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第18話 フェンリルを美食で骨抜きにする


『悪かったわね、迷惑かけて』


 ぺこり、とフェンリルが頭を下げる。

 最初会ったときはあらぶっていた彼女。


 けれど、かゆみが治まったのか、もうすっかり大人しくなってる。


「いえ、問題ないです」

『でも、アタシはあんたらを危うく殺しちゃうところだったわ』


「大丈夫ですよ。何度やっても負けはしないので」


 じろじろ、とフェンリルがわたしを凝視してくる。


『ねえ……もしかしてあんたって、召喚者?』


 【びにちる】では、出てこなかった単語だ。


「召喚者とは?」

『異世界から召喚されて、こっちの世界にやってくる人たちのことよ』


 わたしのほかにも、異世界から招かれた人間がいる……?

 いや、でも、そうか。わたしが特別ってわけじゃあないのか。


 トリムが首をかしげてる。さて、彼の前で話すべきだろうか……。


【なに、そいつに聞かれたくないの?】


 ……頭の中に、フェンリルの声が直接響く。


【これはテレパシー。神獣の技能よ。あんたもあたしに話しかけるように、念じれば、声が届くわ】

【すごいですね……】


【ま! アタシ、特別な神獣だからねっ】


 ……最強種、という概念が【びにちる】にはある。

 文字通り強い魔物たちのことだ。


 そいつらは知性が高くて、人間の言葉をしゃべることができる設定だ。

 でも……ゲームでは、そいつらがこのテレパシーを使えるって設定は無かった。


 ゲーム時代にはない力、ということか。

 わたしがこの世界で銃を作ったように、この世界独自のものが、ここにもあるのかもしれない。


【で、あんた召喚者なんでしょ?】

【多分。呼び出された、というか気づいたらここにいたというか】


 ……敵意や害意は、今のフェンリルからは感じられなかった。

 わたしは、情報が欲しかった。なので、会話を試みる。


 わたしはこの世界に、気づいたら別人として、転生してきたことを、彼女に明かした。


【なるほど。転生者ね】

【転生者とは?】

【別人に転生してこっちにくる召喚者のこと。他にも、転移してくる転移者もいるわ】


 ……さすが神獣、色んなことを知ってる。


【それにしても、召喚者かー。会うのすっごく久しぶりだわ。アタシの名付けの親も召喚者でね、その人以来】


 召喚者か。

 ……会ってみたいな。


【その人を紹介していただけないでしょうか?】


 同郷の人にあって、はなせるなら、話したい。情報を仕入れておきたい。


【残念。その人もうこの世界にいないんだ……】


 しょんぼりとした表情で、フェンリルが言う。

 ……死んじゃったんだろうか。


 そうだ、わたしがいるこの時間より、前に来てる人の可能性の方が高い。

 この、古くからこの世界にいるフェンリルに、名前を付けた人なんだから。


 ……名前か。


【そういえば、お名前を伺っても?】

【アタシ? アタシはふぇる子】


 ……ずっこけそうになった。


【ふぇ、ふぇる子……さまですか】


 なんだ、ふぇる子って。だ、ダサい名前……。


【さまは良いわよ。アタシが特別に許してあげるっ。感謝なさい!】

【は、はい……】


 どうやらこのフェンリル……ふぇる子に、わたしは気に入られたようだ。

 なんでだろう、なにかしただろうか、わたし。


【あんた、強いわね。アタシ、強い人好きなの。だから気に入った!】

「ありがとうございます」


 【びにちる】公式設定によると、魔物の世界は、弱肉強食。だから、強い個体わたしを、ふぇる子は気に入った様子。


 これで話がしやすくなった。


「では……ふぇる子。お願いがあります」

『聞いてやってもいいわ』


「森の食べ物を独占するの、止めてください」


 ケミスト領の隣にある、奈落の森(アビス・ウッド)

 この時期(冬開け)は、特に森の恵み(木の実等)が減る。


 食糧が足りないせいで、魔物が森から出て、人里に降りてくるようになる。

 けれど、原因は時期だけの問題ではないのだ。


 この森に住む、森の賢狼……フェンリルが、かなりの大飯食らいなのだ。

 それゆえに、なおのこと、食糧が足りなくなってしまうのである。


『嫌よ』

「どうして?」

『なんであたしが、空腹を我慢しないといけないわけ? 飢えて死ねっていうの?』


 ぐるるる……とふぇる子がうなる。怒気だけで、周りの空気が文字通り凍っていく。

 温泉の湯が凍り付くくらいだから、相当な冷気だろう。


 トリムはふぇる子の殺気で、完全に戦意喪失してる。

 わたしは、引かない。


「そうではありません。好き嫌いを無くせと、言ってるのです」

「す、好き嫌い? どういうことだ……?」


 困惑するトリムに、わたしは説明する。


「道中、一口だけかんで、捨てた木の実や野菜がたくさんありました。全部フェンリルの歯形でした。逆に、甘くて美味しい果実は、成っていませんでした」

「このフェンリルが、食べ物をえり好みしてるってことか?」


「その通りです」


 ようは、このフェンリル、美味しいものしか食べてないのだ。美味しくない、苦いものは、少しかんですててる。


 さらに……。


「他の魔物が献上してくる、お魚も、少し食って捨ててますね」


 魚の食いかけの跡も結構あった。多分この子が犯人だろう。

 ようは、そもそも少ない食糧が、このフェンリルが好き嫌いするせいで、さらに減ってるということだ。


『ふん! アタシはね、グルメなのよ。こんな素材そのままのにがーい木の実や魚なんて、食べられないわね』

「グルメって……例えばどんなのが食べたいのんですか?」


『そうねぇ~……。ステーキとか! 照り焼きチキンとか! ハンバーガーとか!』


 ……全部肉だ。しかもメニューが妙に現代チックだ。

 まあ【びにちる】は日本のゲームだからか、日本料理が普通に、あったりする。


『とにかく美味しいお肉が食べたいの! でもここ、美味しいお肉ないじゃあない?』

「ですね。魔物の肉は、処理しないと毒ですし、まずいですしね」


 魔物の肉は、そのままだと本当にまずいのだ。食糧アイテムにするためには、特殊な加工が必要となってくる。


「肉食いたいなら、ここを離れて、牛や豚……家畜を狩ってるところに行って、お肉をわけて貰えば良いのに」

『どうしてアタシがそんな物乞いのまねごとしないといけないわけ?』


 ふんっ、と鼻を鳴らすフェンリル。どうやらかなりプライドの高い子のようだ。


「話をまとめると……貴女は美味しい肉料理が食べたい。でもこの森にはない。だから、仕方なくまずい、食べたくもない木の実や魚をイヤイヤ食べていると」


 そのせいで、木の実や魚を餌としてる、魔物達は餌が足りなくなり、結果、魔物が餌を求めて人里に降りると。


『そーなるわね』

「なるほど……では、こうしましょう。わたしがあなたに美味しい料理を作ってあげます。その代わり……」


『ほんとっ?』


 ずいっ、とふぇる子が顔を近づけてくる。


『美味しい料理、作ってくれるの!?』

「ええ、まあ。なので、森の恵みを食い荒らすの、辞めていただけますか?」


『あんたがアタシの舌を満足させられるなら、良いわよ』


 よし言質をとった。


「お、おい君……大丈夫なのか……?」


 トリムがわたしに耳打ちしてくる。


「大丈夫です。このフェンリルを満足させるだけで、領地はさらに安全になります」

「それはそうだが……相手は神獣だぞ? 神獣の舌を満足させられるような料理を、君は出せるのかい?」


「ええ」


 するとふぇる子が「ふんっ」と鼻を鳴らす。

『言っておきますけどね、アタシかーなーりー、美食家なのよ! 舌がめっちゃ肥えてるんだから!』

「ほぅ。なんでですか?」


『大昔、アタシのそばにいた料理人が、すっごい料理得意でね。その人から美味しいものいっぱい食べさせてもらってたの!』


 なるほど、だから舌が肥えてると。


『もしアタシの舌を満足させられなかったら、あんたの領地……潰すから』

「ひっ! お、おしまいだ……って、君? 何をしてるんだ?」


 わたしは殺戮の天使を、再度焼いて、岩塩を振って串に刺す。


「はいどうぞ」

「はぁ!? き、君! ふざけてるのか!?」


 トリムが声を張り上げる。


「ただキノコを焼いて塩を振っただけじゃあないか! そんなので、この美食家を自称するフェンリルが、満足するわけないだろ!」


 トリムが頭を抱える。


「終わった……もうだめだ……ケミスト領は滅亡した……」

 

 すると、ふぇる子は口を大きく開ける。

 そして…………バクッ!


『うみゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい♡』

「…………ふぇぇ?」


 トリムが情けない声を上げる。

 一方で、ふぇる子は塩を振ったキノコを、バクバク食べる。


『おいしい! すっごく美味しい! 懐かしいわ! マツタケよねこれ!』

「まつ……たけ?」


 トリムは聞き覚えがないようだ。無理もない。彼は知らないんだ。


「トリムさま、実はこの殺戮の天使、違う場所では、【マツタケ】という高級食材として有名なのです」

「な!? ど、毒キノコが、高級食材だと!?」


 正確に言うと、殺戮の天使は、マツタケの亜種だ。

 マツタケがこっちの世界で生えたものなのである。


 環境の違いによって、毒胞という地球にはない部位ができてしまったが。

 でも、元々は日本にある、高級キノコなのである。


『おいち~♡ もっとちょうだい!』

「はいどうぞ」

『おいちぃ~~~~~~~~~♡』


 わたしは殺戮の天使……もとい、マツタケを焼いて、岩塩を振って、それをふぇる子にお出しまくる。


「わたしが居れば、もっと美味しいもの貴方に提供してあげれますよ?」

『まじー!?』


「ええ」

『あんた良いわね! ちょー気に入ったわー!』


 よしよし。

 一方で、トリムがつぶやく。


「す、すごい……あの伝説の獣を、手玉にとってる」

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― 新着の感想 ―
…その、完全に『胃袋を掴まれた』のですね、 神獣フェンリル様。 可愛い(*^◯^*) 主人公「え?わたし人妻だよ?」 えーとモフモフの方、です。 フェる子「ん?」
ポンコツ最高神(人様に迷惑かけまくって……甘やかしすぎたか……OTL)
美香神で草
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