第24話 聖なる温泉で呪いを解く
土地瞬間移動を使い、ケミスト領、首都へと戻ってきた。
領主の古城にて。
「どうしました、セントリアさん?」
「ルシウムさま。すみません、突然大勢で押しかけてしまい……」
領主であるルシウムさまがわたしたちを出迎える。
「お爺ちゃん……実は……」
「何かトラブルだね」
ルシウムさまはわたしたちの表情から、緊急事態であることを察したようだ。
「何をすれば良い?」
「ふぇる子を風呂場に呼んできてください」
「それなら問題ないよ。ふぇる子さんは、今まさに風呂場に居ます」
よし、なら好都合だ。
わたしたちは急いで風呂場へと向かう。
レイネシア皇女が心配そうな表情で、皇妃の車椅子をおしてる。
今なお、皇妃は苦しそうな表情のまま、目を閉じていた。
宝石呪はまだ完全に解けていないのだ。
ほどなくして、わたしたちは露天風呂へとやってきた。
キャシーが、皇妃に入浴着を着せてる間、我々は露天風呂へと移動。
「ん? 何やってるのあんたたち?」
「ふぇる子」
フェンリルのふぇる子が、獣人姿で、湯船に浸かっていた。
「頼みがあります」
「ふぅん……まあ聞いてやってもいいわ。なに?」
「素材を提供して欲しいのです」
「はぁ~~~~~~~~~? 素材って……?」
「今から新しいお風呂を作るので、その素材が欲しいのです」
「ふぅん……新しいお風呂ね」
ふぇる子は、フェンリル。神獣だ。
【びにちる】では聖なる力を持った、獣の神とされている。
聖なる力、すなわち、光の力。呪いとは対となる存在だ。
だから……。
「まあいいわ。ただし! 美味しい料理を、あとで作ること! 良いわね!」
「わかりました」
それくらいで言うことを聞いてくれるなら、いくらでもご飯を作る。
「言質はとったわよ」
ざばっ、とふぇる子が湯船から上がる。
ちょうど、レイネシア皇女がやってきた。
入浴着姿の皇妃を、キャシーがおんぶしてる。
「いったい、何をするつもりですの?」
「これから新しいお風呂を作ります。ふぇる子、あなたの毛を……」
パァ……! とふぇる子が目の前で、フェンリル化したのだ。
「ふぇ、ふぇ、フェンリルぅ~~~~~~~~~~~~~~~!?」
レイネシア皇女とキャシーが驚愕の表情を浮かべる。いや……。
「ふぇる子……欲しいのは毛皮であって、別にあなたにその姿になってほしかったわけじゃあないんだけど……」
『この姿で風呂に入れば、湯船に毛が落ちるでしょ?』
いやまあそうだけども。
まあいい。
「ふぇ、フェンリル……? 本当に? あの、伝説の?」
『そーよ。アタシは偉大なる最高神に名前をもらった、氷神フェンリルのふぇる子よ。敬いなさい、人間!』
「は、はひ……」
レイネシア皇女は完全に臆してしまっている。
それはそうだ。レベル4桁の伝説の獣が目の前に突然現れたのだから。
「【採掘】。ふぇる子、空いた穴に飛び込んで」
『仕方ないわねぇ~……とぅっ!』
スキルで作った穴の中に、ふぇる子がジャンプする。
「ふぇ、フェンリルさまが、穴の中に入ってしまわれましたわ……一体何が起きようとしてるのです?」
「新しい温泉を今から作ります。そこに、これから皇妃さまには入って貰います」
ごごごごお! と地面が揺れ出す。
そして……。
ブシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
間欠泉が、目の前で吹き出したのだ。
「な、なんですか!? この……キラキラと輝く、太陽のような輝きのお湯は!?」
豊胸の湯のような、白濁の湯ではない。
まばゆい太陽のような、光り輝くお湯で、湯船が満たされる。
お湯の中にはふぇる子がぷかぷかと浮いていた。
『ふぅ~♡ 気持ちいいわ~♡ 風呂は命の洗濯って言葉は、その通りだわね!』
聞き覚えのあるセリフだ。……誰かから聞いた言葉なんだろう。
まあそれはいい。
「キャシー。皇妃さまを、温泉に」
「あ、ああ……しかし、大丈夫なのか? ここに入れても……。だってその……」
はぁん? とふぇる子がキレる。
『なに? あたしが汚いっていうの!?』
ごぉお! とふぇる子が怒気と供に、冷気を発する。
「ひっ!」
キャシーとレイネシア皇女が完全にびびっている。
「ふぇる子。威嚇しないでください」
『ふん……しょうがないわね』
ぴた、と冷気が消える。
「す、すごい……フェンリルに言うことを聞かせてるなんて……」
「さ、お早く」
キャシーが皇妃をお湯につける。
その瞬間……皇妃の体が光り出した。
「み、見ろ! 宝石呪が、解けていく!」
体の首から下が、完全に宝石だった皇妃。
肌が徐々に、普通のモノへと戻っていく。
ほどなくして、皇妃が目を覚ます……。
「ん……ここは……?」
「お母様……!」
レイネシア皇女がドレスのまま、お湯に飛び込む。
そして、母親に抱きつく。
「レイネシア……私は一体……」
「お母様は呪いにかかっていたんです。それを、セントリアさんが治してくれたんです!」
「!? 呪いを……治す!?」
呪いを解く方法は、基本かけた本人を倒すことでしか、解呪できない。
しかし……。
「まさか、この温泉には、解呪の魔法が付与されてるというのか……」
トリムが驚愕している。
それは仕方ない。
解呪は、文字通り呪いを解く特殊な魔法。
呪術師や聖女といった、一部の、特殊な職業持ちしか使えない魔法だ。
とても、希少な魔法であり、使い手が本当に限られてる。
呪いが解けたとけたということは、トリムの言うとおり、この温泉には解呪効果が付与されてるということ。
「名付けるなら解呪の湯……ですかね」
「凄い……。しかし、どういう理屈で? 解呪は使い手が限られる、希少な魔法だろう?」
トリムの問いかけにわたしが答える。
「神獣フェンリルの毛皮を、素材に使ったからでしょう」
「なるほど……聖なる獣の毛を、素材アイテムとして、温泉に混ぜた。結果、聖なる力が付与され、入れば呪いが解ける解呪の湯ができたんだな」
「そういうことです」
ぶっつけ本番ではあったが、上手くいって何よりだ。
上手く行かなかったら、【びにちる】原作の知識を使い、解呪の使い手のもとへ土地瞬間移動するつもりだった。
が、それが上手く行くとは限らなかった。わたしは現在、元悪役令嬢だから。
信用度の低い状態での交渉は、成功率が低かったろう。
二つの方法を天秤にかけ、成功確率が高い方を選んだ結果である。
「セントリアさん!」
お湯に浸かってずぶ濡れのレイネシア皇女が、わたしに抱きついて、そのまま押し倒す。
「ありがとう! 本当に!」
「どう、いたしまして……」
そんなわたしの元へ、皇妃がやってきて、言う。
「ありがとうございます。あなたは、帝国を救ってくれた英雄……まるで、祖霊ノアールさまのようです」
……ん?
このセリフ……もしかして……。
「あ」
……思い出した。
【びにちる】でも、帝国が危機に瀕するという展開がある。
そのとき、帝国を救った主人公に、【彼】が言ったのが、このセリフだ。
……セリフを言った人間も違うし、展開も違う……けど。
原作では、主人公に言われるはずだったセリフが、わたしに……言われてる?
……神獣との契約といい、今回のセリフ横取り? といい。
原作とは、かけ離れた展開に、なってきてる……?
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