第26話 ドライヤー作って驚かれる
宮廷医を、温泉に入れてから何日か経ったある日。
場所はケミスト領の、領主の古城。
PRRRRRRR♪
と、机の上に置いてある、小さな板が震え出す。
「はい」
『こんにちはですわ、セントリアさん!』
「レイネシアさま。こんにちは」
板の向こうから、レイネシア皇女の声が聞こえてくる。
これは、【通信用魔道具】。
【びにちる】世界には、魔法効果を発揮する特別な道具……魔道具が存在する。
マデューカス帝国は特に、魔道具技術が発達してる。
こうして、遠くの人間と通話できる、特別な魔道具を普通に作って、国内で普及してるのだ。
と言っても、通信用魔道具は、かなり作るのに時間と労力がかかるらしい。希少なものだそうだ。
……で、そんな希少なモノを、わたしにポンとくれたのである。
こないだ皇妃を救った、お礼だそうだ。ありがたく使わせて貰ってる……のだけど。
『あの、今日も温泉に行きたいです!』
「……またですか」
定期的に、レイネシア皇女から連絡が来る。内容は、温泉に入りたい、というもの。
「マデューカスにも風呂があるんでしょう?」
『ありますけど、でもでも、セントリアさんの作る温泉は特別なんですっ。お肌つやつやになるしっ。お母様も入りたがってますの!』
レイネシア皇女、そして、皇妃も、すっかりこのケミスト領温泉を気に入ってるらしい。
『だから……ね? お願いします』
マデューカスからここまでは、かなり遠い。馬車で来ると時間がかかる。
……だから、わたしに移動を頼んでいるのだ。
「わかりました」
皇女と皇妃の頼みなのだ。断れない。
領地に迷惑掛かってしまう。
わたしは土地瞬間移動を使い、帝都カーターへと向かい、二人を連れて、ケミスト領地へと戻ってきた。
「何度見ても、貴女の転移スキルは見事ですね。セントリア」
皇妃さまが微笑みかけてくる。
宝石呪が消えてから、すっかり元気になった。
「ありがとうございます。では……わたしは仕事がありますゆえ……」
立ち去ろうとするわたしの手を、レイネシア皇女が掴む。
「一緒にお風呂入りましょう♡」
「いや仕事が……」
「入りましょっ!」
「あ、はい……」
結局わたしたち三人は温泉に浸かることになった。
「はぁ……♡ 何度入っても、素晴らしいですね。この露天風呂はぁ……♡」
先ほどまで、キリッとしていた皇妃は、一転してとろけた表情になる。
「入るだけで、肌も髪の毛もつやつやに、肌のシワも染みも消え、美しくなる……まさに、全女性の夢が、ここにある!」
皇妃の肌は今や20……いや、10代といっても通じるほどに、艶と張りがあった。
この温泉に入る前は、お化粧(白粉)のせいで、肌にかなりダメージがあった。
また、加齢によるシワもみてとれた。それら悩みが、風呂に入っただけで、解決したのである。
「綺麗になるだけで無く、一日の疲れも一瞬で解ける……はぁ……♡ 私……もうこの温泉がないと、生きていけない体になってしまいました」
「わたくしもですわっ、お母様っ♡」
皇妃親子は随分とこの温泉を気に入った様子。
まあそれはいいのだけど。毎回わたしをタクシーにしないでほしい……。
「ところで、セントリア」
「何でしょう? 皇妃さま」
「今度マデューカスで、パーティがあるんです」
「パーティ……?」
「夫である、皇帝の誕生日パーティです」
「はぁ……」
だから、何だろう……。
「貴女にも是非参加して欲しいのです」
「わ、わたし……? どうしてわたしが……?」
「貴女は帝国の危機を救った英雄ですから。皆、貴女に会いたがってるんですよ」
……なるほど。
パーティか……。正直気が進まない。
わたし自身、パーティに興味なんてない。そのうえ、今のわたしは悪名高き元悪役令嬢。
周りからは忌み嫌われてるし、行っても絶対にろくなことにならない。
……けれど皇妃から直々に参加の招集依頼がきたのだ。断るわけにはいかない。
「かしこまりました」
「ではっ、ルシウムさまと一緒に来てくださいませっ」
「わかりました。主人にも伝えておきます」
ざばっ、と二人が温泉から出て、脱衣所へと向かう。
「あーあ、毎日でも入りにきたいのに~」
「勘弁してください……」
そんな毎回タクシーのように呼ばれても困る。
こちらも領主の妻としての仕事があるのだから。
「あ、そういえば……セントリアさん。頼まれていた魔道具、できましたわよ」
「おお、本当ですか」
レイネシア皇女経由で、宮廷お抱えの魔道具師に、【設計図】をわたしておいたのだ。
あれからそんなに時間が経っていないというのに、もう作ってしまうなんて。
レイネシア皇女の侍女が、わたしに、魔道具を渡してくる。
「それはなんですの?」
侍女に髪の毛を拭いて貰ってる、レイネシア皇女が尋ねる。
筒に、とってが着いてる。そう、温泉や銭湯には、必ずと言って良いほどある……。
「ドライヤーです」
「「ドライヤー?」」
皇妃親子がしげしげと、ドライヤーを見つめている。
せっかく、魔道具技術の発展した国と、友好関係を結んだので、魔道具を作って貰うことにしたのである。
簡単な設計図、そして、効果を図示して、宮廷魔道具師に作ってもらったのが、このドライヤーである。
魔道具師から、使い方の説明書がついていた。すごい、注文通りの仕上がりになってる。
「ドライヤーとはなんですの?」
「髪の毛を乾かすものです。こうやって」
スイッチを入れると、温風が出てきた。
肌が痛くない。うん、ちゃんとドライヤーとして機能してる。
温風でわたしは髪の毛を乾かす。
「すごいですわ! あっという間に、髪の毛が乾いてしまいました!」
「本当にすごい。長い髪は、乾かすのにとても時間と手間が掛かるのに……」
この世界ではドライヤーというものがないので、女性達は、風呂上がりにかなりの時間をかけて髪の毛をとかす。
……乾かすのが面倒だから、風呂に入らない人もいるそうだ。現代日本人からすれば、ちょっと想像できないけど(匂いは香水でごまかすんだそうだ)。
「わ、わたくしにも使わせてくださいっ!」
「私も!」
「ええ、どうぞ」
二人がドライヤーを使って、髪をとかしていく。
「すごいですわ! もう乾かし終えた!」
「これは……革新的な、大発明品ですね!」
皇妃とレイネシア皇女が目を輝かせる。
「わたくしたちも、これ欲しいですわ!」
「つ、作って貰えばよろしいのでは……?」
そもそも作ったのは、宮廷お抱えの魔道具師だし。
「あの人、気難しいかたなんですの」
「へえ……でも、じゃあなんでドライヤーは作ってもらえたんでしょう」
「それほど、セントリアさんの提案した、この魔道具が魅力的だったんでしょう。職人魂に火を付けたんですわー!」
……そういうものだろうか。
しかし、ドライヤーをここまで見事に再現して見せた。
その職人に、一回ちゃんと挨拶しておかないと(設計図は、レイネシア皇女経由でわたした)。
まあ、パーティで帝都にいくので、そのときに挨拶できるだろう。
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