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第19話 フェンリルを従魔にしてしまう



 土地瞬間移動ファスト・トラベルで、わたしたちは、領主の古城へと帰ってきた。


「セントリアさん、おかえりな……さ……」


 ルシウムさまがわたしを出迎える。

 ぽかん、と口を大きく開く。


『ふぅん、ここがあんたの家? ぼろっちいわね』

「!? しゃ、しゃべった……大灰狼グレート・ハウンド……じゃあない。まさか……フェンリル、ですか……?」


『当たり前じゃあないの! あんなわんころと、この誇り高きフェンリルを、一緒にしないでほしいものだわ!』

「そ、それは大変失礼しました!」


『ふん。まあいいわ。今のアタシは機嫌がいいの。殺さないであげる』


 ルシウムさまが近づいてくる。


「セントリアさん、これは……いったいどういうことですか? 確か、奈落の森(アビス・ウッド)に、素材アイテムを回収に向かったのでは?」


「そのついでに、森の賢狼を連れて帰ってきました」

「……! やはり、この御方が、森の賢狼……」


 ケミスト領に長く住んでいるのだから、この森の主、森の賢狼についても知ってて当然だろう。


「い、いったい賢狼は何をしに来たのですか?」

「わたしの手料理を食べに来たんです」

「て、手料理……」


 いちから事情を説明しようとしたのだけど……。


『ちょっと! ご飯はまだ? あんまり待たされるようだと、キレるわよ!』


 ……どうやらふぇる子は、腹が減っているらしい。

 マツタケあれだけ食べたのだけども。


「お爺ちゃん、僕が彼女に代わって説明するよ」

「え?」


 トリムが自ら進んで、説明を買って出たのだ。


 この人、わたしを嫌っていたのではないだろうか。


「君は早く自分の仕事に取りかかるといい」

「え、ええ……ありがとうございます」


「ふん! 感謝など不要だ。別に君のために、君に代わって説明するんじゃあないんだからな! お爺ちゃんのためなんだからな! 勘違いするんじゃあないぞ!」

「はい、ではお願いします」


 トリムのおかげで説明の手間が省けた。助かる。

 

「知らぬ間に随分と仲良しになったのですね、トリム」

「な!? ち、ちが……僕は別にあいつと仲良しなんかじゃあない!」

「ふふふ、はいはい、そういうことにしましょうか」


 ややあって。

 場所は、古城の庭先。


 ふぇる子が伏せ状態で、大人しく、料理が出てくるのを待っていたようだ。


「お待たせしました」

『本当よっ! いつまで待たせるのよー!』


「すみません準備に手間取ってしまって」

『ふん! まあ良いわ』


 ぶぉんぶぉん、とふぇる子の尻尾が左右に激しく揺れる。


『さっきから漂ってくる、この良い匂いの正体が、気になってしょうがなかったのよね!』


 ここから厨房はかなり離れていたはず……。

 まあ、フェンリルは犬だから、人間よりも嗅覚が鋭敏なのだろう。


『この芳ばしいかおり……揚げ物ね!』

「正解です」


 わたしは大きめの籠を手に持っている。

 飢えに掛かっている、布を取る。


「これは……?」

『天ぷらだぁああああああああああああああああああああああああああああ!』


 ルシウムさまが首をかしげる一方で、ふぇる子が歓喜の雄叫びを上げる。


「ご存知なんですね」

『うん! 大好き! てんぷらー!』


 天ぷらはゲータ・ニィガでは、あんまり一般的じゃあない。

 どっちかというと、ここより海をまたいだ向こう、東の果ての国、【極東ヒノコク】でよく食べられてる……。


 ……どうして、ゲータ・ニィガ出身であろう、ふぇる子が天ぷらを知ってるんだろう……?


 そういえば、美食家な料理人と、昔一緒に暮らしていたって言っていたっけ。


『天ぷら! 早く食べさせなさいよ!』

「はいはい。どうぞ」


 わたしはふぇる子の前に、籠を置く。

 一応、使用人たちには、次々天ぷらを作るように指示をしている。


『食べていい? いいわよね! 食べるから!』

「はい、どうぞ」

『いっただきまーーーーすっ!』


 ふぇる子が山盛り天ぷらに、かぶりつく。


『んみゃぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い♡』


 ふぇる子が空を見上げて吠える。

 そして、ばくばくばく! と食べる。


『これ……! ちょーおいしい! なんの天ぷら?』

「タラの芽です」


『たら? お魚ね!』

「いいえ、お野菜……というか、山菜の一種です」


 わたしはポケットから、緑色の小さな山菜を取り出す。


『草じゃあない! あんた、アタシに草を食べさせたの!?』

「だから草じゃあなくて、山菜ですって。それに、美味しいでしょ?」

『うぐぅう……』


 一方で、ルシウムさまが首をかしげる。


「これ……本当に美味しいのですか?」

「ええ。どうぞ食べてみてください。まだたくさんありますので」


 使用人達が、揚げたてのタラの芽の天ぷらを運んでくる。

 ルシウムさま、トリムがタラの芽の天ぷらを食べる。


「これは……!」

「ほのかな苦みがありつつも、もちっとした食感がなんとも美味い!」


 二人はタラの芽を食べるのが、初めてのようだ。

 

『天ぷらって言えばエビがメインだと思ってたんだけど……山菜も、美味いじゃあない』

「でしょう? ふきのとうとかも美味しいですよ。タラの芽より苦いですけど」


『なんでもいいわ! あるものぜーんぶ持ってきなさい!』

「はいはい」


 使用人達がわっせわっせ、と山菜の天ぷらを運んでくる。


「しかし……このタラの芽、本当に美味しいですね。こんな美味しい山菜が、いったいどこに……?」

奈落の森(アビス・ウッド)にたくさんありましたよ」


「なんと! 気づきませんでした……」

「この時期でしか取れませんからね、タラの芽」


 ほっとくと、目の部分が成長して、食べれなくなってしまうのだ。硬くて食えたものじゃあなくなる。


「しかもこれ、高級食材なんですよ」

「そうなんですかっ? 知らなかった……」


 日本の山のほうでは、結構メジャーな食べ物なのだ。

 

「よく知ってるな?」


 これはゲーム知識では無く、リアル知識である。

 わたしの祖父母は長野の出身なのだ。


 春頃になると、タラの芽をとって、それを天ぷらにしてくれたことがある。懐かしい……。


『げぷっ……はぁ~! 満足だわ!』


 しばらくして、ふぇる子が笑顔で言う。


「あんだけたくさん取ってきたタラの芽が、もう無くなっちゃったわ……」

『すごいわね、あんた。天才料理人? アタシを、あの程度の量の食糧で、満足させるなんて!』


 あの程度って……。かなりの量のタラの芽取ってきたのだけど。


『普段は質の悪い食事しかできないから、量でカバーしてたのよ。でも……あんたの作ってくれたこの天ぷら、どれも美味しくて、こんなちょびっとで大変満足したわ!』


 ……まあ、あの大きな森で食糧難が起きるくらいには、この子は普段からかなりの量を(イヤイヤ)食べていたんだろう。


 それと比べたら、少量か。


「それは重畳です」

『もう森のクソまずい木の実なんか食べないわ!』


 よし、上手くいった。森の賢狼が森の恵みを独占しなくなれば、魔物が人里に降りてくることはなくなる。


 これで、一件落着……。


『ねえ、あんた』

「はい?」


 とんっ、と。

 ふぇる子が鼻先を、わたしの額にくっつける。


『【我が身はあんたの四肢、我が身はあんたの力、我が知識はあんたのしるべとならんことを欲す】』

「え……?」


『【片時も離れず、あんたに尽くすと誓うわ】』


 ふぇる子が、その呪文を唱えた瞬間……。

 パァア……! とわたし、およびふぇる子の体が光り出したのだ。


 こ、これは……!

 まさか……嘘でしょ!?


 みるみるうちに、ふぇる子の姿が変わっていく。

 燃えるような真紅の、長い髪をした、ナイスバディの20代女子へと変化したのだ。


 ふわふわとした髪質、ぴんと尖った狼耳と、尻尾が特徴的。

 一見すると獣人に見える。


「よし、契約完了ね」

「やっぱり! 今の、従魔の契約ですよねっ!?」


「そーよ。今日からアタシ、あんたの従魔になったから」


 従魔契約。

 魔物と人間との間で結ばれる、主従契約だ。

 契約を結ぶことで、魔物から力をもらうことができる……が。


「その契約、本来は……コビゥルが結ぶはずだったんだけど……」


 原作だと、森の賢狼は、【びにちる】の主人公、聖女コビゥルと従魔契約を結ぶはずだったのだ。


 それが……どうしてか、わたしが契約を結ぶことになっていた。


「なんでわたしなんですか……?」

「だって気に入ったんだもん」


「いや、確か、神獣は聖女と契約を結ぶものなんでしょ?」


 確か、原作ではそんな設定だったような……。


「確かにアタシのママは聖女と契約結んだけど、でも必ずしも聖女とじゃなくてもいい、って言われたのよ」

「そう……なんだ。あ、そうですか」


「いいわよ、敬語なんて。あんたはアタシのご主人様なんだからね」


 がしっ、とふぇる子がわたしの首の後ろに、腕を回す。


「喜びなさい! 今日からこの神獣、氷神アイシーバーストフェンリルのふぇる子さまが! あんたの従魔として、あんたのこと守ってやるわ! 光栄に思うことね!」


 ……本来なら、主人公が結ぶはずの契約を、わたしが結んでしまった……。

 これ、大丈夫なんだろうか、主人公コビゥル……。


 まあ、婚約破棄されたわたしには、関係ないけどさ。


「神獣と契約し、従えてしまうなんて……」

「凄いな、セントリア」


 領主祖父孫が、感心したように、そうつぶやくのだった。 

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― 新着の感想 ―
主人公「廃ゲーマーは、伊達じゃない!!」 フェル子「ご主人様、美味しいものもっとたくさん、 ありったけ、下さい!!」 主人公「……太るわよ?」 契約後、そんな会話があったりして((⌒-⌒; ))。
私、チートな主人公が嫌いなんだけど、この主人公好きだわ。チート持ちでは、初めて好きな子だわ。
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