第52話 鬼を元に戻す
鬼兄妹を連れて、古城の露天風呂へと向かう。
その道すがら、どうして妹が鬼になってしまったのかを、一郎に尋ねる。
「今……極東には一人の鬼の王がいるんです」
「鬼の王……ああ……」
「知ってるんですか?」
「まあ、なんとなくは」
……【びにちる】にも、あったな。そういうイベント。
鬼の王を討伐するというミッションが。
……まあ、それは聖女がすべき課題なので、わたしはスルーする。
「鬼の王は、血を吸うことで鬼を増やせるのです。そのせいで、極東人は次々と鬼にされてしまってます……」
「なるほど、で、怪異狩りに狩られると」
「はい……って、お姉さん、西大陸のひとなのに、怪異狩りをご存知なんですね」
極東には、妖魔という、人外が住んでいる。
人外を狩るものたちのことを、怪異狩りという。
「二葉も怪異狩りに殺されそうになったんです。その前に逃げてきて……」
事情を聞いてしまうと……放っておけなくなる。
早く治してあげないと。
ややあって。
わたしたちは露天風呂へとやってきた。
「解呪の温泉に入れるんですかぁ?」
エルメルマータが尋ねてくる。
「いえ、解呪ではないです。鬼化は状態異常ではないので」
魅了や宝石呪とちがって、鬼化はあくまで、体質の変化だ。
「じゃあどうするんですかぁ?」
「こちらのお湯に入れてください」
わたしが指さした先をみて、ルシウムさまが、誰よりも早くわたしの意図に気づく。
「なるほど……そういうことですか」
ルシウムさま以外は、どういうことなのか、わかっていない様子。
一郎は指定された温泉の中に、妹を付ける。
「うぐ……! ぎ、が、あぁあああああああああああああああああ!」
突如として、二葉が苦しみ出す。
「!? つ、ツノが小さくなってく!? 牙も!?」
鬼の特徴である牙と爪が引っ込んでいく。
「がぁああああああああああ!」
二葉が温泉から這い出ようとする。
鬼の細胞が、抵抗しているのだろう。
「えるが気絶させます……!」
エルメルマータが魔法矢で狙撃する。
けれど、二葉はそれを回避して見せた。
「な……!? ど、どうして……」
「鬼化をとかれたくないから、決死の抵抗を見せてるのでしょう」
二葉が飛び上がって、温泉から脱出しようとする。
そのまま逃げられては困る。
わたしは銃を取り出して、ズガンッ……!
と発砲。
「どこ撃ってるんですかぁ!? 当たってないですよぅ!」
エルメルマータが狙撃するも、空中で、二葉が回避する。
空を蹴って、二葉が温泉から離れようとした……そのときだった。
『【氷神】!』
がきぃいん!
一瞬にして、二葉が凍り付く。そのまま温泉にドボンッ! と大きな音を立てながら落ちた。
『あたしが来た……!』
すちゃっ。とフェンリルのふぇる子が、わたしたちの前に参上する。
「フェンリルさまが、なんでここにぃ?」
『銃声が聞こえたからね。セントリアに何かあったのかって様子を見にきてやったのよ。感謝なさい!』
ふふん、とふぇる子が得意げに鼻を鳴らす。
「なるほどぉ。フェンリルさまを呼ぶための発砲だったんですねぇ。我々では対処不可能だから、神獣に頼る。さすがの状況判断力ですぅ」
氷付けされた二葉が、温泉に浸かっている。
氷はみるみる溶けるも、二葉は目を覚まさない。
「はえ? 動かないですぅ? なんで?」
「氷神は相手を一瞬で氷付けにするだけでなく、相手のMPをゼロにしますので」
精神力と直結してるMPを失った二葉は、気を失ったというわけだ。
温泉に浸かること、しばし。
「あれ……? ここは……?」
「二葉ぁ……!」
一郎が二葉のもとへ駆けつける。
そして、だきっ! と強くハグする。
「あれ……? お兄ちゃん……? どうして泣いてるの……?」
「治ってよかったぁ、よかったよぉおお……! うわぁあああああああああああああん!」
大泣きする一郎。
良かった、狙い通り、元に戻って。
「それにしてもぉ、どういう理屈で、鬼化が治ったんですかぁ?」
エルメルマータがわたしに尋ねてくる。
それにたいして、ルシウムさまが応えてくれた。
「二葉さんを、若返りの湯に入れたんですよ」
「若返りの湯……?」
「ええ。ここには、入ると若返る温泉があるんです。私も入ったことがあるんです。肉体がたちまち、数十年若返りました。おかげで、体の痛みや体力の衰えが治ったのです」
「! そ、そうか! える、わかりましたよ!」
ここまで言えば、エルメルマータも理解したようだ。
「鬼化は体の変化……。若返りの湯にいれることで、体を変化する前まで、戻した(若返らせた)ってことですねぇ!」
結果、狙い通り、二葉を元に戻すことに成功したというわけだ。
「ありがとうございます、お姉さん!」
涙をながしながら、一郎が頭を下げる。
「正直……もう、駄目かと思いました。みんなみたいに、ただ……殺される運命を待つばかりだって……」
……皆、か。
他にも鬼化による症状に、苦しめられていた人たちが、大勢居たのだろう。
「妹を助けていただき、本当に、ありがとうございました!」
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