第27話 パーティ用ドレスをタダでもらう
パーティに参加することになった、あくる日。
ケミスト領の古城、わたしの部屋にて。
「セントリアさん。聞きましたよ。パーティに参加なさるのですってね」
ルシウムさまがわたしのもとへとやってきた。
「はい。皇妃さまに誘われまして……」
「あまり気乗りしないようですね」
彼がわたしを見て、苦笑する。
「バレてしまわれましたか」
そんなに顔に出ていただろうか……。
「行きたくなければ、貴女は行かなくてもいいんですよ? 大丈夫、領主である私だけが顔を出せば十分ですよ」
「まあ……」
ルシウムさま、もしかしてわたしに気を遣ってくれてるのだろうか。
優しい人だな、と改めて思う。
「お心遣い感謝します。ですが……誘われた本人が行かないと、それはそれで問題になりますよ。あなたに、そして領地に迷惑はかけられません」
ルシウムさまが近づいてきて微笑む。
「ありがとう、セントリアさん」
「いえいえ」
わたしたちは微笑む。
「私としては、貴女にはぜひパーティに行って欲しいと思ってました」
「それはどうして?」
「セントリアさんが、噂の悪女なんかではなく、とても心清らかで、美しい女性だと皆さんに知ってもらえる良い機会だと思ったからです」
歯の浮くようなセリフを、よくもまあ、照れずに言えたものだ。
これが年の功(60歳)というやつだろうか。
「ご冗談がお上手ですね。そうやって亡き奥様もくどいたのでしょう?」
「私は真実を言ったまでです。お嬢さんがキッとパーティへ行けば、周りの男性達は貴女に夢中になると思いますよ」
本当にお世辞の上手な人だな……とそのときだった。
コンコン。
「どうぞ」
入ってきたのは、使用人のひとりだ。
「どうなさったんですか?」
「それが……奥様あてにお客様が来ております」
客……?
わたしあて……?
「来客の予定は?」
とルシウムさまが尋ねてくる。
「いいえ、特に……」
「ふむ……一応通してもらえますか?」
わたしたちは応接室へと向かう。
そこには……。
「な、なんだこれ……」
たくさんの人がいた。なんか身なりが皆いい。
背の高い女性がつかつかつか、と近づいてきた。
「初めまして、ワタクシ、貴方様のドレスを仕立てるようにと、この度派遣されたものでございます!」
「は、はぁ……? ドレスを仕立てる……?」
ええ、と女性がうなずく。
仕立て師なんて、そんなの頼んだ覚えがない。
ルシウムさまも困惑していた。一体だれが派遣したというのか……。
PRRRRRRRRRR♪
通信用の魔道具に、着信があった。
……レイネシア皇女からだった。まさか……。
「ごきげんよう……」
『ごきげんよう! そちらに仕立て師や宝石商人を派遣したのですが、到着したでしょうか?』
「ええ、たった今……。しかし、なんでですか?」
『だって、セントリアさんってば、パーティに着てく服も身につけるアクセサリーも持っていないというんですもの!』
婚約破棄されて、こちらに飛ばされてくるさい、荷物は最低限のものしか持ってこなかった。
パーティ用のドレスもアクセサリーもない。そもそも、パーティにお呼ばれすることなんて今後ないと思っていたし。
『だから、わたくしとお母様で話し合って、人を派遣したのです! あ、料金はお気になさらず。こちらで全て負担しますので』
「は……?」
……今、なにか耳を疑う発言を聞いた。
料金を、全て負担する……?
ちら、とわたしは仕立て師や、宝石商人たちを見やる。
応接室のテーブルには、すでに見本の宝石がズラリ。
仕立て師、つまり、ドレスはオーダーメイド……。いやいや。
「無理です」
と、正直に言ってしまった。
『無理とは?』
「服ってこれ、オーダーメイドですよね? しかも宝石はどれも高価なものばかりです。かなりお金が掛かりますよね……? それを、すべて帝国が負担すると?」
『はい♡』
はいって……。
「相当な金額になりますよ? そんな大金、理由も無く、もらえるわけないじゃあないですか?」
わたしがそう言うと、通信用魔道具の向こうで、とてもおかしそうに、レイネシア皇女が笑っていた。
「どうかしました?」
『いえ……本当に噂はあてになりませんね』
「は、はあ……」
どういうことだろう?
『セントリア・ドロと言えば、金にがめつい強欲な人と聞いておりました。高いアクセサリーや服を平気で買いあさり、一度身につけたら捨てると』
……確かに原作のセントリア・ドロはそんな感じの女だけども。
『本物のセントリアさんは、慎ましく、謙虚で、素晴らしい御仁ですわ~♡』
……別に慎ましくも謙虚でもないんだけど。ただ、感覚が庶民なだけなんだけども。
前評判が悪いせいか、ちょっと遠慮しただけで、大げさに評価されてしまうようだ。
『お金のことは気にせず、好きなドレス、アクセサリーを選んでくださいまし♡ なんだったら、パーティ用だけでなく、普段使い用のものも買ってくださいな』
「大丈夫です。本当に要らないので……」
『では!』
一方的に通話を切られてしまった。
こちらからかけ直そうとしたのだが、通話つながらない……。
「…………」
どうしよう、困った……。
高いプレゼントをされてしまった……。
「セントリアさん。どうなさったのですか?」
ルシウムさまが尋ねてくる。
わたしは状況報告をする。
「皇女殿下のご厚意に甘えてよいと思いますよ」
「しかしこんな高いもの……受け取れないですよ。余計に、悪評が立つんじゃあ……」
わたしの評判がさがると、夫である彼と、そして彼の治める領地の評判までもが落ちてしまう。
それは避けたい。
「受け取りを拒否したら、それはそれで悪評が立つのでは?」
「…………そうですね」
不敬だ! ってなってしまうだろう。
「セントリアさん。素直に、感謝の印として受け取っておいたほうがいいですよ?」
「感謝の印……?」
「ええ。ドレスもアクセサリーも、貴女が帝国の危機を救ったことに対する、感謝の品なんですよ」
「…………なるほど」
なら、なおのこと、受け取らないわけにはいかない……か。
「それに……これは個人的な私の都合になってしまうのですが……」
ルシウムさまが微笑みながら、わたしの頭を撫でる。
「綺麗に着飾った貴女を、見てみたいです」
「? どうしてですか?」
「身も心も美しい貴女が、着飾ることで、より美しくなるところを見てみたいのです。老い先短い老人の頼みを、聞いてもらえないでしょうか」
本当に、お上手だな……もう。
「わかりました」
ぱぁ……! と仕立て師や宝石商たちが笑顔になる。
ああ、彼らも困っていた訳か。
皇族の命で派遣されたのに、受け取り拒否されたらどうしようと。
「奥様! まずはドレスから……最近流行のこちらの生地を使うのはどうでしょうっ?」
「いいえ、まずはアクセサリーからっ。金剛石をあしらったネックレスなんてどうでしょうっ」
二人がわたしに詰め寄ってくる。
……正直、あんまり気乗りしない。ドレスもアクセサリーも興味ない……が。
ルシウムさまたちの思いを踏みにじるわけにはいかない。しょうがない。しばらく、着せ替え人形になるとしよう……。
「好きにしてください……」
「「お任せください! 最高の一品を、仕立てて(用意して)みせます!」」
わたしはため息をついて、仕立て師たちに身を委ねることにしたのだった。
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