第5話 温泉の効果でパワーアップして無双
アインの村は中規模の村だ。
魔物を避けるための木製の外壁がちゃんとある。
奈落の森に入る人たちのための、商店や、宿屋もある(小規模ではあるけど)。
奈落の森は、ゲーム【びにちる】における、高難易度ダンジョン(自然型迷宮)だ。
出てくる魔物のレベルが、全体的に高い。そのため、経験値を稼ぎたい、またはレア素材をゲットしたいプレイヤーは、この森を周回することになる。
そう、PCなら、ここは美味しい狩り場だ。死んでも、またセーブポイントに戻ってやり直せるから。
……けれど、NPCは、違う。現地人たちの命は、一つしか無い。死んだらそれきりだ。 だからそう何度も、この森に入ることなんてできない。
……要するに何が言いたいか?
このアインの村を守護する衛兵達のレベルは、総じて、そこまで高くないってこと。
森の入り口(浅い階層)で出てくるモンスターのレベルですら、65を余裕で越えてくる。
現地人達のレベルは、人物を鑑定するスキルがないわたしには、推し量ることはできない。
けれど、けが人が出てるってことは、NPC(衛兵)のレベルは65以下ってことだろう。
「皆さん、無事ですかっ?」
若返ったルシウムさまを見て、皆がぎょっとしている。
……村人達の、平均年齢は高そうだ。みんなおじいちゃんおばあちゃん達である。
みんな、ルシウムさまの若い頃を知ってるのだろう。だから、「だれ……?」というリアクションにはなっていないご様子。
「ルシウム!? おまえ……いったいどうしたんだっ?」
白髪で、少し生え際が後退したおじさんが、わたしたちに話しかけてきた。
だれだろう……と思ってると、ルシウムさまがおしえてくれる。
「彼は【アインス】です。私の幼馴染みであり、このアインの村の村長をしている男です」
なるほど、村長さんね。
アインス村長に、わたしは頭を下げる。
「セントリア・ドロと申します。以後お見知りおきを」
「!? じょ、嬢ちゃんが……あの?」
あの、とはどの? ……とは聞かない。
元悪役令嬢の悪評は、この国の内外に轟いてるのだから。
そんな悪女が、丁寧に(普通に)あいさつしたのだ。驚くのも無理はない。
「はい、今日よりルシウムさまの妻となります。わからないことだらけなので、色々おしえていただきたく存じます」
「……おいルシウムよぉ。ほんとにこの嬢ちゃん、あのうわさの悪女なのか?」
そう言いたい気持ちは十分わかる。
ルシウムさまがうなずいた後、
「詳しい説明は後で。アインス、状況説明を」
「あ、ああ……。外壁の外に、大灰狼の群れが押し寄せてきてる」
大灰狼。
確か、個体のレベル平均65くらいのモンスターだ。
文字通り、灰色の毛皮をした狼型の魔物。
すばしっこい上、集団でまとまって出てくるから、非常に厄介な相手だ。
戦うなら、パーティをしっかり組んで、複数人で挑む必要がある。
「衛兵が頑張ってくれてるおかげで、外壁の中に魔物は入ってこねえ。が、衛兵たちもかなり負傷してる。正直、もうあと1時間もしないうちに前線が崩壊し、街に魔物が雪崩れ込んでくる」
レベル65の大灰狼の群れ相手に、よく持ちこたえているほうだ。
「今、前で戦ってる衛兵は何人くらいいますか?」
とルシウムさまが尋ねる。
「一〇人だ」
「ではその一〇人をいったん、下がらせてください。私が時間を稼ぎます。その間に、けが人の治療と休憩を行ってください。そして、回復したら全員で、魔物を掃討しましょう」
前線が崩壊する前に、回復と補給を行うようだ。
「ルシウムさま、共に戦いましょう」
「ありがとう、心強いですよ、セントリアさん。本当に、心強いです」
ルシウムさまは、どうやら先ほどの転移の力を見て、わたしが前に出るのを許してくれたようだ。
「けれど、前に出るのは私。セントリアさんは、後ろから、スキルで援護と防御をお願いします」
「承知です。では、参りましょう」
わたしたちはうなずいて、外壁へと向かう。
アインス村長が声を張り上げると、外壁の門がギギッ……と開く。
衛兵達と入れ替わるように、ルシウムさまが走り出す。
ドンッ……!
「「……はぁ!?」」
アインス村長、そして……飛びだしたルシウムさまですら、驚いてるようだ。
「な、なんじゃありゃ!? めちゃくちゃ速え!」
……予想はしていたが、ここまで、今のルシウムさまが、速くなっていたとは。
わたしと村長は物見櫓へと向かう。
……そこで繰り広げられていたのは、一方的な【殲滅】だ。
ズパパパパパパパパパッ!
……ルシウムさまが、疾風のごときスピードで、魔物達の間を駆け抜けていく。
彼が通り過ぎると、魔物が1匹死ぬ。つまり、彼は一撃で魔物を倒してるということだ。
「な、なにが……一体何が起きてるんだ!? あの大灰狼を、一撃で倒すだと!?」
「驚くほどのことではありません」
「なっ!? 嬢ちゃん、なんか知ってるのか?」
「ええ。彼には今、神の力による、バフがかかってるのです」
「ば、ばふ……?」
バフ。つまり、強化術のことだ。
眼下の殲滅戦……いや、殲滅【作業】に目をやる。
「ルシウムさまは、温泉に入ったのです」
「は……!? 温泉!? 温泉に入っただけで、あんだけ強くなったってのかよ!?」
「はい。ただの温泉ではありませんが」
わたしの作った温泉には、神気(神の魔力)が溶けていた。
ゲームにおいて、神気はレベルアップ・強化アイテムだ。
神気のまじった、わたしお手製温泉に入ったルシウムさまは、普段よりも強化されてる。
人物鑑定ができないから、具体的な現在の彼のレベルは分からない。
が、65の大灰狼たちを圧倒してることから、それ以上の強さを手にいれているのは確実だろう。
「し、信じらんねえ……10分もしないうちに、あの大灰狼の大軍が、全滅しちまった……!? 凄すぎる……!」
眼下で動く大灰狼は、もう一匹も居なかった。
剣をもったルシウムさまが、呆然と立ち尽くしてる。
彼は自分の体に、何が起きてるのかわからず、戸惑っているのだろう。
「ルシウムさまの奮闘のおかげで、魔物がすべて討伐されました……! これでもう安心ですよ!」
村の人たちにも聞こえるような大きな声で、わたしがそういう。
うおおおおお! と村からは、村人達、衛兵達の歓声が上がる。
一方、すたっ、とルシウムさまが外壁の上に、ジャンプして乗ってきた。
「驚きました。セントリアさん。これは、あなたの作った温泉の効果ですね」
「ええ。あの温泉には、若返りだけでなく、レベルアップの効能も含まれてるので……って、ルシウムさま!?」
彼はわたしの前で跪いて、深々と、頭を下げてきたのだ。
「ありがとうございます、セントリアさん。……あなたのおかげで村を守れた。本当に、感謝してます」
「ありがとうございます。ただまあ、わたしのおかげっていうより、温泉の効果ですけどね」
「温泉を作ったのは貴女だ。貴女のおかげだ。貴女は……本当に凄い御方です」
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