表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/148

第50話 鬼の兄妹


 ある日のことだ。


「ぼへえ~……つかれたぁ~……」


 エルメルマータが、衛兵を連れて、森から戻ってきた。


「お疲れ様です」

「はえ? セントリアさん。どうしてここに?」


 エルメルマータたちの背後から、一人の、美しい美青年が歩いてきた。


「ルシウムさま。お帰りなさい」

「ただいま、セントリアさん」


 ルシウムさまも、彼女らと一緒に森で魔物狩りをしていたのだ。


「あ~……うふふ、あついですねぇ~♡」


 エルメルマータがニヨニヨと笑いながら、近づいてくる。


「愛しの彼をお出迎えしてたんですねぇ~……」

「妻が夫を出迎えるのは普通でしょ?」

「そ、そうですけどぉ~……。ちぇー、もっと照れてもいいのに~」


 今回の魔物狩りは、ルシウムさま、エルメルマータ、その他衛兵数名で行ったのだ。

 昼から、日が暮れるまで。


 ややあって。

 わたしたちは公衆浴場へと向かう。

 露天風呂で汗を流して、脱衣所へ戻ってくる。


「さ゛い゛こ゛ぉ゛お゛~~~~~~~~~~~~~~♡」


 エルメルマータは椅子に座って、とろけた表情をしてる。

 彼女が座っているのは、マッサージチェアだ。


 現代日本にあるようなタイプのものである。

「さいきんのえるはぁ~♡ このもみもみ椅子がトレンドですうぅう~♡」


 わたしも隣に座る。

 お金を入れると、動き出すのだ。それこそ、現代にあるマッサージチェアのように。


「こんな半端ない魔道具マジックアイテム、どこで手に入れたんですぅ~?」

魔道具マジックアイテムじゃあないですよ。土木建築スキルで作ったんです」


 マッサージチェアつきの温泉をね。

 神の力を使い、スキルレベルを上げた結果、こうして現代の便利アイテムも作れるし、運用できるようになったのである。


(土木建築で作った建物内なら、家電は電力を使わずに動く)


「あ゛~~~~~~~~~~~~疲れがとれていくのです~~~~~~~~~~~~~♡」


 ……疲れ、か。

 この子は毎日温泉に入ってる。

 

「ごめんなさいね、エルさん。貴女に負担かけちゃって」


 現状、この領地で最も魔物狩りが上手いのはエルメルマータだ。

 彼女は優秀な狩人ではない。


 超、優秀な狩人だった。

 地形を見極め、敵に気づかれること無く近づく、一撃で敵を葬り去る。


 そんな超優秀狩人のエルメルマータは、一人しか居ない。

 うちの衛兵達は、温泉パワーで強くはなってるけど、しかし森での魔物狩りがエルメルマータほど上手くはない。


 結果、エルメルマータには毎日、魔物狩りに行って貰っているのだ。


「えるが居ない時ってどうしてたんですかぁ?」

「……ルシウムさまが、今以上に頑張っていました」


 エルメルマータの次に魔物狩りがうまい、(森での戦闘が上手い)のは、ルシウムさまである。


 ……ケミスト領の衛兵たちは確かに強くはある。長年領地を守ってきただけある。

 ……でも彼らが得意なのは守りであって、狩りではないのだ。

 

「うへー……。領主自ら剣をもって、森に入ってたんですかぁ~……そりゃあ……ちょっと……」


 エルメルマータが言葉を濁す。わかっている。それが、良いこととは決して思えないって。


「人手不足ですからね、この領地」


 エルメルマータが仲間に加わり、ルシウムさまへの負担は軽減された。

 けれど、まだ彼が直接現場に出なければ、魔物狩りシフトが回っていかないのが現状である。


「フェンリルさまは手伝ってくれないんですかぁ?」

「はい。プライド高いので、あの子……」


 たまにふらっと、気まぐれで森に入ってくれることはある。

 でも、雑魚魔物の狩りは決してしてくれないのだ。自分の格を落とすとかなんとか。


「…………」


 わたしはちら、と壁の向こうを見やる。

 ルシウムさまは今温泉に浸かっているのだろう。


 ……体は若返ったとはいえ、彼は60のおじいちゃんだ。

 そんな彼が、今もなお、前線で剣を持たねばならない。


 その状況が……わたしはとても、歯がゆく思うのだ。


「愛しい彼の負担を減らしたいんですねぇ~♡ 愛ですねぇ~♡ うらやましいぃ~」


 人材不足。これを、なんとか解決したい。

 

「こぉんな素敵な温泉があるんだから、もっとたくさん人が来れば良いのに~」

「まあ、人は来るんですよ。貴族のご令嬢ばかりですが」

「ああー……戦力には、なりませんねぇ~……」


 レイネシア皇女のお友達は、たくさん来るようにはなった。

 でも令嬢たちは戦う力を持ち合わせてはないし、ここに移住してくれるわけでもない。


 彼女ら以外の人たちに、ここの良さを知って欲しい……。

 でも、この【びにちる】世界には、現実と違ってネットも電話もないうえ、SNSもない。


 良さを、広める手段がないのだ。


「大丈夫ですよぉ、ここは本当に素敵な場所なんで。きっといつか、たくさんの人が来るようになりますよぉ~♡」


 ややあって。

 わたしたちは外に出る。


「あれ? ルシウムさまは……?」


 いつもなら公衆浴場の入り口で待ってるんだけども……。


「嬢ちゃん! 大変だ!」


 アインス村長が急ぎ足でわたしに近づいてきた。

 ……とても嫌な予感がする。


「鬼だ! 人食い鬼が出たんだ……!」


 【びにちる】で人食いの鬼といえば……。鬼族のことだろう。


「鬼族は今どこに?」

「村の入り口だ! ルシウムが対処してる! が、一人じゃどうにもならねえんだ!」


 それだけ聞いたわたしは、土地瞬間移動ファスト・トラベルで村の入り口へと転移する。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 ルシウムさまが、一人の、小柄な女の子と相対してる。

 だがその女の子の額からは、1本のツノが生えている。


 目は真っ赤に染まり、瞳孔は縦に割れている。

 そして、鋭く伸びた犬歯が二本、覗いている。


 アレが……鬼族。

 ルシウムさまは今、鬼族の少女と戦っている最中だ。


「おねがいします! 妹を、殺さないでください……!」


 ルシウムさまたちから離れたところに、一人の少年がいた。


 少年は衛兵達に、上から押さえつけられている。


「妹は悪い子じゃあないんだ! お願いします! 殺さないで……!」


 少年は、見たところ完全に人間だ。

 一方彼が妹と呼んでいるのは……もしかして、ルシウムさまが戦っている、あの鬼族……?


 鬼と少年は、兄妹なの……?


「セントリアさん。助かった。この鬼族の子を……」


 もしや、ルシウムさま。

 この鬼族の子を殺すのを手伝えと……。


「気絶させるのを、手伝ってください……!」


 ああ、やっぱりそうだよね。

 彼は……優しい人だもの。


 たとえ人食いの鬼族が相手だろうと、情けをかける。そんな人だから……わたしは……。

 拳銃を取り出し、弾を込める。

 そして構えて、鬼の少女へ向けて撃つ。


 ズガンッ……!


「ガッ……!」


 鬼少女は体を硬直させると、その場に崩れ落ちる。


「大丈夫ですよ、少年。妹は死んでません」

「で、でも……妹は倒れて……」

「麻酔銃です。眠ってるだけです」

「…………………………よかったぁ」


 少年がグスグスと涙を流すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
( ̄▽ ̄;)少年…、妹…、鬼… ( ̄▽ ̄;)鬼滅? ( ̄▽ ̄;)しかし、セントリアのスキル、チート過ぎるっしょ…家電まで作れるんかい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ