第36話 バカ王子から求愛されるももう遅い
皇帝暗殺未遂事件から、数時間後……。
わたしは、諸々の作業を終えて、ホッと息をついた。
場所は、医務室だ。
ついさっきまで、けが人の治療を行っていたのだ。
暗殺者たちによる怪我、ではない。今回の騒動で、パニックになった人たちが大勢居た。
その人達がこけたり、頭をぶつけたりして、軽傷者が数え切れないほどいたのだ。
その人達の治療を行っていたのである。
……ちなみに、役立たずの聖女さまは、途中でどっかに消えていった。
最初はあたしが治療するとか息巻いていたけど、うまくいかず、皆から邪魔者扱いされてふてくされ、出て行ったのだ。
ほんと、なんなのだあいつは……本当に聖女だろうか。
「セントリアさま。助かりました」
宮廷で働く治癒師たちが、わたしに感謝の言葉を述べる。
「貴方様のおかげで、スムーズにけが人の治療ができました」
「いえ、なおしたのは貴女たちであって、わたしは何も」
持ってきた温泉のストックは、重傷者に使ったら、なくなってしまったのだ。
宮廷治癒師たちが治癒魔法を使って、軽傷者達を治したのである。
「貴方様の魔法の薬が無ければ、重傷者達の命は助かりませんでした」「それに、貴方様が的確な指示を送ってくれたおかげで、私たちすごく楽に動けました!」「セントリアさまのおかげです!」
温泉のお湯がなくなったあとも、わたしはできる限りのことをした。
そこを、治癒師たちは評価してくれたようだ。
「恐縮であります。ですが、やっぱり治癒師の皆さんがいたからこそだと思います」
「「「まあ……なんと謙虚な御方でしょう!」」」
謙虚というか事実なんだけども……。
それにしても、ちょっと働き過ぎて疲れた。
ふら……と体が傾く。
やば……と思ったそのときだ。
ふわり、と。
誰かが優しくわたしを抱き留めてくれたのだ。
「お疲れ様です、お嬢さん」
「ルシウムさま。お疲れさまです」
彼がわたしを支えてくれたのである。
「まあ、素敵な殿方……」
「なんてイケメン……」
「美……」
ぽーっと、治癒師の皆さんがルシウムさまに熱い視線を向けている。
まあイケメンなのは同意する。
「暗殺者達の尋問の結果をもってきました」
「ありがとうございます」
ルシウムさまは、暗殺者達を連れて、一度ケミスト領へ帰ったのだ。
「驚いたよ、セントリアさん。まさか……トリムが転移魔法を取得するとは思わなかった」
そう、トリムは魔力温泉に入ったことで、古代魔法の一つ、転移魔法を覚えてたのだ。
どうやら魔法職が、魔力温泉に入ることで、新たなる魔法を覚えられるらしい。
転移魔法を使い、トリムとルシウムさまは一緒にケミスト領へ。
犯罪者達をデトックス温泉につっこむことで、毒気が抜いて、依頼主の名前を吐かせたのだ。
ちなみに、ルシウムさまは率先して、犯罪者達の尋問を行っていた。
わたしが動くより先に、である。
「ルシウムさまはさすがですね」
「さすがなのは貴方ですよ。けが人ゼロだそうですね。本当に素晴らしいです、あなたは最高だ」
「…………」
なんとも、面はゆい。
この人に褒められると、心がじんわりと温かくなる。もっと褒められたいって、そう思う。
「それで、尋問結果は……?」
「失礼」
彼はわたしを抱きかかえたまま、医務室のベッドへ向かう。
そっ……とわたしをベッドに寝かせる。
「あの……?」
「お疲れでしょう? 少し休んでください」
……ほんと、いいお爺ちゃんだ、この人。
「ありがとうございます。それで、結果は?」
「本当に働き者ですね、あなたは。素晴らしい」
「もう……からかわないでください。話が進みません」
「おやそれはすまなかったですね」
わたしたちは微笑む。こういうやりとり、全然苦ではない。
もっと話していたい。
「どうやら彼らは、【灰色の狼】のギルメンのようです」
「灰色の狼……確か、大規模な犯罪ギルドでしたね」
金さえもらえれば、殺人、誘拐、非合法なことでもなんでもやるギルドだ。
「残念ながら、彼らも上の指示で動いていたみたいで、裏にいる依頼主についてはわかりませんでした」
「そうでしたか」
まあ、下っ端連中に、そんな重要な情報は渡されていない……か。
仕方ない。
「皇帝への報告はわたしでしておきます」
「それには及びませんよ。孫に報告にいかせましたから」
「まあ……本当に仕事が早いですね」
「ふふ、妻にはおよびませんが」
治癒師はわたしを謙虚な方と言った。でもわたしからすれば、本当に謙虚な人というのは、この人のことを言うと思う。
「まぁ……素敵なカップルですわね~」「ほんと、お似合いのお二人ですなぁ」
……わたしたちのやりとり、がっつり宮廷治癒師の人たちの見られていた。
そうだった、人が居るんだった。すっかり忘れていた……。
と、そのときである。
「セントリア!」
……安らぎを与えてくれるルシウムさまと違い、聞いているだけで頭痛がするような声が、聞こえてきた。
ルシウムさまはベッドのカーテンを閉める。
「ここは私に任せてください」
「ルシウムさま……」
ばん! と医務室の扉が開く音がする。
「ここにセントリアがいると聞いたが、本当か!?」
この声、間違いなく、テンラク王子のものだろう。
わたしを探してるようだ。一体何故……?
「セントリアはどこだ、セントリア!」
……カーテンを閉め切っているので、彼はわたしがここに居ると気づいていない様子。
「王子、セントリア嬢はここにはおりません」
と、ルシウムさまが応対してくださる。
テンラク王子に会いたくないわたしに代わって……。
本当に、できた夫であり、いい人だ。
「む? 誰だ貴様……?」
「私の顔をお忘れですか、王子」
「知らん。貴様のような男初めてみたぞ」
「お初に……というわけではありませんが、名乗らせていただきます。ルシウム・ケミストです」
……一瞬の静寂。
「は!? ふ、ふざけるな! ルシウムは60の爺なはずだろ!?」
……爺。ですって?
この人……失礼すぎるでしょ。
ルシウムさまはこの国を魔物から守るために働いてくれている存在だというのに……。
そんな口の利き方をするなんて。本当に……失礼な人だ。
「事情があって、若返ったのであります」
「そ、そうか……! わかったぞ!」
「わかった? 何がでしょうか?」
テンラク王子は言う。
「貴様がセントリアを誘惑したのだろう!?」
……。
…………。
………………はあ?
誘惑……? 何言ってるんだろうこの人……?
「どういうことでしょう?」
「この僕と再会したセントリアは、僕に未練がこれっぽっちもないと言っていた。が、オカシナ話だ!」
……どこがオカシイんだろう。
自分で婚約破棄したんでしょ、セントリアを……。
「セントリアは僕に心から惚れていた! そんな女が、急に、何の理由もなく、心変わりするなんてアリエナイ!」
中身が変わったのだから、急に、という点は同意しても言い。
でも、理由もなくというのは、同意しかねる。
あんたが、理不尽に婚約破棄したんじゃあないか。
「僕に心から惚れていた女が、急に興味を失った。それはつまり! おまえが、魔道具【魅惑の香水】を使った! そうなんだろうっ?」
……魅惑の香水。
【びにちる】に出てくる魔道具の一つだ。
使うことで、相手を魅了状態にすることができる、禁忌の魔道具。
ルシウムさまが、それを使って、わたしを魅了状態にした……と。
このバカはそう思ってるようだ。
「私は誓って、セントリア嬢に対して、そのような愚行はしておりません」
「嘘をつくな! おまえが魅了したんだろう!? 僕のセントリアになんてことしやがるんだ!」
……もう、耐えきれなかった。
わたしはカーテンを引いて、彼の前に姿を現す。
そして……わたしはテンラク王子の前へとやってきた。
「王子。ご無礼をお許しください」
「お、おお! いいぞ。君にならなにをされてもいい……」
「ありがとうございます。では……」
ばちぃいんっ!
……わたしは、テンラク王子の頬を強くぶった。
彼は呆然とした目をしてる。何をされたのか気づいていない様子。
わたしは、そんな王子に向かって言う。
「わたしの夫を、侮辱するな」
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