第4話 魔物の群から領民を守りに行く
「それにしても、入っただけで若返る温泉だなんて……。どうやって作ったのですか?」
場所は、ケミスト領、領主が使っている古城にて。
ルシウムさまは、濡れた衣服を着替えて、私の前へとやってきた。
まあ、この人に隠すことでもないか。悪い人じゃあないし。
「わたしの持つ、土地神の加護、そして……この土地が本来持つ力。この2つが組み合わさった結果です」
ルシウムさまが着替えてる間、わたしは自分の持っている知識、およびスキルを使って、調べた結果を話す。
「どういうことですか?」
「まず、この土地は、【神有地】であることが判明しました」
「しゆうち……? なんですか、神有地とは?」
まあ、現地人が知らなくて、当然だ。これは公式が作った設定集に載ってる情報だから。
「簡単に言うと、パワースポットです。そこに居るだけで、力が強くなったり、レアなアイテムがポップ……出土したりする、特別な土地です」
わたしが今居るのは、人気乙女ゲーム【喜びにみちる世界】、通称、【びにちる】の中である。
このびにちるというゲームは、恋愛シミュレーションに加えて、アクション要素、領地経営要素……等々、いろんなエンタメ要素が入っている。
で、話を戻すと……。
神有地とは、さっきルシウムさまに説明したとおり、パワースポットとされている。
そこで物を作ると、生産性にプラス補正がかかったり、レベル上げすると獲得経験値が増えたりする。
また、レアアイテムが多くドロップしたりする。
とまあ、色々と凄い土地なのだ。
設定によると、昔神が住んでいた、あるいは今神が住んでいて、その力が土地に流れ込んだ結果作られたパワースポットってことらしい。
「ケミスト領の近くには、蒼銀竜山がありますよね」
びにちるをやりこんでいるわたしは、当然、周辺地理にも詳しい。
ここケミスト領は、ゲータ・ニィガ王国の東端。
左右に、奈落の森、そして蒼銀竜山という、二大魔物出現ポイントが存在する。
「蒼銀竜山が、神有地なのです。そして……その麓の領地であるここも、神有地だったのです」
もちろん、神有地の場所は、全部把握してる。
が、まさか麓の領地であるここにまでも、神の力が及んでいるとは。そこは、想定外だった。
「ケミスト領は、神の力を秘めている、ということですか?」
「ですです。あとは、わたしの持つ、採掘スキルで、眠っていた神の力を引き出し、温泉に混ぜたんです」
土地神の加護が持つ力の1つ、【採掘】。
これは、ただ地面を掘るだけのスキルにあらず。
その土地に眠ってるモノを、引き出すことができるのだ。普通は、レアな鉱石などが掘り出される。
けれど、神有地においては、その神の力そのものを引き出すことができる。
神の力が付与された温泉。だから、若返り、なんて奇跡みたいなことができたわけだ。
ゲームでも、神の力は存在する。
神の力を、アイテムに使えばアイテムの性能がアップする。
キャラに使えば、レベルやステータスが上昇する。
温泉に使えば……温泉の効能が、アップするってことだ。
「なるほど……。この土地は特別な土地で、その力をセントリアさんが引き出した結果、このような素晴らしい温泉ができたということですね」
「ですです」
スッ、とルシウムさまが頭を下げる。
「ありがとう、セントリアさん。貴女のおかげで、腰が治りました。それに、若返りまで……ほんと、なんとお礼を言ってよいやら」
「いえいえ。気にしないでください。夫の健康管理も、妻の仕事のうちですから」
まあ、健康管理ってレベル超えちゃってる気がするけどね。
と、そのときだった。
「ルシウムさま! 大変です!」
ばんっ、と古城の扉が開いて、ケミスト領お抱えの衛兵が入ってくる。
衛兵の顔からは、血の気が完全に引いていた。なにか、ヤバい事態が起きてるのだろう。
と言っても、私には見当が付いていた。
「奈落の森の魔物が、群れで襲ってきたんですね」
「!? どうしてそれを……?」
ゲームであったからね。奈落の森の魔物が、人里に押し寄せてくるってイベントが。
セントリアの断罪イベントが行われたのは、3月の下旬(このゲームなぜか、1年365日だし、一年が12ヶ月に別れてる。まあ日本製のゲームだからかな)。
ゲーム内では、3月下旬になると、奈落の森で取れる木の実やら、食べ物アイテムの数が減る。
そのせいで、森の魔物が人里に降りて、暴れ出すのだ。
「被害を受けているのは、アインの村ですね」
「何故それまで知ってるんですか!?」
衛兵が驚愕してる。まあ、奈落の森に一番近い、ケミスト領の村っていえば、アインの村だからね。
ゲームでは、奈落の森に入る前は、アインの村の宿屋でとまったり、補給していたから。
「すぐに向かい、魔物を倒しに向かいましょう。セントリアさんは、ここに残っていてください」
「わたしもついて行きます。わたしも、領民を守るために、力を使わせてください」
衛兵が、疑惑の目を向けてくる。
「……どうして、そこまでしてくれるのですか? 失礼ですが、あなたは、外から、王命で仕方なく、ケミスト領へ来たのでは?」
まあ、そうだよね。
「領地の危機に立ち向かう夫を、支えるのも妻の責務。わたしはただ、自分のすべきことをしてるだけです」
わたしが手を貸すのは、単にこの優しいお爺ちゃん(元だけど)を、ほっとけないから。
あとは、ここ以外で、元悪役令嬢を受け入れてくれるとこって、ないからだけど。
セントリア・ドロの悪名は、国内外に轟いてる。
この場所以外で、わたしを受け入れてくれる場所はないのだ。
だから、わたしはここを離れるつもりはないし、自分の住処を守るために、戦いたいのである。
「一緒に着いてきてくれますか、セントリアさん?」
ルシウムさまが私に問うてくる。
どうやら、彼は元悪役令嬢を、信じてくれるようだ。
ほんとに、優しいお爺ちゃんだ。
「無論です」
「では、急ぎましょう。アインの村は、ここアベールから馬で1時間はかかりますから」
「いえ、大丈夫ですよ。一瞬で飛べます」
「「は……?」」
驚く二人をよそに、私は土地神の加護が持つ力を使う。
「【土地瞬間移動】」
しゅんっ、とわたしたちの姿が一瞬にして消える。
そして……わたしたちは、アインの村に到着していた。
「ど、どうなってんだ!? い、一瞬で村まで移動してしまったぞ!?」
衛兵さんが驚いてる。ルシウムさまも、目を大きくむいていた。
「こ、これは一体……?」
「土地神の加護の力、【土地瞬間移動】です。行ったことのある場所へは、一瞬で移動できるというスキルです」
昨今のオープンワールドゲーでは、普通に実装されてる機能。
主人公達以外でも、この土地瞬間移動があれば、一瞬で移動できるのだ。
「行ったことのある場所って……いったい、いつですか? この領地に来るのは、貴女は初めてでしょう?」
「あ、あははは……それは……ちょっと秘密で……」
うん、確かに、元悪役令嬢は、ここに来たことはない。
でも……わたしはゲームで、何度もここへ来たことがあるのだ。
わたしはセントリアであると同時に、前世の【わたし】でもある。
だから、ゲーム時代に来たことのある、アインの村に、土地瞬間移動できたのである。
「まさか転移までできるなんて、本当にすごいですね」
さぁ、サクッと倒して、さっさと帰って、露天風呂に浸かるとしよう。
作ったはいいけど、自分では入ってないからね。
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!