第23話 皇妃の呪いを解きに向かう
「トリム。どう……ですか? わたくし、少しは貴方好みの女に、なれましたでしょうか?」
公衆浴場、脱衣所にて。
マデューカス帝国の皇女、レイネシアが、領主の孫トリムに尋ねる。
「今までも美しかったですが、今はより一層、お美しくなられましたよ」
と、トリムが答える。
ぷく、とレイネシア皇女が頬を膨らませる。
「好みか、そうでないかを、尋ねてるのですっ。大きなお胸は嫌いですかっ?」
「……そ、そうですね。好み、だと思います」
「やった~♡」
どうやら皇女の恋も上手く行きそうだ。良かった。
……ところでトリム、どうしてわたしを何度も見てくる?
なんでチラチラと、こちらの表情を伺ってくるんだろう。
「ありがとう、セントリアさんっ。あなたは恋のキューピットですっ!」
レイネシア皇女がわたしの手を握る。
「まだ恋が成就したわけじゃあないですよね?」
「はう……そうですね」
「ここからは貴方様の頑張り次第です」
「わ、わかりましたっ。頑張りますっ」
手助けはした。後のことは自分たちでなんとかするだろう。
「……やっぱりセントリアさんは、凄いです。今までどうにもならなかった問題を、一気に進展させてしまうんなんて」
ずいっ、と貌を近づける。
「そのお力を見込んで、折り入って、ご相談があります」
……今までの軽いノリから一転、深刻な表情で、わたしに話しかけてくる。
「なんでしょう?」
「母を救って欲しいのです」
「皇妃さまをですか……?」
「はい。実は、母は奇病に悩まされてるのです」
「奇病……?」
レイネシア皇女が母親の病気について説明する。
「母は体が石になっていく病気にかかってるのです」
体が石に……ふむ……。
「石化の状態異常ですか?」
「それが、違うようなのです。宮廷の治癒師、薬師達が治そうとしてるのですが、全く治る気配がなくて……困ってるのです」
……治癒魔法や、ポーションでも治らない石化か……。
まてよ。確かゲームでは……。
「もしかして、その石は、綺麗な色をしてませんでしたか?」
「は、はいっ。キラキラと輝いておりました」
「まるで、宝石のように?」
「な、なんでわかるんですかっ?」
……合点がいった。
「レイネシアさま、それは、病気ではありません。【宝石呪】と呼ばれる、呪い」
「呪いですって!?」
【びにちる】には、相手を状態異常にさせるスキル・魔法が複数存在する。
呪いは、魔族や一部の特殊な職業が持つ、相手をバッドステータスにするスキルだ。
状態異常スキル、魔法と違い、呪いはかなり厄介だ。
「呪いを解く方法は、基本、かけた本人を倒す以外にありません」
「そんな……」
青ざめた表情で、レイネシア皇女がつぶやく。
「い、いったいだれが? 何のために……」
「皇妃を暗殺することで、得をするだれかでしょう。しかし特定してる暇はありません。宝石呪の進行速度は、ランダムです。一気に全身宝石となり、窒息死する危険性もあります」
レイネシア皇女がその場にへたり込んでしまった。
女騎士が彼女の方を支える。
トリムがわたしに頭を下げてきた。
「頼む、セントリア。なんとかしてもらえないだろうか」
……呪いの解除方法は、呪いをかけた本人を倒す。それが王道だ。
しかしその他にも、方法がある。
それは、呪術師の使う特別な魔法、【解呪】だ。
ただ呪術師は特殊な職業だ。すぐに見つからない。居場所は知ってるが……今から行っても間に合わない。
……あんまりこういう出たとこ勝負はしたくない、が。他に方法はない。
「レイネシアさま。今から帝都カーターへ向かいましょう」
「治していただけるのですかっ?」
……ここで治らないかも知れない、とは、言えない。彼女の精神を追い詰めることになる。
だから、堂々と言う。
「はい。わたしにお任せください」
……かけの部分は大きい。駄目だった時のことも考えて、すぐに行動に移す必要がある。
「すぐに参りましょう」
「僕も行く」
わたし、トリム、レイネシア皇女、キャシーの四人で、皇妃の居る帝都カーターへ向かうことにする。
「では、すぐに馬車の手配を……」
とキャシーが言いかける。
「そんな暇はありません。土地瞬間移動!」
……転移系スキルが、この世界では使用者がいないことは重々承知だ。しかも相手は皇族。
スキルを知られることで、面倒に巻き込まれるリスクは、承知の上だ。
そんなことより、人命優先だろう。
「な!? い、今のは転移魔法!?」
キャシーが驚くのも無理はない。
転移魔法の使い手は、極限られてくる。こんな小娘が使って良い代物ではない。
「今のはいったい……」
「先を急ぎましょう」
トリムがうながすと、キャシーは「あ、ああ……」と一応それ以上つっかかってこなかった。
ありがとう、トリム。
わたしたちはカーターにある帝城ノアカーターへと向かう。
上に伸びた、高層ビルを彷彿とさせる城だ。帝国は魔道具作成技術に優れてるから、高いビルが作れる設定である。
わたしたちは帝城の奥へと向かう。
皇妃の部屋へとやってきた……のだけど。
「人が集まってる……まさかっ!」
レイネシア皇女が部屋の中へと駆け出す。
わたしも嫌な予感を覚えながら、その後に続く。
「殿下! 皇妃さまが、たったいま……」
ベッド脇には、宮廷の治癒師がいる。
そして、ベッドの上には、完全に宝石化した女性がいた。
「そんな……! お母様ぁあ……!」
……やはり、宝石呪が進行し、完全な宝石になってしまったようだ。
「残念ですが、こうなってしまっては、助かりませぬ……」
宮廷治癒師が神妙な顔つきでつぶやく。
レイネシア皇女は絶望の表情で、涙を流してる。
……まだだ。
「どいてください。わたしが治療します」
「治療って……おい君バカ言っちゃあいけない! 帝都の最新医療技術をもってしても、皇妃さまは直せなかったんだぞ? それにもう……」
「邪魔です」
わたしは懐から、小瓶を取り出す。
「何をしても無駄ですよ。もう彼女は死んだ」
確かに全身が宝石になってしまった。呼吸は止まっただろう。
けれど、治癒師は『たった今宝石となった』と言った。
そう、まだ死んで間もないのだ。
わたしは小瓶のふたをはずし、彼女の開いた口の中に、液体を流し込む。
すると……。
「かはっ……! はぁ……はぁ……」
「お、お母様!?」
頭部だけ、宝石化が解除されたのだ。
「なんだとぉ!? い、いったいどうなってるのだ……!?」
宮廷治癒師が驚愕の表情を浮かべる。
トリムも困惑していた。
「一体何を飲ませたんだ?」
「若返り温泉の、お湯です」
「若返り温泉……そ、そうか! 呪いが進行する前まで、若返らせたのだな!」
手持ちの道具では、呪いの解除はできない。ならば、呪いが進行する前の状態にまで、戻す。
そうすれば、宝石化で死ぬことはない。
「なるほど……若返り温泉に、こんな使い方ができるなんて……凄い……」
感心するトリムを余所に、わたしは言う。
「まだです。呪いは解けていない」
「確かに……だが、これ以上なにをするというのだ?」
「ケミスト領へ連れて行きます。そこで……皇妃さまには、新しい温泉に入っていただきます」
とりあえず時間的猶予は、できた。
だが、呪いはまだ進行中。現に、皇妃は息を吹き返したものの、また眠ってしまった。
呪いを完全に解かないと、問題は解決しない。
「何処へ連れて行くというのだ!?」
宮廷治癒師がわたしにつかみかかってきた
足下に向かって、銃で発砲する。
「ひっ……!」
腰を抜かす治癒師に、わたしは銃口を向ける。
「邪魔をしないでいただきたい。それとも、治されては困るんですか?」
「そ、それは……」
「キャシー。この人を拘束してください」
「な、なにを!?」
キャシーは言われたとおり、治癒師を捕まえる。
「後で尋問します。呪いをかけた張本人ではないですが、犯人を知ってる可能性がありますので」
「な、何を根拠にそんなことをぉお!?」
「皇妃が治って、喜んでいないのが、あんただけだからよ」
宮廷に雇われてる治癒師のくせに、こいつは宮廷トップの呪いが解けたことに、喜んでいなかった。
だから、怪しいということ。それだけのことで?
もしかしたら犯人とつながりがないかもしれない。が、そのときはごめんなさいと謝れば良い。
「時間が無いので、ケミスト領へ飛びますよ。土地瞬間移動!」
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