第53話 極東へ
領主の古城の応接間。
ソファには一条兄妹が座っている。
二葉は、家にあった女性用のドレスの上から、極東の羽織をきている。
鬼化が解けたことで、この子がとても美人さんであることがわかった。
墨のように美しい髪の毛。
ルビーのように、綺麗な赤い瞳。
スレンダーで、体には無駄な肉が付いていない。
読者モデルと言っても、通用するくらいの、美人だ。
「良かったぁ~……。さぁ、二葉。お家に帰ろう。屋敷の皆が心配して……あいたっ」
ソファに座っている一郎の頭を、二葉が小突く。
「ど、どうしたの二葉……?」
「どうしたじゃあないでしょっ、兄さんっ」
ぷんすか、と二葉が怒っている。
「帰るのは、この人達に恩を返してからでしょっ?」
「あ、そ、そうか……。そうだよね。お世話になったのに、何もせずはいさよなら、なんて失礼だもんね……」
二葉はどうやら真面目な子のようだ。
ちゃんと恩を返そうとしている。
一方で、一郎のほうはおおらかな子っぽいな。
【びにちる】では、妹が死んで、闇オチし、鬼絶対殺すみたいな感じになっていたんだけど……。
これが本来の姿なんだろう。
「改めて、助けていただき、ありがとうございました。このご恩、一生かけて、お返しいたします!」
二葉がぺこりとわたしたちに頭を下げる。
一生かけてって……。
「アタシ、ここで働きます。働かせてくださいっ!」
「えー! そ、そんな……! 二葉、どういうことだよ急にっ」
「どうもこうも、ここで働いて、恩返しをするってことよ、兄さん。人手が足りないらしいし」
まあ確かにケミスト領は人材不足だ。
この子がうちにきてくれた、大助かりである。
特に、この子達は極東の出身だ。
つまりこの大陸では珍しい力を【持っている】のだ。
「気にしなくて良いんですよ、二葉さん」
ルシウムさまがニコニコ笑いながら、彼女らに言う。
「君たちはまだ子供です。困ってる子供を助けてあげるのは、大人として当然のこと。なので、恩を返す必要なんて一切ないんです。お兄さんと一緒に、極東ヒノコクへ帰りなさい」
……優しいルシウムさまのことだから、まあ、こういうだろうなと予想はしていた。
「ありがとうございます。でも……! あたしはここで働きたいです!」
「ええー……二葉。せっかく気にしないで良いって言ってくれてるのに? どうして?」
すると二葉は真剣な表情で言う。
「ここで働く代わりに、極東の、鬼化で困っている人たちを、ここで治療させてほしいんです」
そういえば、今鬼の王が、極東で猛威を振るっているといっていた。
鬼の王に血を吸われると、強制的に眷属になってしまう。
今のところ、鬼化を解く方法は存在しない。……ただ一つ、ケミスト領の温泉以外に。
「アタシは一生ただ働きで良いので、極東の皆を……元に戻してあげて欲しいんです」
お兄ちゃんである一郎が、バッ、と頭を下げる。
「ぼくからもお願いします! 妹の代わりにぼくが、ただ働きしますので! どうか!」
……どうやら一条兄妹は、二人とも、極東にいる他の鬼になってしまった人たちを治して欲しいみたい。
そのために、自分が犠牲になろうとしてると……。
わたしはため息をつく。
「ルシウムさま」
「ええ」
「ありがとうございます」
一郎が首をかしげている。
わたしとルシウムさまのやりとりが理解できなかったんだろう。
「一郎くんはわかってないなぁ~♡ これはですねぇ、愛する人たちのアイコンタクトってぇやつですょ~♡」
一方で、エルメルマータがニヤニヤ笑いながら言う。
「つーといえば、かー。ルシウムさまとセントリアさんは、思いを共有してるんです。だから、余計なことを言わないのですよぉ~♡ ラブ~♡」
……まあ、その通りなんだけど、他人に言われると、気恥ずかしいのでやめて欲しい。
「えっと……結局どういうことなんですか?」
「鬼化を解くために、わたしが極東へ行きます。ルシウムさまは、それを許可なさってくださったのです」
「!? い、いいんですか?」
「ええ」
ルシウムさまも、それを望んでいるように思えた。
あの人は、とても……優しい人だから。
我々には関係ないと、捨て置くなんて選択肢、わたしにはなかった。
「もちろんえるも護衛でついてきますよぉ~!」
「それは心強いです」
エルメルマータが居れば、まあ、大丈夫だろう。
「「ありがとうございますっ」」
一条兄妹がそろって頭を下げる。
「さ、ではさっそく参りましょうか」
極東ヒノコクへいく通常ルートは……。
まずウォズという港町まで行く必要がある。
そこから、船で数日、東へ向かう必要がある。
通常なら10日はかかる。
「ぼく、村で遠征のための準備してきます!」
「必要ありません」
「え? で、でも……10日はかかる旅ですよ?」
一郎が首をかしげる。
「わたしは……裏技を使えるんです」
「うらわざ……?」
ちょいちょい、とわたしは一条兄妹、そしてエルメルマータを手招きする。
「では、ルシウムさま。いってまいります」
「ええ、いってらっしゃい。気をつけて」
この人を不安にさせるわけにはいかないので、最短、最速で……問題を解決して帰ってこよう。
「【土地瞬間移動】、極東ヒノコクへ」
一瞬視界がぶれる。
そしてわたしたちは、漁港へと移動していた。
ウォズではない。
極東の玄関である、【横濱】へ。
「えええええ!? ここ、よ、横濱だよぉ!?」
「す、すごいです! 一瞬で移動してしまいました!?」
驚く一条兄妹。
「はえー……まさか、セントリアさん、ヒノコクにまでいったことあるなんてぇ~」
……無論この【びにちる】というゲームをやりこんだわたしは、極東ヒノコクへ行ったことがある。
ゲームの中で、だけども。
だから土地瞬間移動が適用されるのだ。
帝国の時と、同じように。
さ、ではサクッと問題にとりかかるとしよう。
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!




