第42話 エルメルマータの、亡き母へ当てた手紙
拝啓。天国のママン。
エルメルマータです。ママンに手紙を書くのは、本当に久しぶりですね。
今日は、ママンに当てて、近況報告をしようと思って、こうして手紙を書いてます。
……ママンはご存知かも知れませんが、とりあえず今までの振り返りを。
ママンとえるは、一緒に辺境の村で暮らしてましたね。
ママンはエルフで、クソ親父は人間。あのクソ親父はえるたちを捨ててどこかへいってしまいましたね。
その後、ママンは幼いえるを連れて、流れの治癒師として活動してましたね。
でも、えるというお荷物がいるせいで、どこも長くとどまることができませんでしたね。
えるのせいで、ママンに迷惑かけてるって、ずっと知ってたよ。でも幼いえるには何もできませんでした。ごめんね、ママン。
……そんなある日、ママンは外見を変える魔法薬を作ってくれましたね。
それを飲むことで、えるはエルフの見た目になることができたね。
その結果、とある村で、えるたちエルフの親子を、受け入れてもらえましたね。
けど……ママンはある日突然病気をしてしまいましたね。
ママンの治癒術は、自分にかけられない。えるは、村長に頼みました。
ママンを助けて欲しいって。薬草や、ポーションをわけて欲しいって。
……でも、村長はわけてくれませんでした。
ママンが今まで、無償で、村人達を治癒してきたのにです。
本当に、酷い人たちです。ママンはこの人達のせいで、死んでしまいました。
……その後も、えるに不幸は続きました。
外見を変える魔法薬を、ママンがいなくなったことで、使えなくなりました。
えるはハーフエルフだとバレてしまいました。
村人達はえるに、酷いことをしてきました。言葉と、拳で、えるを……傷つけたのです。
えるは、その後、村を追放されました。
頼るツテのないえるは、冒険者になるしかありませんでした。
冒険者は過去の経歴など一切問われなかったからです。
えるは、頑張りました。頑張ってクエストをこなしていきました。
でも……えるは弓使い。
一人で倒せる魔物の数には限りがあります。強い敵は、えるひとりでは倒せません。
えるには仲間が必要でした。
……でも、えるを入れてくれるパーティは、どこにもありませんでした。
「きもいんだよ、ハーフエルフ」
「くさいんだよ、デブ」
「近づくなよ、出来損ない」
……みんな、えるの外見だけで、えるを遠ざけるんです。
この頃のえるは、ストレス解消のために、やけ食いをしてました。
元々太りやすい体質もあって、えるはぶくぶくと太っていったのです。
ふとっちょな、出来損ないのハーフエルフを入れてくれるパーティは、どこにも居ませんでした。
えるはソロで活動せざるをえませんでした。
……でも、食費や、矢などの消耗品を買うと、お金はすぐに尽きてしまうんです。
やっぱり、ソロで、冒険者で、狩人が生計を立てるのは難しいと痛感させられる毎日でした。
そんなある日、えるは、スカウトされたんです。
冒険者【カスクソー】さんが率いる、冒険者パーティ【黄昏の竜】に。
「ぼくはカスクソー。エルメルマータさん、ぼくは君に一目惚れしました。ぼくのパーティに入ってくれませんか?」
……えるはこれだけで、カスクソーに惚れてしまいました。
えるはカスクソーのパーティに参加し、ともにクエストをこなしていきました。
えるのパーティ内での役割は、主に雑用係と、斥候役。
えるは必死にパーティリーダーであり、カレシであるカスクソーのために、尽くしました。
「君の金はぼくが管理するよ。共有財産ってことで」
……えるはその言葉を信じ、無給で働きました。
パーティ【黄昏の竜】はランクを順調に上げていきました。
えるが入ったとき、パーティはBランクでした。
そこからA、そしてSランク冒険者パーティへと、成長したのです。
「あ、あの……カスクソーさん? えるたち、いつ結婚できるんでしょか……?」
でも、カスクソーは、えるが結婚の話を持ち出すたび、「ちょっと待ってくれ」だの「まだ時期尚早」だのといって、はぐらかしてきました。
えるは、彼の言葉を信じて、いつか結婚して、素敵な家庭を築ける日を夢見ながら、雑用係として頑張りました。
……そして、その日は来たのです。
「エルメルマータ、君はもう不要だ」
……奈落の森に、狩りに来たとき、カスクソーはえるにそう言い放ったのです。
「パーティから出て行っていいよ。もうSランカーとして確固たる地位を築いたし。それに、大口のスポンサーが手に入ったんだ」
「大口のスポンサー?」
「テンラク王太子が、ぼくらを護衛にスカウトしたいらしくてね。でも王太子は君みたいな不細工がお嫌いらしい。だから、ぼくは君を捨てることにしたんだ」
「そんな……! えるのこと……かわいいって……」
「ははは! 嘘に決まってるだろ! 君みたいにデブで、不細工で、体臭のきっついハーフエルフなんて! だれが可愛いっ思うってんだよ!」
……カスクソーは、そんな風に、えるに酷い言葉を投げつけてきました。
「か、彼女にしてくれるって……つ、つきあってほしいって……」
「ああ、アレ嘘。ただで働く都合のいい奴隷が欲しかったんだ」
「奴隷……」
「ぼくの嘘にコロッと騙されるなんて! ほんっとおまえバカだよね~~~~~~~!」
……その後の記憶は、ありません。
気づけばえるは、森の中でとぼとぼと、ひとり歩いていました。
人間は、嫌いだ。嫌い嫌い、大嫌い!
こんな人間たちの世界なんて、いっそ滅びてしまえばいい!
……えるの心は、闇に落ちる寸前でした。
そんなとき、えるは出会ったんです。
辺境の地で、優しい女性に。
その人は、セントリア・ドロ。
えるも、噂くらい聞いたことがありました。
すっごい悪女だって。
……でも、その人はとても優しかったんです。
行き倒れのえるにご飯をくれました。
お風呂にも、入れてくれました。
そして、えるに、働き口を、紹介してくれました。
……人生に絶望して、不幸のどん底にいたえるに、彼女は手を差し伸べてくれました。
最初、また、えるは騙されるんじゃあないかって、思っていました。
セントリアさんに、騙されるんじゃあないかって。
でも……えるは気づきました。
セントリアさんの周りに居る人たち、みんな、笑ってました。
皆さん、屈託のない笑みを浮かべていました。
……前のパーティや、えるを追放したやつらは、みなえるをあざ笑っていました。
でも……ここは違う。みんな、心からの笑顔を浮かべてるように思えるんです。
それに……だれもセントリアさんの悪口を言わないんです。
それに温泉にいたおばあちゃんたちは、温泉を作ってくれたセントリアさんに感謝していました。
……この人は、今までえるが出会ってきた、悪い人たちとは違う。
えるはそう思いました。
この土地に住む人たちのために、えるは、頑張ってみようと思います。
今、えるは前を向いています。
だから……ママン、心配しないでくださいね。
エルメルマータ。




