときのように、ゲーム時代とは、別の、イレギュラーな事態が起きてるのかもしれない。
「うあぁああああああ!」
「エルさん!」
武器を失ったエルメルマータが、ツノ鬼に殴られて、宙を舞う。
わたしは落下地点に先回りして、エルメルマータを受け止める。
エルメルマータはだいぶ疲弊していた。
むしろ片腕で、ここまで良く持ちこたえたものだ。
「がぁああああああああああああ!」
「う、うわぁあああああああああああああああ!」
ツノ鬼が一郎めがけて襲いかかる。
「兄さん……! 危ない……!」
一郎の前に立ち塞がったのは、妹の二葉だ。
「二葉ぁ……!」
ツノ鬼の強さは、片腕エルメルマータ(S級冒険者)以上だ。
か弱い少女では決して太刀打ちできない。
ツノ鬼の爪が、二葉の首を切り飛ばそうとしていた……。
バキィン……!
「……………………え?」
ツノ鬼の爪が、全部折れていた。
「あ、ああ……! ふ、二葉!? お、おまえ……そのツノ!」
……二葉の額から、ツノが……生えていた。
目の前の、ツノ鬼のように。
つまり……二葉は再び鬼化していたのだ。
……鬼となった二葉が、ツノ鬼の爪を、軽々と破壊したのだろう。
二葉がツノ鬼を蹴飛ばす。
ツノ鬼は砲弾のごときスピードでぶっ飛んでいき、近くの建物の壁に激突した。
なんて、パワー……。いや、それよ
も……。
「そんな……二葉……せっかく治ったのに……また、暴走しちゃうなんて……」
落ち込む一郎に向かって、
「誰が暴走しちゃうって、兄さん?」
額から角が生え、完全に鬼化したはずの二葉が……。
こちらを向いて、微笑んでいたのだ。
「え、え、ええっ!? 二葉……おまえ、大丈夫なのか?」
「うん、なんかへーき。前みたいに頭にもやかかってない。考えがクリアで、それでいて……体が羽みたいに軽いの」
……それは、つまり。
「鬼の力を、完璧にコントロールできてるってことですね」
「うん。今はもう、鬼の力を、手足のように自在に使える」
ぎゅっぱぎゅっぱ、と二葉が手を開いたり閉じたりする。
二葉がぶっ飛ばしたはずのツノ鬼が、苦しそうに唸り声を上げながら、壁から這い出てくる。
「皆、ちょっと待っててね。アタシが、あいつやっつけちゃうから……!」
二葉が地面を蹴って、超スピードでツノ鬼へ接近。
残されたエルメルマータが、つぶやく。
「でもぉ、どうして急に、鬼の力をコントロールできるようになったんですぅ~?」
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