第39話 ハーフエルフを治す
わたしはこの恋愛シミュレーションゲーム【喜びにみちる世界】(通称【びにちる】)の悪役令嬢セントリア・ドロとして転生した元OLだ。
婚約破棄されたわたしは、王命で、ケミスト領と呼ばれる辺境の領地の、領主の後妻にさせられた。
領主の名前はルシウム・ケミスト。
御年60のおじいちゃんだ。
ルシウムさまのもとへやってきたわたしは、持ち前のゲーム知識、セントリア・ドロの持つ【山神の加護】を使って、領地改革を始める。
鑑定を行った結果、ここケミスト領は、神有地とよばれるパワースポットだった。
ここで掘った温泉には、特別な力が込められてることが判明する。
わたしはわたしを受け入れてくれた優しい領主、そして領民のために、色んな温泉を作った。
その結果、領地の中だけでなく、領地の外のひとも、温泉を入りにやってくるようになったのだった……。
☆
「おーい、帰ってきたぜー」
奈落の森に隣接する村、アインの村に、衛兵達が帰ってくる。
先頭にはこのアインの村の村長、アインス村長がいた。
「おかえりなさい、アインスさま。狩りの首尾はどうですか?」
「バッチリよ。全員ほぼ無傷。こんなの奇跡だぜ。な!」
村長の後ろに控えている、衛兵達(領民たちで構成されてるので、正確に言えば領民兵)さんたちが、笑顔でうなずく。
「ああ」「いつも狩りは命がけだもんな」「こんな軽い傷で済んだのは奇跡だぜ!」「セントリアさん様々だな!」
パッと見ても、皆さんにできてるのは、擦り傷や切り傷くらいだ。
そして、笑顔で懐から一冊の本を取り出す。
【奈落の森攻略本】
表紙には、こっちの文字でそう書かれていた。
「いや、それにしても嬢ちゃんの作ったこの攻略本、まじですげえや。奈落の森の詳しい地図だけじゃなくて、魔物の生態系や、魔物の攻撃方法、攻撃動作、全部書いてあるんだからよぉ!」
わたしはかなりこのゲームをやりこんだので、詳細なマップや、モンスターの詳しい情報を持っている。
それらを書き出して、衛兵たちにわたしたのである。
何はともあれ、皆さん無事で帰ってきて良かった。
……。
…………。
……………………。
「嬢ちゃんどうした? そんなそわそわしてよぉ」
にやにや、とアインス村長がわたしを見てくる。……わかってるくせに。
「ルシウムさまは……?」
「そろそろ帰ってくるんじゃあないか? あ、ほら帰ってきたぞ」
ずりずり……と何か大きなものが引きずられる音がする。
森の奥から現れたのは、一人の、美青年だ。
「ルシウムさま!」
気づけば、わたしは駆けだしていた。
「ただいま、セントリアさん」
「おかえりなさい」
近頃のわたしは、彼を見ると、駆け出すようになっていた。
彼を見ていると心が安らぐのである。
「首尾は?」
「上々です。獲物はふぇる子さんが運んでくださりました」
どさ、と。
大きな魔物の死骸が、地面に転がされる。
「赤熊ですね」
奈落の森に生息する魔物の1匹だ。
噛みついた相手を爆発させるスキル、鋼の剣すら折ってしまう硬い毛皮を持つ、平均レベル100の敵である。
「セントリアさんの攻略本と、ふぇる子さんのサポートのおかげで、とても楽に倒せました。ありがとうございます、二人とも」
『あたしは何もしてないわよ。倒したのはこいつ一人』
巨大なフェンリルがため息をつく。
『おふろはいってくるー』
ふぇる子がわたしの横を通り過ぎていく。
残されたのは、わたしとルシウムさまだけだ。
「ルシウムさまさすがですね。赤熊も余裕で倒せるなんて」
「さすがなのはセントリアさんですよ。赤熊の攻撃動作が全て攻略本に書いてありました」
この人は、本当に偉ぶらない。実に、謙虚だ。
わたしは彼のそういうところに、好感が持てる。
「ところで……怪我してないですか?」
「? ああ、そうですね。もしかしたら怪我してるかもです」
「それは大変ですね。近くで調べてもいいですか?」
「もちろん」
わたしは彼に近づいて、きゅ、と抱きしめる。
……これが、最近の日課だ。
彼とこうして一日一回はハグしてる。
……心が、ほんとうに安らいでいく。彼を近くに感じる。
彼はわたしがハグしてる間、頭を撫でてくれる。
体に、なんだか温かい気持ちで満ちていく。
「では帰りましょうか」
「そうですね」
そのときだった。
「嬢ちゃん大変だ……!!!!!!」
アインス村長とふぇる子が、こちらへとやってきたのである。
……わたしはちょっと、ルシウムさまから距離を取る。
なんだか、照れくさかったのだ。
「どうしたんですか?」
「エルフだ! 行き倒れのエルフがいるんだ!」
【びにちる】は剣と魔法のファンタジー世界だ。
エルフやドワーフといった、亜人も登場している。
「エルフなんてどこにいるんですか?」
ふぇる子が伏せ状態になる。
ふぇる子の毛皮から、ころん、とエルフが落ちてきたのだ。
「きゅう~……」
……エルフだ。でも、わたしの知ってるエルフとは、ちょっと違う。
耳の長さが、エルフより短い。これは……ハーフエルフだ。
「ふぇる子、どうしたんですかこの子?」
『わかんない。毛皮の中に紛れてたの』
なるほど……。
ふぇる子のもこもこふわふわの毛皮の中に、この子が偶然入ってしまったと……。
で、お風呂に入るまえに、フェンリル化といたら、この子がいたと。
「ハーフエルフですね」
「気を失ってるようですが……大丈夫でしょうか?」
わたしは肌の状態、白目や、舌を見る。毒状態ではなさそう。
「もしもし」
「うきゅ~……めがまわるぅ~……せかいがまわるりゅ~……」
いちおう意識はある。でも目が覚めない。これは……。
「【こんらん】の状態異常ですね」
「魔物による被害でしょうか?」
「それか……こんらんを引き起こす食べ物……たとえば毒キノコを食べたとか考えられます」
ぐぅう~~~~~~……と。
大きな腹の虫が、このハーフエルフから聞こえてきた。
「後者でしょうね、多分」
恐らくこの子は、森で腹を空かせ、こんらんを引き起こす毒キノコを食べたのだろう。
このまま放ってはおけない。
こんらん状態は、時間経過で治ることはない。
「ふぇる子、この子を温泉まで運んであげて」
『しょうがないわねぇ! セントリアの頼みだから、聞いてあげるわ!』
ふぇる子がハーフエルフ少女を頭に乗っける。
そして、アインの村へと移動。
ここには、大規模な公衆浴場がある。
わたしは女湯へと入り、そのまま露天風呂へ。
『てい!』
ふぇる子が温泉の中に、ハーフエルフ少女をぶん投げる。もっと丁寧に扱って……。
「ぷはぁ……っ!」
少女が温泉から顔を覗かせる。
「あ、あれぇ!? こんらんが解けてるですぅ!?」
少女の状態異常が治ったようだ。
「ど、どうなってるんですぅ~?」
「温泉の効能ですよ」
「ふぁ!? 温泉!? 温泉に入ると状態異常がなおるんですか!?」
「ええ」
「そんな温泉聞いたことないですぅ~……」
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