第25話 口の固い犯人の口を割る
皇妃を救うことに成功した。
が、これで終わりではない。
土地瞬間移動を使い、わたしたちは、帝都カーターへと戻ってきた。
「さて……尋問させてもらいます」
帝城の地下牢にて。
皇妃の主治医である、宮廷医(治癒師)が、牢屋の中に入れられてる。
「どうして私が閉じ込められねばならないのだっ?」
宮廷医はわたしをにらみつけてくる。
「おまえが皇妃に宝石呪をかけたのでしょう?」
「違うと言ってるだろうがっ!」
宮廷医が檻ごしに叫ぶ。まるで動物園のサルのようだ。
「第一、証拠はあるのか、わたしが皇妃さまに呪いをかけたという証拠はぁ……!?」
「確かに物的な証拠はないですね」
この宮廷医は、皇妃が治ったと聞いた際に、喜ぶことをしなかった。
そこから、こいつが呪いをかけた本人、あるいは、内通してる人物だと予測したわけだ。
が、物的証拠は何もない状況。
「そんな薄い根拠で私を拘束していたのかっ? 悪女め!」
……悪女、か。こいつすらも、わたしの悪評については知ってるようだ。
「善良なる私を騙し、無実の罪を着せようとする! なるほど、噂通りの悪女というわけだな!」
「黙りなさいっ!」
隣に立っていた、レイネシア皇女が一喝する。
「セントリアさんは悪女ではありません! 信頼できる、素晴らしい友人です!」
「レイネシアさま……」
どうやら彼女は、わたしのことを信じてくれるようだ。
すなわち、こいつが悪で、母親を殺そうとした犯人だと。
「おお、殿下までたぶらかすとは……なんという女だ」
「あくまで自分は正しく、間違っているのはわたし、と言いたいんですね」
「当たり前だろうが」
嘘をつき通すつもりのようだ。
「ふぇる子」
「やっとあたしの出番ね」
獣人姿のふぇる子が、牢屋の中に手を伸ばす。
「なにを……がっ!」
ふぇる子が宮廷医の首を掴む。すると、パキパキ……と男の体が徐々に凍り付いていく。
「本当のことをしゃべらないと、凍え死にますよ」
「ひぃいい! 助けてぇえええええええええええええええ!」
「では本当のことをしゃべってくれますか?」
「だからぁああああ! 知らないってばぁああああ!」
宮廷医が叫んでいる。そこには必死さがあった。
……駄目か。
「駄目ね。セントリアが殺す気がないことを見抜いてるわ」
「見たいですね。ふぇる子、離して」
別にわたしは快楽殺人鬼でもなんでもない。
人を殺す。そんなことをしたいわけないのだ。
……甘い、と言われればその通りだろう。その甘さをこいつに見抜かれているのだ。
ギリギリ殺さないだろうと。
……だから、このやり方では、こいつは真相をしゃべらないだろう。
「土地瞬間移動」
わたしたちは、牢屋からケミスト領へと移動する。
「な、なんだここは!?」
「露天風呂ですよ」
「はぁ!? な、なんで!?」
「ふぇる子。そいつを放り込んであげて」
ふぇる子が宮廷医を背負い投げする。
「うわぁあああああああああああ!」
どぼぉおおおおおおおおおおおおおん!
……宮廷医は露天風呂の中に沈んでいった。
「わっぷわっぷ! た、助けてぇ……」
「助ける? なんでですか?」
「おぼれじぬ……」
「足が着くでしょ?」
「ふぇ……?」
ふぇ……って。男が言うな。気色悪いな……。
男がぽかんとしてる。
「な、なんだ……これは。足が着く。それに……このお湯……ちょうど良い温度だ」
「そりゃそうでしょう。温泉ですから」
男が目を丸くしてる。
まあ、殺されかけていたところに、急に温泉に入れられたのだ。
何がどうなってるのだ、と困惑するのは当然だ。
「お、お前達は一体……今度は、何をしようとしてるのだ?」
「わたしがしてるのは一貫して、尋問ですよ」
「尋問って……」
「どうやら痛みや恐怖では、口を割らないようですので。尋問の仕方を変えました」
「い、意味がわからん……それと温泉と、どういう関係が」
「まあ、そのうちわかりますよ」
宮廷医はなおも困惑していた。
「こんな風呂に入れて……いったい……はぁ……」
男の顔が、どんどんととろけていく。
「な、なんだ……これぇ……気持ちいい……」
宮廷医がうっとりした表情でつぶやく。
「心地良い……♡ なんだ……世の中、こんな気持ちいいものがあっただなんてぇ……♡ 知らなかった……♡ しゅごぉいい……♡」
……男があえぐな気色悪い……。
「さて、じゃあ尋問させて貰いましょうか」
「じんもんだとぉお~?」
「ええ。皇妃に呪いを仕込んだ、犯人はだれですか?」
レイネシア皇女が首を横に振る。
「無駄ですわ、セントリアさん。この人はフェンリルさまが尋問しても口を割らなかったのですよ? 温泉に入れたくらいでしゃべるわけが……」
「私れすぅう~……」
「え、ええええっ!? あ、あっさり認めた!?」
よし、しっかり温泉の効果が現れてるようだ。
「ど、どういうことですか……?」
「デトックス効果ですよ」
「で、デトックスって……体内の毒素を抜く、あれですよね?」
「ええ」
女王殺蜂にさされて、毒を浴びたレイネシア皇女から、毒を抜いたあれだ。
「私が……間違っていた……」
つつつぅ……と男が涙を流す。
「金ほしさに、この帝国の宝である皇妃様を殺そうとするだなんて……なんと、愚かなことを……うう……」
「きゅ、急に人が変わったように、正直にしゃべり出しましたね……。どうなってるんですか?」
どうなってるって。
「だから、デトックス効果ですよ。毒気が抜けたんです。温泉に入ったことでね」
ふぇる子相手に試したのだ。
「デトックス温泉に入ると、毒素が抜けるだけじゃあない。悪人は、こうして毒気が抜けて、自白するのです」
キャシーが「いやいやいや……」と首を横に振る。
「さすがに、オカシイだろっ。温泉に入れば毒気が抜けて、真人間になる? そんなのオカシイ!」
「そうですね。わたしもオカシイと思いますよ」
でもここはゲームの世界なのだ。そういう、現実ではアリエナイことが起きても、おかしくはない。
「ただ、事実として、こいつは口を割りました。温泉に入ることによってね」
「そ、それは……そうだが」
事実であるなら、たれを受け入れるしかない。
たとえ、不合理極まる現象であってもだ。
「口の硬い犯人を自白させてしまうなんて、さすがです、セントリアさんっ!」
こうして、皇妃暗殺未遂事件の犯人を、捕まえることができたのだった。
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