第34話 バカ聖女、意中の彼を悪女に取られてた
皇帝陛下への挨拶を終え、わたしはそそくさと帰ろうとした。
そんなわたしの前に、トリムがやってきた。
「セントリア。お疲れ」
「トリムさま。お疲れ様です」
挨拶のつもりで言ったのだが、どうにも、トリムは本当に疲れてるように見えた。
「どうしたのですか?」
「ちょっと変な女に絡まれてね……」
変な女、と聞いて、脳裏をよぎったのは主人公コビゥルだ。
皇帝陛下の前で、醜態をさらした彼女。
ゲーム時代のコビゥルとは違った挙動を見せていた。
主人公は、あんな間の抜けたキャラじゃ無かったような気がする。
では、なんであんな風になってしまったのか?
……わたしには彼女の不審な挙動について、一つの仮説があった。
……が、別に検証するつもりはない。
なぜなら、【びにちる】の本編に関わる気は毛頭ないからだ。
向こうも、わたしが本編に関わること(出てくること)を望んでいないわけだし……。
「トリムさまぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん♡」
……ああ、会いたくない女が、こちらに向かって手を振りながら近づいてくる。
「げぇ!? せ、セントリア・ドロぉ!?」
……やっぱり、コビゥルだ。
わたしを見て驚愕してる。なんで関わりたくないと思ってる人が、向こうから来るんだろうか……。
いずれにせよ、こちらから絡みにいく気はない。関わり合いになりたくもない。
その場から立ち去ろうとする……。
「はっ……! もしかしてあたしのトリムを横取りしようってわけ!?」
……どうしてそうなる。どうしてそう見えるんだろう。全くもって理解不能だ。
コビゥルはトリムの腕に抱きつく。
するとトリムは怒りで顔を真っ赤にして、ばしっ、と彼女の手を振り払った。
「さっきから失礼だぞ君! セントリアは、横取りなんてするような女性じゃあない!」
……庇っていただいて申し訳ないが、本来のセントリア・ドロだったら、そういうこと普通にしていただろう。
……とはいえ、庇っていただいたのは事実だ。
「ありがとうございます」
「か、勘違いするなよ! 別に君が好きとかそう言うのではないんだからな!」
わかっている。第一わたしが既婚者であることは、結婚相手の孫であるトリムが良く知ってるだろうし。
言うまでもないことだ。
「うそ……うそうそ……そんな……アリエナイ……」
……コビゥルが落胆してる。
横取りとか言っていたけど、もしかしてこの子、トリムのこと好きになったとか……?
いや、アリエナイ。
この子はテンラク王子ルートに入ってるのだ。
他のヒーローと恋愛しようとはしないだろう。
基本、【びにちる】はヒーローとの1対1の純愛を描くはずだから。
テンラク王子ルートに入ってるコビゥルが、他の男……トリムと恋に落ちるということはありえない。
……なのにどうして、トリムに懸想するようなことしてるんだろう。
テンラクルートじゃなくなったとか……?
わからない……。
……いけない。
これ以上この場にいてはいけない。
本編主人公には関わらないと決めたのだから。
「わたし、これにて失礼しますね」
「ちょ! 待ちなさいよ!」
ああ、もう、本当に煩わしい……。
転移スキルで逃げようか……と思ったそのときだ。
バンッ……! と、パーティ会場の照明が一気に消えたのである。
「は? ちょ、何よこれぇ……!?」
コビゥルが困惑してる。
「な、なんだ……?」「灯りが消えたぞ……?」「灯りの魔道具の故障か……?」
各国の要人があつまるパーティ。その会場の灯りの魔道具が、急に消えるような、機材トラブルが果たして起きるだろうか。
考えにくい。となると……。
「従魔召喚!」
ゲーマーとしての勘がささやいていた。
これは、襲撃イベントだと。
【びにちる】でも何度かそういうイベントはあったのだ。
敵が、パーティ会場に攻めてくる。
その可能性を考えて、取った行動は、敵との戦いに備えるために戦力を召喚すること。
すなわち、わたしの従魔である……ふぇる子を召喚することだ。
【びにちる】では従魔契約をかわすと、どれだけ離れていても、一瞬で、従魔をこの場に呼び出すことができるのだ。
……目立つことは、避けたい。けど、わたし自身の戦闘力はそこまで高くないのだ。
わたし一人で対処は不可能。
「トリムさま! 敵です! 皇帝陛下の命を第一優先で守って!」
「! わかった!」
「耳を塞ぎながら向かって!」
トリムが走り出す。
次に、わたしはふぇる子に指示を出す。
「ふぇる子! 獣咆哮!」
獣咆哮は、フェンリルの所有するスキルの一つだ。
遠吠えを聞いた相手が、一定時間、その場から動けなくなる。
『あぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!』
獣咆哮によって、周囲にいた人たち全員が固まる。
このスキル自体に攻撃力はない。ちょっと動けなくなるだけだ。敵じゃあないひとたちには悪いけど、今は緊急事態のため許してもらおう。
……さて、状況整理だ。
このパーティ会場に、敵がやってきた。
会場内の灯りは消されている。
恐らく狙いは要人……というか皇帝陛下だろう。
犯人はパーティのどさくさに紛れて暗殺を企てたわけだ。
獣咆哮により、敵も味方もスタンしてる。
動けているのは、あらかじめ耳を防いでと指示したトリムくらいだろう。
『セントリア! 次どうする!?』
「わたしが倒したやつを、片っ端から氷付けにしていってください!」
銃を構えながらわたしは走り、目をぎゅっと閉じて、見開く。
すると、視界に無数の▽カーソルが出現する。
▽カーソルは、この場に居る人たちの頭上に浮かんでいる。
ほぼ全員が綺麗な白色をしてる。
が、そんな中で……。
▼真っ赤なカーソルが、ちらほら見える。
わたしは闇の中、走り出す。
「くそっ! 動けねえ……ガッ……!」
わたしは▼カーソルの人物に、銃弾をぶっ放す。
『銃声!? 殺したの!?』
『麻酔銃です。火薬の匂いでわかるでしょう? 凍らせておいてください』
従魔とは心の声で会話できる。
ふぇる子に指示をだしながら、わたしは▼カーソルの連中を次々と狙撃していく。
やがて……灯りが点く。
「な、なんだった……」「一体何が起きたんだ……?」「何かのイベント……?」
客人達は困惑してる。ふぅ……。
「セントリアさん!」
ルシウムさまがいち早くわたしのもとへ駆けつけてきた。
「ルシウム……むぎゅ」
ルシウムさまがわたしのことを、ぎゅう……と抱きしめる。
強く、折れてしまいそうなほどの力で。
「無事で良かった……」
「あ、ありがとうございます……その……離して……痛いです……」
「すみません」
ぱっとルシウムさまが離れる。……驚いた、こんな強い力で抱きしめること、できるんだ……。
「! そうだ、すぐに安否確認を。敵が襲ってきてます」
「敵!?」
「もう無力化しましたが」
「もう!? どうやって」
「カーソルカラーを調べました」
「かーそる、からー?」
……現地人に説明しても、理解できるだろうか。
【びにちる】には集中モードというものがある。
カーソルを合わせることで、その敵に集中できるというもの。
そしてカーソルには色が存在する。
その色は、プレイヤーにとっての脅威度に応じて異なるのだ。
無害なNPCなら白、敵意がある場合は赤色。
暗い夜の中でも、集中モードを使えば、こうして敵を判別しながら戦闘を行えるというわけだ。
無論、集中モードはゲーム時代の【びにちる】の機能だ。
でも、現実となったこの世界でも、使えることは、すでに検証済みである。
きちんと力を把握して、正しく使う。それが、ゲーム上達のコツだ。
ゲーマーであるわたしは、当然、そういう検証を事前に行っている。何があるかわからないから。
「なるほど……セントリアさんの凄い力で、敵を無力化したということですね。さすがです」
『ちょっとぉ! あたしのおかげでもあるんですけどぉ!?』
すると、ドサ……と、誰かが倒れた音がする。
「フェンリルぅ!?」
……この声、コビゥルだ。
しまった……これは……。
「な、なんであたしの従魔になる予定の、フェンリルが、ここに居るのよぉおおおおおおおおおお!?」
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