第20話 フェンリルを従える悪役令嬢
「うぷ……おなかいたいわ……」
ふぇる子(人間姿)がお腹を押さえて、しゃがみ込んでしまう。
「どうなさったんですか?」
「なんか……胃のあたりがムカムカするの。病気かな? 病気かも! どどど、どうしようセントリアぁ~」
ふぇる子が情けない声を上げる。
ついさっきまで、全然元気だった。バクバク天ぷらを食べまくっていたくらいには……。
あ、もしかして……。
「ふぇる子。あなたは恐らく、胃もたれしてます」
「胃もたれって……食べすぎってこと?」
「ですです。油物は久しぶりだったんでしょう? あんな一気に食べたら、そうなりますって」
「ううー……。確かにぃ~……。ねえ、セントリア、なんとかして」
何とかしてって……。まあ、いいか。事故とはいえ、このフェンリルはわたしの従魔になったわけだし。
なんとかしてあげよう。
「胃薬……いや、待てよ」
こないだ、新しい素材を取ってきた。それを組み合わせれば……。
「待っててください。新しい温泉掘ってきますので」
「また温泉? アタシ別に今は、毛ぇかゆくないんですけど?」
ふぇる子が顔をしかめる。
「もしかして、あんまりお風呂が好きじゃあないんですか?」
「そーよ。別に風呂なんて入らなくても死なないし」
「でもこないだは温泉入ったじゃあないですか」
「あんたが温泉に突き落としたんじゃあないのよ」
そういえばそうだった。自発的にお風呂に入った訳じゃあなかった、この子。
「まあまあ。温泉が一番手っ取り早く、効率的、かつローコストで問題解決できそうなんです」
「ふぅん……難しいことわからないけど、いいわ。好きにさせてあげる。感謝なさい!」
本当にこの子プライド高いな。
そもそもそっちがこちらに頼み事してるような気がするんだけど。
まあ別に腹を立てることも突っかかることもしない。相手はレベル4桁のフェンリル、不興を買って暴れられても面倒だ。
「じゃ、少し待っててくださいね」
「うむ。早くねー。うー……胃がムカムカする……」
ややあって。
古城の裏庭へとやってきた。
元々露天風呂が1つだけだった。
が、この度、土木建築スキルを使い、男湯と女湯にわけた。
わたしが居るのは、女湯。
「ちょっと……セントリア。なによこれ?」
獣人姿のふぇる子が、じろりとにらみつけてくる。
ぴっ、と指さす先には、温泉の湯船があった。
ただし。
「なにこの浅い湯船?」
「これは寝湯です」
「ねゆ?」
「浅めの浴槽に体を寝かせて入るお風呂のことです」
わたしの前には浅く掘った湯船がある。
木製の枕に、そして起き上がるようの手すりが設置されてる。
「ふぅん……こんなお風呂もあるのね」
「さ、横になってください」
ふぇる子がうなずいて、仰向けに寝る。
「少し温めのお湯ね。これなら……ずっと入ってられそうだわ」
「そうでしょう?」
温泉って、確かに入ると気持ちが良い。でも人によっては、熱すぎて、長く入っていられないらしい。
けれどこの寝湯なら、お湯に浸かってる部分は背中のところだけだ。
外気にサラされる面積も広いため、体温が上がりすぎるということはない。
寝湯のほうが、長く浸かっていられる。なにより、寝ながら風呂に入れるのがいい。
何も考えず、ぼーっと空を見上げながら、風呂に浸かりたい時に最適だ。
「なんか……体がじわじわと温かくなってきたわ……」
「そうでしょうとも。それで、ふぇる子。お腹の調子はどうです?」
「あれ……? なんか、ムカムカが消えたわ!」
「それは重畳」
「なんで、どうなってるの?」
「これは、内臓の病に効く温泉です」
「ないぞー……?」
「体の中の臓器ですよ。胃とか、腸とか。入ると内臓の病気が治ります。食べ過ぎ、飲み過ぎ、腎臓病等々」
「な!? なにそれ……すごいわ!」
がばっ! とふぇる子が体を起こす。
……獣人姿となった彼女は、とてつもないナイスバディなお姉さんだ。
体を激しく動かした瞬間、ばるんと大きく胸をゆらした。
男なら皆、見蕩れてしまうだろう。だが残念ながらわたしは女だった。胸が大きいな、以上の感想がでてこない。
「じゃあ、いくら食べても、飲んでも、ここの寝湯に浸かれば一発で元気になれるのね!」
「そういうことです。また、飲泉することで、下痢や便秘にも効きます」
「いんせん……?」
「温泉のお湯を飲むことです」
寝湯の近くに、お湯の出口がある。そこから流れ出るお湯を飲むことで、さらに内臓の細胞を活性化させ、腸や胃の状態を整えることができる。
「温泉って、飲めるのね……。初めて知ったわ……」
ちゃぽ……とまたふぇる子が寝湯に浸かる。 外から風が吹いてくる。
「ふぁあ……♡」
ふぇる子が心地よさそうな声を上げる。
「風……気持ちいいぃ……♡ お風呂……きもちぃい……♡」
どうやらすっかりお風呂が気に入ったようだ。
「こんな気持ちいいお風呂なら、毎日だって入りたいわ。それに、この人間の体もいいわね。毛皮だと、乾かすのに凄く時間掛かるし」
にこー、とふぇる子が笑顔になる。
「あんたの従魔になれて、ほんとラッキーだったわ」
「それは良かった」
ふぇる子は上機嫌でお風呂に浸かっている。そのときだった。
「大変です! セントリアさん!」
ルシウムさまが露天風呂の外から、わたしに声をかけてきた。
「どうしたんですか?」
「衛兵が翼竜にやられ、重症を負ったんです! 腹に大きな穴が空いてます!!」
「! すぐに露天風呂へ!」
外傷に効く、薬草を混ぜた温泉に、けが人を浸からせる。
みるみるうちに、お腹の穴が埋まっていった。
「いつ見ても凄まじいですね、セントリアさんの温泉の力……」
「そんなことより、戦況は?」
「はい。翼竜が複数体、しかも、大きな個体もいて、衛兵達が戦っております」
大きい個体……。まさか、翼竜王?
このあたりでは見られない個体だ。
あいつらはこんな果ての森にようはないはずなんだけども。
しかし翼竜王か。厄介な相手だ。
レベルで言えば氷竜より上。平均してレベル400くらいの敵だ。
「何騒いでるの?」
裸身のまま、ふぇる子がやってくる。
「服を着てください」
「緊急事態なんでしょ?」
「まあ。翼竜王がでまして」
「ふぅん……」
ぼふんっ。
煙が上がると、そこにはフェンリル姿になったふぇる子が居た。
『アタシの背中に乗せてあげるわ。現場に連れてきなさい』
「! いいのですか?」
『良いわよ。そこの人間も特別に乗っていいわ。現場に案内しなさい!』
ルシウムさまが「おお……」と感動している。
「まさか神獣にまたがれる日がくるだなんて……」
「急ぎましょう」
わたしとルシウムさまは、ふぇる子の上に乗っかる。
彼女がぐぐっ、と身をかがめると。大きくジャンプした。
速い、なんてスピードだ。
『で、現場は?』
「森の入り口の村です」
アインの村のことだろう。
『あっちね』
ふぇる子が空中を走る。
「そ、空を走ってます!? これはいったい……」
「空歩スキルですね」
文字通り、空を駆けれるようになるレアスキルだ。
「本当に色んなことを知ってるんですね、さすがセントリアさんだ」
『見えた! あいつね!』
大きめの翼竜と、その配下もいる。
眼下では衛兵達が、弓矢で頑張って倒そうとしていた。
『アタシののんびりお風呂タイムを邪魔しやがって……! 万死に値するわ!』
こぉおお! とふぇる子の口に、青い光が集まってくる。
『死になさい!』
超高温のレーザーが照射される。
熱を奪い、奪った熱を凝縮して放たれる超強力なレーザーだ。
翼竜達はこちらの攻撃に気づいたときには、跡形もなく蒸発していた。
「ほんと、凄まじい威力……」
「ありがとうございます。フェンリルさま。我が領地の危機をお救いなさっていただきまして」
ルシウムさまがふぇる子にお礼を言う。
『セントリアに感謝することね! この子がいなかったら、人間に味方することなんてなかったんだから!』
「そうですね。ありがとう、セントリアさん。貴方はわたしにとっての、幸運の女神さまです。貴方が妻になってくれて良かった」
彼が喜んでくれたようで、何よりだと、わたしは思ったのだった。
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