第21話 皇女を助け、温泉の虜にする
ある日のこと。領主の古城にて。
「ねえ、セントリア」
人間姿のフェンリル、ふぇる子がわたしに話しかけてきた。
「なんか、あんたを呼んでるわよ」
「わたしを? だれがですか?」
「知らない。森の入り口の村んとこで騒いでる。あんたを呼べって」
領主の孫、トリムが首をかしげる。
「アインの村のことだろう? でも、ここから村までかなり距離があるぞ?」
「フェンリルには【超聴覚】スキルがあるんです」
超聴覚。聴覚を強化し、離れた場所の音を拾うスキル。ゲームだと索敵系のスキルに分類される。
「そうだ。ついでにそっちの男の名前も呼んでるわね」
「僕?」
「そう。行ってやったら?」
なんだろう? まあ、トラブルであることは確かだ。
わたしはトリムと一緒に、土地瞬間移動を使い、アインの村へと向かう。
村の中央では、村人達が集まっていた。なにやら異様な雰囲気を感じる。
「アインス村長」
「嬢ちゃん!? もう伝令が到着したのか?」
「いえ、まだ」
「まだって……」
「それより、何かトラブルですか?」
「ああ、帝国から人が来てよ。そいつが魔物の毒にやられて大変なんだ」
帝国から、客人……?
そんな予定はない……。どうして来たんだろうか。
いや、今はそれどころではない。魔物の毒にやられたのなら、すぐに治療しないと。
わたしとトリムがその帝国からの客人とやらに会いに行く。
「トリムさま!」
鎧を着込んだ女騎士が、トリムを見て目をむく。
女騎士の腕には、銀髪の少女が、真っ青な顔色で俯いてる……。
「レイネシア皇女殿下……!?」
「君も知ってるのかい?」
知ってるもなにも……【びにちる】の主要キャラ(男キャラ)、の妹だ。
レイネシア=ディ=マデューカス。
マデューカス帝国第三皇女である。
年齢は14。
ほっそりとした体つき。長い銀髪。真っ白な肌。
とてつもない美少女だ。
「トリムさま、レイネシア殿下をお救いください! 途中で蜂の魔物に攻撃を受けてしまったんです」
奈落の森の蜂モンスターと言うと……。
「女王殺蜂ですね」
奈落の森に出現する、巨大な蜂のモンスター。巨大蜂の親玉だ。
レベルは大灰狼よりやや上の200。ゲームをやりこんでいればそこまで手こずる相手ではない。
強力な毒を使ってくる、非常に厄介な相手だ。
「大変だ! すぐに解毒の魔法で……」
解毒は、初級光魔法(回復魔法)の一つだ。が。
「駄目です。それでは治りません」
わたしが言う前に、トリムが解毒を発動させる。
だが、レイネシア皇女の顔色は戻らない。
「くそっ!? どうして!?」
「説明は後です。彼女を温泉に運んでください」
トリムがこくんとうなずくと、レイネシア皇女を抱きかかえる。
「な!? お、温泉!? 何を言ってるのだ貴様! ふざけてる場合じゃあないんだぞ!?」
女騎士がわたしに詰め寄ってくる。
「ふざけてなどおりません」
「ならなぜ温泉になど連れて行くのだ!?」
「毒を抜くためです。温泉に入れば毒が消えます」
「意味がわからない! 魔物の強毒を、解毒できるというのか!?」
「その通りでございます」
彼女に顔には、わたしへの不信感がありありと滲み出ていた。
「トリムさま。ここはわたしが。お早く」
「わかった!」
だっ、とトリムがレイネシア王女を連れて離れていく。
女騎士が其れを止めようとするも、彼女の前にわたしが立ち塞がる。
残された女騎士がわたしをにらんでくる。
「その人相……そうか。おまえが悪女セントリア・ドロだな!」
元悪役令嬢の顔と名前は、どうやら随分と有名になっているようだ。
どこでもわたしは嫌われてる……が。
別にそんなのはどうでもいい。問題なのは、皇女が目の前で死にかけてるということだ。
彼女を助ける義理はない。でも助けない、という選択は、ありえない。
わたしの評判はいくらでも落としてもいい。けど、ケミスト領の……ルシウムさまの評判は落としたくない。
助けられなかったことの責任を、ルシウムさまに求められるような展開は避けたいのだ。
「どけ、殿下を王都へ連れて行く」
王都には天導教会の聖堂がある。そこで解毒してもらおうとしてるのだろう。
「ケミスト領から王都は、馬車でかなり時間がかかります。その間に殿下は死にます」
「ここでなら助かるというのか!?」
「はい。絶対に」
「……助けられなかったら、どうなるかわかってるな? 私は貴様を絶対に許さないし、兄上殿下も貴様を……」
と、そのときである。
「「「おおお! すごい……!」」」
わっ、と公衆浴場のほうから、歓声が上がる。
「な、なんだ……? 何が起きてるんだ?」
「ご自分の目で、確かめてきてはどうですか?」
女騎士が歯がみすると、公衆浴場へと駆けだしていく。
わたしも彼女の後に付いていく。
公衆浴場の、女湯へと向かう。今は緊急事態のため臨時休業中だ。
女騎士を引き連れて、わたしは湯船へと向かう……。
「はぁ~♡ 心地良いですわ~♡」
「殿下ぁ……!?」
レイネシア皇女が、夢見心地な表情で、お湯に浸かっていた。
今彼女は、お風呂用の入浴着だ。
薄い生地でできており、裸身を見られたくない人ように作った服である。
「キャシー? どうしたんですの、そんな青い顔をして……」
この女騎士、キャシーというのか。【びにちる】には名前が出ていなかったな。モブキャラだろう。
「殿下……毒は、大丈夫ですか? 女王殺蜂の攻撃を受けて、毒状態になっていたのですよ?」
「そうだったんですね……ご心配をおかけしましたわ。でも、大丈夫ですわ! トリムが治してくださったのですわ!」
レイネシア皇女とトリムは既知の中のようだ。
彼は宮廷で働いているから知り合う機会もあるだろう。
トリムは湯船の外にいる。ホッ……と安堵の息をついていた。
どうやら彼はこの温泉に、彼女を連れてきて、入れたようだ。着替えは多分他の女性村人に頼んだのだろう。
「殿下。僕は何もしていません。あなたを救ったのは、セントリア・ドロ嬢です」
「まぁ……あの有名な?」
悪い意味で有名なのだろう。まあ別にだからといって不快感はない。
わたしはレイネシア皇女の前で、お辞儀する。
「お初にお目に掛かります。ケミスト領が領主、ルシウム・ケミストの後妻、セントリア・ドロでございます」
「レイネシア=ディ=マデューカスですわ。あなたが命を救った……というのは、どういうことですの?」
トリムに代わって、わたしが答える。
「この、【デトックス温泉】を作ったのが、わたしだからです」
「でとっくす……?」
「はい。体内の悪い物質を、外に出す効能がある温泉です」
この温泉は、わたしが作った温泉の一つ。
硫黄を混ぜてあり、なおかつ、湯の温度は下げている。
「代謝を促進し、体の中の老廃物を外に出す……デトックスする効能があるのです」
「いや、オカシイだろ!」
女騎士のキャシーが異を唱える。
「風呂に入って、宮廷魔導士でも解毒できない毒を抜くだと? そんなことできるわけがない!」
「ですが、キャシー。わたくしはこうして、温泉のおかげで助かったのですよ?」
「そ、それは……そうですが」
ぐぬぬ、とキャシーは歯がみしてる。治った現場を見てないから、信じられないのはしょうがない。
「それにしても……なんだか体調が凄くよくなりましたわ。足も……なんだか軽いです」
「デトックスにより、体内の老廃物が排出されたからでしょう」
「ろーはいぶつ?」
「体の中の悪い物質です。デトックスによりむくみがとれたから、足が軽く感じたのでしょう」
「えぇ!?」
レイネシア皇女が自分のふくらはぎに触れる。
「ほ、本当ですわ! 足が……前よりほっそりしている! す、すごい……ただお風呂入っただけなのに……」
レイネシア皇女の目がキラキラと輝き出す。
一方で、キャシーは「…………」と熱烈な視線を、温泉に向けていた。
……騎士は、立ち仕事だ。レイネシア皇女以上に、足はむくんでいるだろう。
「ひとっ風呂浴びていきます?」
「な、ば、バカなことをいうな! あたしは別に風呂など……」
「肩こり、肌荒れ、あせも、疲労感。全部温泉に入れば、一瞬で回復しますよ?」
「なにぃい!? ほ、ほ、ほんとか!?」
「ええ」
キャシーの目が泳ぐ。そこの目には、入りたい、という感情がありありと浮かんでいた。
「し、しかし……こんな得体の知らないものに入るのは……」
「キャシー。あなたも入りま……」
「殿下が言うなら仕方ありませんね! 着替えてきます!」
……どうやら入る口実を探していたようだ。皇女に言われた、という大義名分を得たキャシーは、うきうきと脱衣所へと向かう。
「我々は撤退しましょう。殿下、どうぞおくつろぎください」
「ありがとう、セントリアさん。あなた、噂と違って、とてもいい人ですね」
「恐縮ですわ」
入浴着に着替えたキャシーが戻ってきて、皇女の隣に座る。
「ふぁあああ……♡ なにこれぇ~……♡ とけりゅぅう~……♡」
……どうやら女騎士も、この温泉を気に入ったようだ。
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