第37話 バカ王子にハッキリ嫌いと告げる
王子にビンタしてしまった。
……普通に、不敬罪だ。なんてことをしているんだ、わたしは。
けれど、不思議と後悔はなかった。
なぜだろうと考えて、すぐに答えが見つかる。
ああ、わたし……怒ってるんだ。
彼を侮辱されて。……なぜなら。
「せ、セントリア……ぶ、ぶったな!? 父上にもぶたれたことないのに!!」
テンラク王子がキレ散らかす。
まあ、しょうがないことだ。
「王子。恐れながら申し上げますと……あなたは、何をされても良いと、セントリアさんにおっしゃってませんでしたか?」
「グッ……!」
ルシウムさまがそう言うと、テンラク王子が黙ってしまう。
さっきこの人は、わたしが無礼を働く、其れを許すって……言っていた。
そこを持ち出すなんて……さすが、長く領主をやってるだけある。
「それに、好いた女性に対して声を荒らげるのは、よろしくないと思いますよ」
「…………!」
はっ、とテンラク王子が我に返る。
「す、すまない……」
「いえ、わたしに謝らなくて良いので、ルシウムさまに謝罪してください。魔道具で女性の心を操って我が物にしてるなんて、酷い侮辱ですよ」
普通に生きてて、そんなこと言われたら、キレても不思議ではない。
でも……ルシウムさまは怒っていない。なんて大人な人なんだろう。
「し、しかし……! そこの男は、急に若返っていた! 怪しげな呪法に手を出してるのかもしれない!」
……なるほど。ルシウムさまは、呪術師や、それこそ悪魔と通じているかもしれない。
なら、魅了のアイテムを、そいつからもらってるかも……か。
まあ、そう思ってしまうのはわかる。
でも、他人から、ルシウムさまがゲスだと思われるのは嫌だった。
「では、魅了に掛かっていないことを証明します」
「証明? どういうことだ……?」
テンラク王子が首をかしげる。
「魅了は、状態異常の一つなんです」
「な!? 状態異常の一つ……つまり、毒や麻痺と同じカテゴリーだというのか!?」
「ええ」
だから、ステータス画面を見れば、そのキャラが魅了状態になっているかどうかは、ハッキリわかる。
「し、しかし……鑑定スキルを僕は持っていないぞ?」
鑑定を使って、相手のステータスを見れば、一発で状態異常かどうか調べられる。
けれど、鑑定スキルは一部の人間しか持てない、特殊なスキルだ。
このバカ王子は所有していない。ステータスを見て、魅了状態じゃあないことを、証明することはできない。
なら、別の手を使う。
わたしは、部屋の端っこに居る宮廷治癒師に話しかける。
「すみません、この中で異常回復を使える人はいますか?」
異常回復。
治癒魔法の一つだ。毒、麻痺等の状態異常を、治すことができる。
「なぜ異常回復なのだ?」
と、テンラク王子。
「魅了も状態異常の一つです。異常回復で治せます」
「な!? は、初耳だぞそんなこと!」
NPC……いや、現地人たちは知らないだろう。
だが、このゲームを知り尽くしてるわたしは、知ってる。
魅了は病気で、魔法で治せるものだと。
「あ、あの……あたし、異常回復使えますけど……」
治癒師の一人が手を上げる。
「では、わたしに異常回復をかけてください」
「は、はひ……」
怯えながらも、治癒師がわたしに、杖を向けてくる。
呪文を唱えた後、彼女は異常回復を使用した。
ぱぁ……! と杖先から光が発生し、わたしの体を照らした。
「これで、魅了の状態異常が解除されました。王子がおっしゃるとおり、わたしが魔道具で無理矢理、彼のことを好くように仕向けられていたとしたら……これで彼への恋慕の情が消えたことになりますね?」
「そう、だな。うん、そうだ! さぁ、セントリア! この僕の求愛に答えよ!」
わたしは……笑った。呆れたのだ。このバカは、今もなお、わたしの心が自分の手元にあると思い込んでいるようだ。
アホの極みである。
「お断りします」
「な……!?」
何故驚くのだろうか。アホなのだろうか。アホなのだろう。本物の。
こんなのに惚れていた、元悪役令嬢に同情してしまう。
わたしはバッサリ王子からの求婚を断って、ルシウムさまのもとへ行く。
彼は微笑んでいた。こうなることを、予想していたようだ。
それはそうだ。魔道具なんて、使ってないのだから。
「これからも、わたしは貴方の妻として、隣に居てもよろしいでしょうか?」
「もちろんですよ、セントリアさん。末永く、よろしくお願いします」
わたしたちは微笑み、そして……抱き合う。……この人の隣にいると、とても安らぐのだ。
元悪役令嬢ではなく、わたしは、彼の隣にこれからも居たいのである。
「そ、そんな……辺境伯の爺がいいのか……」
ぷるぷる、とテンラク王子が震えながら尋ねる。
「ええ。わたしは、この御方のほうがいいです。あなたなんかよりも」
「そんなぁ……」
……テンラク王子が情けない声をだし、その場にへたり込む。
哀れ、とも思わなかった。当然の結果だとしか。
「では、失礼します。帰りましょう、ルシウムさま」
「ええ、帰りましょうか。我が家に」
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