第28話 トラップを仕掛ける
さて、帝国へ行く日になった。
わたしはアインの村に足を運んでいた。
「うぉ……! 嬢ちゃん……すげえな……めっちゃ美人になってるじゃあねえか!」
アインス村長がわたしを見て目を丸くしてる。
今のわたしは、レイネシア皇女が用意してくれたドレスとアクセサリーに身を包んでいる。
「髪の毛も艶々サラサラだしよぉ……。まるで貴族の令嬢だぜ」
「お忘れのようですが、いちおう、セントリア・ドロは貴族令嬢ですよ?」
「そうだったな。忘れてたわ。で、嬢ちゃんとルシウム、どうしたんだ? 今日から帝国入りだろ?」
馬車を使って帝国へ行くなら、このアインの村を通る必要がある。
でもわたしには土地瞬間移動がある。
なのにどうしてここにいる……? と聞いてるのだろう。
「出かける前に、ちょっとネズミを退治しておこうかと」
「ネズミ?」
「ええ。近くにもありますので、見てみます?」
「ああ……」
アインス村長はピンと来ていないようだった。
わたし、村長、ルシウムさまの三人は森の中に入る。
「パーティは数日行われます。わたしもルシウムさまも不在となります。その間に、悪い輩がこないとは言い切れません」
「そうかぁ……?」
……まあ、しょうがない。ここケミスト領は、奈落の森に囲まれてる。
魔物うろつくこんな場所に、わざわざ人は訪れない。
善人だろうと、悪人だろうと。
図らずもこの魔の森が、人の害意や悪意から領民を守る、結界の役割を果たしていたのである。
でも……だ。
「前回、わたしは帝国で、魔族に内通してる人物と出会いました」
皇妃暗殺を企てた、あの宮廷医……魔族に通じていたらしい。
呪いを魔族からさずかっていたそうだ。
しかも、思いを悪い方向へ暴走させる暗示まで使い、宮廷医を操っていた。
……魔族。
【びにちる】世界に存在する、人間の敵対種族だ。
強大な魔法の力(知性のステータス)に、膨大な量の魔力(MP)。さらに、特殊な能力という魔のモノ特有の異能まで持ち合わせてる。
はっきり言ってかなり強い部類のNPCだ。
何度か戦い、何度か負けたことすらある。
が、魔族はこの【びにちる】の本編の時代において、かなり数が減少してる。
かつていにしえの勇者が、魔族の王を倒し、結界を作って、別次元に追放したそうだ。
結果、魔族の数は激減。世界に平和が訪れた……はずだが。
なぜか魔族は人間の住む世界から根絶されることはなく、主人公キャラに襲いかかってくる……。
以上が、ゲーム内での魔族の設定だ。
正直魔族については、【びにちる】本編ではかなり、伏線未回収で終わってる。
ファンのなかでは、【びにちる】の続編で、複線が回収されるのでは無いか……とまことしやかに噂されていた。
1ユーザーでしかないわたしには、真相はわからないけども。
……話を戻そう。
「魔族の計画を潰したわたしに、やつらが目を付ける可能性は大いにあります。報復活動をしてくるかもしれないです」
「なるほど……確かに嬢ちゃんがいないと、魔族とは戦えないなぁ。恐ろしく強いんだろ?」
「ええ、とても」
アインス村長が深刻な表情で黙ってしまった。
「まあ、狙うとしたらわたしを直接の可能性が高いです。ケミスト領襲撃は、低い可能性です。が。万一に備えて、わたしは罠をしかけておきました」
「罠……?」
「ええ。ちょっとした落とし穴を、奈落の森じゅうにしかけました」
奈落の森には、人間の通る道がいくつか存在する。
その通り道に、落とし穴をしかけて置いたのだ。
「ん~……それ、あぶなくねーか? 穴に落ちたのが魔族ならいいけどよぉ、全く無関係の連中が落とし穴に落ちる可能性だってあるだろう?」
アインス村長の懸念してるとおりだ。
魔族ではない、普通の人間が落ちたら大問題である。
「そこもちゃんとクリアしてる」
スッ……とわたしは指を地面に向ける。
「村長。そこに立っていただけますか?」
「? こうか」
村長がわたしの指定した場所に乗っかる。
「何も起きないけど……?」
「では……ふぇる子! 来てください」
ざざざっ、と木々を駆け抜けて、フェンリル姿のふぇる子が現れる。
『なによ?』
「村長が立ってる場所に立ってください」
『ふん、ま、いいわ。特別に言うことを聞いてあげる、感謝なさい』
村長が退いて、ふぇる子が立った……そのときだ。
ズボッ……!
どぼぉおん!
「いきなり落とし穴ができた!? どうなってんだ!?」
「土地神の加護が一つ、罠作成スキルを使ったんです」
罠作成。使用すると、その場に落とし穴や落石と言った、罠を作成するスキルだ。
「罠の発動条件は結構いじれるんです。設置して何秒後に発動とか、誰かが踏んづけたら発動するなど」
この誰かに、魔族を設定したのだ。
「ほぉー……なるほど。魔族が践めば発動する落とし穴か。しかし落とし穴くらいじゃあ、逃げちまうんじゃあないか?」
「でしょうね。だから……こうしたんです」
穴をのぞき込む。
二メートルくらいのまあまあ深い穴だ。
『はぁ~……さいこぉー……♡』
「これって……嬢ちゃんの作った温泉だよな?」
穴の中にはお湯で満たされてる。
ふぇる子がうっとりとした表情で温泉に浸かっていた。
「ですです。採掘スキルで作った、デトックス温泉です」
「? そいつは編じゃあ無いか。これは罠作成スキルで作った落とし穴なんだろう? なんで採掘で作った温泉が沸いてるんだ?」
まあ当然の疑問だろう。
「裏技浸かったんですよ。【スキル合成】です」
「スキル合成……?」
「二つのスキルを同時発動させることで、新しい効果を生み出す裏技です」
ルシウムさまが首をかしげる。
「スキルは基本的に、1つずつしか発動できないのでは?」
「はい。ですが、発動を宣言してから発動するまでの間に、少しラグがあるんです。その間に、別のスキルを撃つことで、二つのスキル効果があわさった、別のスキルがたまに生まれるんです」
ゲームでは、戦闘中スキル名を押すと、発動までの時間が存在する。
その間に、別のスキルを押すことで、同時発動したとカウントされ……合成スキルができたりするのだ。
が、全てのスキルで合成スキルができるわけではない。
相性とかあるのだ。
「つまり嬢ちゃんは罠作成と、採掘二つのスキルを組み合わせて、この温泉トラップを作った訳か」
「ですです。デトックス効果があるので、悪人が入れば悪事を働けなくなります」
デトックス温泉で、毒気を抜けることは確認済みだ。
「嬢ちゃんほんと、色んなこと知ってるなぁ。さすがだぜ」
「これで魔族が外部から来ても安心ですね」
そう、魔族は、こうやって防げる。
でも……。
「悪意を持った人間……たとえば盗賊などは、この落とし穴が使えません」
落とし穴の条件に、【種族が魔族】と入れてしまっているから。
人間を落とせない。
『そこはあたしがなんとかしてやるわよ~』
温泉に浸かった状態で、ふぇる子が言う。
『盗賊程度だったら、何人来ようと、あたし一人でボコボコにしてやるわよ』
魔族複数人ならともかく、人間、しかも盗賊をするような連中なら、ふぇる子一人で問題ないか。
「ありがとう、助かります」
『ふん! 勘違いしないでよね! 別に人間の言いなりになったわけじゃあないんだから! セントリアが居なくなったらこの心地よい温泉に入れなくなるから、仕方なく手伝ってやってるんだから!』
「ええ、わかってますよ」
『よろしい! じゃ、とっとと行ってきなさいな』
「ええ、後のことはよろしくお願いしますね」
こうして、わたしはルシウムさまと一緒に、帝国へと向かうのだった。
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