第17話 フェンリルの怒りを鎮める
奈落の森にて。
目の前にはフェンリルがいる。
フェンリル。【びにちる】に数多くいる魔物の中でも、トップクラスに強い魔物だ。
なにせ、レベル4桁当たり前の個体である。
このフェンリルのレベルはわからない。が、最低でも1000。
氷竜がレベル約200だった。単純計算で、フェンリルは氷竜の約五倍、それ以上の強さを持ってる、ということ。
……こんなか弱いキャラが、まともにツッコんでいって、勝てる相手ではない。
しかも……相手は状態異常を抱えてるようだ。
『ア゛ぁ~~~~~~~~~~~~~~! イライラする! スッゴくイラつくうぅうううううううううううううううううううううううううう!』
ごぉおお! とフェンリルの周りに冷気が漏れる。
木々が一瞬にして固まり、ボキッ……と折れる。
わたしだって、スキルで防御しなかったら今頃、同じ風になっていただろう。
「お、おいどうするんだ!?」
トリムが焦ったように言う。
「トリムさまは空中にお逃げください。わたしは一人で戦います」
「バカ野郎!」
スッ……と彼はわたしの隣に立つ。
「君を一人置いて、おめおめ逃げられるか! 火炎連弾!」
トリムは魔力温泉のおかげで、魔力量が増えた。
また、魔法の威力も向上してる。
前よりもパワーアップした上級魔法を、トリムが使う。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
無数の炎の弾丸がフェンリルめがけて飛んでいく。
ジュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!
「なっ!? そ、そんなバカな……!? 火炎連弾が消滅しただと!?」
「あのフェンリルが熱を奪ったのです」
「熱を奪う……!?」
「はい。あのフェンリル……恐らくは、氷神フェンリルでしょう」
「氷神……フェンリル?」
「はい、氷の力を持ったフェンリルです」
フェンリルにも様々な亜種が存在する。
炎を得意とする、炎神フェンリル。
そして、この個体は氷を得意とする氷神フェンリル。
『イラつくのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
ごぉお! とフェンリルの口に、青い光が集まる。
「氷の魔法? なら炎の結界を……」
「トリム! わたしを抱えて飛べ!」
彼が素早くわたしを抱え、そして飛翔魔法で飛ぶ。
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
吐き出されたのは、青い熱光線だ。
それは森の木々、そして地面を焼いた。
炎に焼かれた部分は、塵も残さず消滅していた。
「あれは神狼熱光線です」
「熱……? バカな。氷のフェンリルなのだろう、あいつは?」
「はい。正確に言えば、熱エネルギーを操作するんです、奴は」
熱エネルギーを奪えば、物体は凍り付く。
そして奪った熱を利用すれば、あんなふうに灼熱の光線を放つことができるのだ。
「氷と熱、それが、奴の得意ジャンルです」
「……フェンリルといえば、氷。文献にはそうかいてあった。まさか熱まで使うとは……。知らなかったら……終わっていたな」
氷の攻撃が来る、と思って、トリムは炎の結界を使おうとしていた。
でもそれだと相手の火力を上げる結果になり、超高温レーザーに焼かれて蒸発していただろう。
トリムが青ざめた顔をしてる。
「ど、どうするんだ! あんな化け物をどう殺す!?」
「いえ、殺しはしません。現在の装備で、討伐は不可能です」
確かに、敵の攻撃は全部かわす自信がある。
けれど、フェンリルを倒しきるためには、今の装備だけじゃ、足りない。
もとより今回は、フェンリルを発見し、交渉し、暴れるのをやめてもらおうとしただけだった。
フェンリルは、知性のある魔物だ。
言葉が通じる相手なのだ。だから、言葉によって戦闘を回避しよう。それが今回の目的だった。(最初は殺戮の天使を使って、これをやるから大人しくしてくれ、というつもりだった)
でも、実際にあったフェンリルは、何かが原因で、こちらの話をまともに聞いてくれない状態だった。
戦闘で倒すことはできない。
交渉も無理。
「じゃあどうする!?」
わたしはじっ、とフェンリルを観察する。
『あああああ! イライラする! あー! イライラするぅうううううううううううううううううう!』
フェンリルはわたしに追撃せず、何度も木々に体当たりをしてる。
……なるほど。
「奴を鎮める方法を考えました」
「おお! どうやるんだ!?」
「温泉を作ります」
ぽかん……とした顔になるトリム。
声を荒らげる……かと思ったのだけど。
「僕は、何をすれば良い?」
……なに冗談を言ってる!? などとは、言ってこなかった。
この状況で、わたしが冗談を言わないと思ったんだろう。
「少しの間でいいので、やつの気を引いてください。次の熱光線発射までには、まだ時間がかかります」
あの攻撃は、熱をチャージする必要がある。
撃ってくるとしたら、氷槍連射だ。
レーザーほどの速度はない。
また、氷槍連射は上空に居る敵に当てにくい技だ。
重力があるので、どうして、槍がまっすぐ相手に向かって飛んでいかない。
「やつが熱光線を出すまで、上空から奴の気を引いて、回避することに専念してください」
「わかった!」
わたしは空中に身を投げだす。
そして、着地する。
「フェンリルよ! 僕はここに居るぞ! 僕を殺してみろ!」
『あぁ!? アタシに命令してるんじゃあないわよぉ!』
フェンリルがトリムめがけて、氷槍連射を放つ。
けれど予想通り、氷の槍はトリムに当たらない。
よし、今のうちだ。
わたしは【整地】&【採掘】スキルを発動。
そして、先ほど回収しておいた素材を、温泉に放り投げる。よし。
「トリム! もういい! 下がって!」
トリムがうなずくと、バッ……と背後へ飛んでいく。
「さぁ、フェンリル。わたしが相手してやる。こっちへ来い」
銃を構えて、やつに向かって撃つ。
ドガンッ……!
だが、銃弾がフェンリルに当たる前に凍り付いて、クッキーみたいに粉々に砕け散ってしまう。
攻撃が当たる前に、冷気を放出したのだろう。
凄まじい冷気は、物体を凍り付かせて、粉々にしてしまう。
あれのせいで、物理攻撃はできないし、銃弾による狙撃も通らない。
そのうえ、氷神フェンリルは素のパワーもスピードも半端ないと来ている。
準備が不足してる今、勝てる相手じゃあない。
だから……戦わない。
ずがんっ、ズガンッ……!
『無駄よ! 死ねぇえええええええええええええ!』
フェンリルがこっちにツッコんでくる。
わたしは後ろへ大きくジャンプする。
フェンリルが凄まじい速さで駆けてくる……。
その瞬間。
どっぼぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!
大穴に、フェンリルが落ちたのである。
わたしの目の前には大きな穴が空いてる。
そして、穴の中には、黄色い液体が満ちてる。
「酸の貯まった落とし穴……って、わけじゃあないんだろ、それ」
トリムが空中から降りてくる。
「ええ、温泉です」
「温泉って……つまり君は、温泉にフェンリルを突き落としたってことか?」
「はい」
「いったいどうして……」
すると……。
ぶくぶく……ざっぱぁあああああああああああああああん!
温泉に落ちていたフェンリルが、顔を覗かせる。
『きんもちぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!』
フェンリルが笑顔で、大声を上げる。
『体のかゆみが、無くなったわ……!』
「体の……かゆみ……?」
やはり、そうだったか。
「フェンリルがイライラしてる原因です。あの子、どうやら皮膚病を起こしてたようです」
「皮膚病だって……」
「はい。恐らく、ダニやノミに寄生されていたのでしょう。あれだけ毛むくじゃらなうえ、ここは森の中ですからね」
ダニ、ノミに寄生されて、皮膚がかゆくて仕方なかったのだろう。
「だから、あんなに暴れてたのか……。でも急にどうして大人しくなったんだ?」
「薬浴ってご存知ですか?」
「やくよく?」
「はい。殺菌効果のあるシャンプーを用いて動物をトリミングすることです」
「? つまり……あの温泉には、殺菌効果があると?」
黄金の湯船を指さしながら、トリムが尋ねる。
「そういうことです。あの温泉は、酸性泉といって、お湯が酸性なんです。殺菌効果があり、ノミダニを落とすだけでなく、皮膚病も治療します」
他にも、ふけ、かゆみにも有効だ。
森に生えてる解毒草等、状態状を治す薬草を複数、温泉に投げ入れたのだ。
結果できたのが、あの【酸性泉】である。
「相手の暴走する原因をあの短時間で見抜き、適切な解決策を思いついて実行するなんて……。すごいな、君は」
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