第46話 風呂付き家を一瞬で建てる
アインの村の公衆浴場から、エルメルマータが出てくる。
「やぁっぱここのお風呂さいこうですぅ~♡ 疲れが一発で消えちゃうから~♡」
彼女の力を試しに行って、帰ってきたあとに、風呂に入ったのだ。
もうすっかり彼女はケミスト領の温泉の虜になってるご様子。
「さて、ではこれからのことを考えましょうか。まず住む場所ですね」
「えるこの村住むですぅ~。魔物狩りに行きやすいですし。おばあちゃんたち優しいですし~♡」
そういえばさっき、村のおばあちゃん達に、めちゃくちゃ可愛がられていた。
まあ彼女らの気持ちは理解できる。
エルメルマータはどこか幼い雰囲気があるから。
「では、村に住む家を作りましょう」
「宿はないんですかぁ?」
「あるけど、それは領外の人用ですよ」
領民となった以上、彼女の家を用意するのも、領主(の妻)の役目である。
「どこか馬小屋でも貸して欲しいですぅ~。今まで大抵、そこで寝泊まりしてたのですぅ~」
……不憫な子だ。
わたしはエルメルマータの頭を撫でる。
「ぬへへ~♡ これすきー♡ セントリアさんもっとなーでてぇ~♡」
なんだかわたしも、この子を可愛く思えてきた。
子猫とか、子犬みたいだからだろう。
「馬小屋は却下です。ちゃんとしたお家を用意しますので、そこで暮らしてください」
「家まで用意してくれるなんて~♡ ここはとっても素晴らしい領地ですよぉう」
ややあって。
わたしたちは空き地へとやってきた。
「今からここに家を建てます」
エルメルマータが、ぽかーん……とした表情をする。
「い、家って……。これから建築するんですかぁ?」
「そうですよ」
「ええー……っとぉ。あ、わかった。完成まで馬小屋で暮らせって事ですねぇ!」
「違います。今からパパッと家を作ります」
エルメルマータが再度、ぽかんとした顔になる。
「いやいや、建てるのって結構コストと時間がかかるんですよぉ?」
重機械がないこの世界では、家を建てるのにかなりの労力が必要なのはわかっている。
「【土木建築】」
瞬間……ずぉおおおお! と目の前に家が地面から生えてきたのである。
「い、家が生えてきた!? え、え!? れ、錬成スキルですぅ? まさかまさか、創造魔法やスキルじゃあないですうぅ?」
「わたしの持つ加護の力ですよ。さ、入ってください」
目の前には、レンガ造りの頑丈な家がある。
扉を開けると、リビングキッチンがある。
「なんですかこのおっしゃれぇな内装ぅ~! しかも家具までぇ!?」
エルメルマータは、どうやらわたしが錬成スキルで家を建てたと思っているらしい。
錬成スキルは、同一素材のものしか錬成不可能だ。
テーブルはともかく、ソファなどの家具があるのはオカシイと思ってるのだろう。
「家を錬成したのではないですよ。まあ、一番わかりやすくいうなら、創造した、ですかね」
「まさか創造スキル!? しゅごぉい……まるで創造神ノアールさまみたいですぅ~」
エルメルマータが中を見渡す。
「ベッドも! わぁ! クローゼットもあるですぅ! ふぁわわわ~! すごいですぅ~!」
ベッドの上で、エルメルマータがバウンバウンとはねていた。子供か……。
「あとは着替えですね。行商人が来るんで、そのときに仕入れましょう」
「はーいですぅ~」
服をぽんぽん、と脱ぎ出すエルメルマータ。
「……何をやってるんですか貴方は……?」
「ふえ? 森に行った帰りの、汚いお洋服で、ベッドを汚さないように脱いだんですぅ~」
……まあ、見ているのが同性だけだからいいか。
「服脱いだらお風呂入りたくなったですぅ~。でも外に出るのはめんどくさいですぅ~」
「では家の風呂に入るのはどうでしょう?」
がばり、と全裸エルメルマータが体を起こす。
ばるんっ、と胸が躍動感たっぷりに動いた。
「お風呂が……家に? なんだって?」
「ありますよ」
「は、はは! セントリアさんっ。えるを、からかってるんですぅ~?」
どうやら、エルメルマータは家に風呂があると思っていない様子だ。
「お貴族様のお館くらいでしょう、個人風呂があるのって」
【びにちる】では、そうだ。一般家庭は、水で体を拭いたり、庭先で行水したりしてるのだ。
「ありますよ」
「ないない、さすがにそこまではぁ。もしあったら、えるはこの状態でお外走ってもいいですよぉ~」
エルメルマータを風呂場へと連れて行く。
「お風呂ありゅぅううううううううううううううううううう!?」
個人風呂を前に、エルメルマータが愕然としてる。
「お風呂って、作るのめちゃくちゃ大変じゃあ……」
「風呂付きの家を、作ったまでですよ」
レベルアップアイテム、神の力。
この土地では、神の力を採掘し放題なのだ。
で、採掘した神の力で、土木建築スキルをあげまくった。
結果、こんな風に、風呂付きの家も創造できるようになった次第である。
「しゅ、しゅごぉい……風呂付きの家が、領民に与えられるなんてぇ~……はっ……!」
エルメルマータがわたしを見やる。
バッ……! と走り出したので、その腕を引っ張った。
「どこに行くんですか?」
「お外走ってくりゅうぅううううううう!」
「やめなさい」
どうやら約束を履行しようとしていたらしい……。
「ハシタナイですよ」
「うう~……しゅみましぇえん……」
エルメルマータがタオルを体に巻き付ける。
「ほえ? でもでもぉ、個人のおうちにお風呂を作ってしまったら、公衆浴場に誰もいかなくなるんじゃあ?」
「そんなことないですよ?」
「どうして?」
「まあ、ここで暮らしていればわかります」
で、翌日にはエルメルマータを、公衆浴場で見かけることになる。
「やっぱ広いお風呂に皆で入るのは最高ですぅ~!」




