第31話 皇帝の前で恥をかくバカ王子たち
皇帝の誕生日パーティが開かれている。
主賓である皇帝陛下は、上座に座っている。彼の前には大行列ができていた。
皆、主賓に挨拶をしてるのだろう。
さっさと挨拶して、さっさとホテルに戻ろう。
面倒事が起きる前に……
「セントリアさーーーーーん!」
ぶんぶんぶん! と手を振りながら、レイネシア皇女がこちらに駆けてくる……。
「レイネシア皇女、セントリアのもとへ向かってないか……!?」「どうなってるんだ?!」
「なんで噂の悪女のもとに、皇女殿下が!?」
……ああ、悪目立ちしてる。できれば、この人にも出会いたくなかった。
こうなるのがわかっていたからだ。
……でも、もう向こうに見つかってしまった。
無視するわけにはいかないので、わたしは挨拶をする。
「ご機嫌よう、殿下。今日はお招きありがとうございます」
「いえいえ! さ! こちらへ!」
「は?」
ぐいぐい、とレイネシア皇女がわたしの手を引っ張ってきたのである。
列からはみ出るわたし。……いや、ちょっと待て。
「何処へ行くのですか?」
「お父様の元にですが」
「いやいや……何言ってるですか……? 並んでいるじゃあないですか、皆さん」
皇女はわたしをこの列の先頭につれてこうとしてるのだ。
「皆が並んでるなか、わたしだけズルして、先頭にいくようなことはできません。そんなことしたら、真面目に列に並んでいる人たちに申し訳ないですよ」
「「「な……!?」」」
……列に並んでいる、一部の人たち(わたしたちの会話を聞いてた人たち)が、驚きの声を上げる。
「な、なんだ今のセリフ……?」「噂の悪女が、そんなまともなことを……?」「いったいどうなってるんだ……?」
……普通のことを言ってるだけなのに、この驚きよう。
どれだけ、元のわたしがヤバい奴だったのかがわかるな……。
「大丈夫ですわ♡」
「大丈夫じゃあないです……」
「さぁさぁ」
ぐいぐい、と皇女はわたしの手を引っ張っていく。
何度も列に戻ろうとしたのに、結局、先頭まで連れてこられてしまった……。
「なんだ……?」「セントリア・ドロ……?」「なんで先頭に……?」「というか、なぜ皇女と手を繋いでるんだ!?」
……視線が痛い。ほら、悪目立ちしてる。 ああ、帰りたい……。
「お父様っ、セントリア・ドロ嬢をお連れいたしましたっ!」
「おお、君がそうか」
銀髪の男が立ち上がり、わたしの前へとやってくる。
……一瞬、美青年かと思った。でもよく見ると、肌に小じわが見える。
それでも、若々しく見えるのは、鍛えているからだろう。
わたしは彼を知ってる。このマデューカス帝国の皇帝。
「お初にお目に掛かります。皇帝陛下。セントリア・ドロと、申します」
その隣で、ルシウムさまも頭を下げて、挨拶をする。
「初めまして、セントリア嬢。娘と妻を救ってくれた英雄よ」
ざわ……! とざわめきが一気に大きくなる。
「聞いたか!?」「ああ、妻と娘の命を救ったって……!?」「あの悪女が!?」「嘘だろ!?」「どうなってるんだ!?」
……あんまり大きな声で、助けたことを言わないで欲しかったな。正直。
「君へのお礼と挨拶がおくれてすまなかったね」
「構いません。陛下がご多忙なのは存じておりますので」
「君への感謝の印として、金一封を用意してる。帰りに持って行ってくれ」
お礼されるだろうということは、まあ、わかっていた。
正直、かなり困る。
受け取っても、拒んでも、目立ってしまうから。
わたしは言葉を選んで言う。
「ありがとうございます。ですが、お気持ちだけで、十分でございます」
ここで金を受け取ったら、周りから妬まれてしまう。余計な敵は作りたくない。
わたしが困るだけならともかくとして、ケミスト領にも迷惑掛かってしまうだろうから。
そのときだった。
「ちょっと待ったぁ……!」
……ああ、また聞きたくもない声が、どこからか聞こえてきた。
振り返ると、人混みをかき分けて、コビゥルがやってきた。
「コビゥルさま。どうなさったんですか?」
「あんた、一体何を考えてるの!?」
「何をって……」
「あの金にがめついセントリア・ドロが、大金ゲットのチャンスに、何断ってるのよ!? ちゃんと役に徹しなさいよ!?」
……はぁ?
何言ってるんだこの人……?
「バカっ、何をしてるんだ!」
「テンラクさま!」
……テンラク王子までこちらへやってきた。
ああ、どうしてこうも面倒事が次から次へ……。
「皇帝陛下の御前だぞ!? 何を騒いでるんだ!」
「だってだって! こいつが変なんだものっ!」
「変なのは君のほうだ!? なぜ騒ぎを起こす? 謝れ!」
「はぁ……!? なんで謝る必要があるのよ!? あたしなんも悪いことしてないしっ!」
「コビゥル!」
テンラク王子がコビゥルの頭を鷲づかみにして、無理矢理頭を下げさせる。
「ご迷惑をおかけして、大変、申し訳ありませんでした! ほら、お前も言うんだよ!」
「いやよ! あたし悪くないもん! 悪いのはこの女だもん!」
「セントリアは何も悪いことしてないだろ!」
くわ、とコビゥルが目をむく。
「な、なんで!? なんであんたがセントリア・ドロの肩を持つのよ!? あんた【まで】オカシナこと言うんじゃあないわよ!」
……あんた、まで?
「もしかしてあんた……セントリアに恋してるの?」
「は!? な!? なにを……」
やれやれ。
「二人とも。少し、静かになさい。皇帝陛下の、御前ですよ?」
はっ、とテンラク王子が我に返る。一方で、コビゥルはまだ不満顔をしていた。
「も、ももも、申し訳ないです!」
「まあよい。下がらせろ」
「はっ!」
テンラク王子がコビゥルの手を引いて、わたしから離れる。
「な、なあ……セントリア」
「はい? なんでしょう」
「その……さっきの君のセリフ。アリエナイって……」
ああ、わたしに恋してるとかなんとか言っていたやつか。
テンラク王子が、わたしに恋する?
「アリエナイでしょ。だって、わたしを振ったのは他でもない貴方でしょ?」
「い、いやまあ……そ、そうだが……。その……もしかして僕への未練が少しでもあるんじゃあないかって……」
「いえ、全然」
全く、これっぽっちも、わたしはテンラク王子への未練なんてない。
なぜなら、中身が違うからだ。
王子に惚れていたのは、セントリア・ドロであって、転生者ではない。
「…………そ、うか」
「はあ……」
とぼとぼ、とテンラク王子が去っていく。
「何あれ……?」「ゲータ・ニィガの王子でしょう?」「あの騒いでいた女は?」「王子の新しい婚約者らしいぞ」「あんな無礼な女が……?」
テンラク王子は、そそくさとその場を後にする。
「ちょっと今あたしの悪口言った奴だれよ!? テンラク様、そいつを不敬罪でしょっ引いて……」
「もうおまえは、黙ってろ!!!!!!!」
「な!? な、なによ……黙ってろって……なんなのよっ。ヒーローが、主人公に楯突いてるんじゃあないわよ!」
「もう口を開くな、バカッ!」
「バカぁ!?」
……最後まで大騒ぎしていたな、あのバカップル……。
「ご迷惑を、おかけして本当に申し訳ございません」
わたしは皇帝陛下に頭を下げる。
「君が悪いわけじゃあない。騒いだのはあのバカどもだ」
「しかし……」
すると皇帝陛下は微笑む。
「娘と妻の言っていたとおり、君は本当に礼儀正しい、素敵なレディだね。とても気に入ったよ」
「恐縮です」
とりあえず、皇帝陛下の、ケミスト領への心証が悪くなった訳じゃあないようだ。
ホッ……。
……しかしまったく、どうしてあの二人は、わたしに絡んでくるんだろう。
婚約破棄したのは、不要だと追い出したのは、そっちだろうに。
はぁ……。
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