第16話 フェンリルと戦う
トリムの怪我を治し、わたしたちは奈落の森を進んでいく。
「素材アイテムを回収すると言っても……どこにあるのかわかってるのか?」
トリムが尋ねてくる。
「ここは、奈落の森だぞ? 見ての通り、四方を木々に囲まれ、似たような景色が続く。別名、迷いの森ともいえる、自然型の迷宮だ。地図もなしに入れば迷子確実、アイテムを回収するなんて……」
「問題ありませんわ。地図なからここにありますので」
わたしは自分の頭を突く。
このダンジョンには何度も潜ったことがある。無論、ゲームでの話だけれども。
だから、目をつむってても、ここがどこかわかるし、目当てのアイテムがあるのかわかる。
「ふん……。まあ、いざとなれば飛翔魔法で飛んでいっしょに脱出できるからな。勘違いするなよ、僕が脱出するついでだからな。君のためじゃあないんだからなっ」
「はいはい」
ほどなくして、わたしは目的の場所へとたどり着く。
「あった……!」
わたしは大きな木の根元に生えてる、キノコを発見する。
「これを探していたのかい?」
「はい、このキノコが欲しかったんです」
トリムが顔をしかめる。
「君……これを、【殺戮の天使】と知らないのかい……?
殺戮の天使。それが、このキノコの名前だ。
文字通り、食べると即死ぬキノコだから、殺戮の天使と呼ばれてる。
「無論ですわ。これが、毒であることは」
「だったら……」
わたしは殺戮の天使をむしり取る。
そして……鼻に近づける。はぁ……。
「良い匂い……」
「いや、わかるぞ。確かに殺戮の天使は、匂いは良いけど……って、君? 何をしようとしてるんだい……?」
わたしは枝を集める。
「小腹が空いたので、食べようかと」
「バカか君はっ!」
トリムがわたしからキノコを取り上げる。
「言っただろう!? それは、食べると即死の、猛毒キノコだと!」
「ええ、そうですね。生えてるキノコを、ただ採るだけじゃ、毒キノコになってしまいますわ」
「なんだと……? どういうことだ?」
わたしは彼からキノコを奪い返して、持ってきた串に刺す。
手早くたき火の用意をする。
「お、おいこんなとこでたき火なんてしたら、さすがに魔物が集まってくるぞ……?」
「そうですね」
「そうですねって……」
「まあまあ、ちょっと待ってる間、食事でもしましょうよ」
わたしは殺戮の天使を火であぶる。
ああ……芳ばしくて、とても良い匂い……。
「…………」ごくり。
トリムも思わず生唾を飲んでしまう。それくらい、美味しそうな匂いが漂っているのだ。
わたしは焼いたきのこに、塩をパラパラかける。
「お、おいそれ塩じゃあないか? なんでそんな高級品を持ってるんだ……?」
「採取しましたの」
「採取……? バカ言うな。塩だぞ? ここゲータ・ニィガ……もっと言えばケミスト領は、海がかなり遠い。だから塩は貴重品なんだぞ?」
「ええ、わかってますわ。これは……岩塩です」
「岩塩……? そんなものどこで……」
「道中、土地鑑定を行い、岩塩が採掘できるポイントで、スキルを使い獲ってきました」
「いつの間に……というか、岩塩が取れる場所が、ケミスト領にあるのか!?」
目をむくトリム。まあ、わかる。塩は高く売れるから。
それが、安定して採取できるなら、大きな収入源になる。
「はい。あります。ただ、採掘スキルがないと、取れないですが」
「……岩塩を定期的に採取できるなんて……凄い……が、君がいないとできないじゃあないか」
「わたしがずっと居ますので、大丈夫ですよ。さ、どうぞ」
塩を振ったきのこを、わたしは彼に差し出す。
「いや、これ……殺戮の天使だから……」
「大丈夫です。ほら」
ぱくっ。
「バカか君はぁあああああああ!」
彼がわたしの背中をバシバシと叩く。
「吐け! 吐くんだ!」
「大丈夫ですって……」
「ああくそっ! いったん離脱して村にもどって、解毒して貰うぞ!」
「お気遣いありがとうございます。ただほら、大丈夫ですよ。ほらどうぞ」
「もごぉお!」
もう実食させた方が早いなと言うことで、わたしは彼の口に、殺戮の天使をツッコんだ。
「ぐあああああ! 死ぬ……死ぬ……し………………あれ?」
ぽかん……とするトリム。
「どうです?」
「…………死んでいない」
「じゃなくて、味」
「う、美味い……が。今まで食べた、どんなキノコよりも……。それに、体に力がみなぎってくるような……」
よしよし。
「もしかして……殺戮の天使を、無毒化したのか……?」
「はい」
「なっ!? 嘘だろ!? 殺戮の天使の無毒化は、今までたくさんの薬師や商人、錬金術師たちが試したが、全て失敗に終わったんだぞ!?」
でしょうね。
「それは恐らく、採取したあと……毒化したキノコの毒を、抜こうとして失敗したんです」
「なんだと……? どういうことだ?」
「殺戮の天使には、毒胞が存在します」
「毒胞……?」
キノコの傘のつけねに、ぷくっと、ちょっと膨れてる部分がある。
「この部分が、毒胞です。この中に、毒の胞子がたっぷり入ってます。これに気づかずつまんでしまうと、毒の胞子がでてしまいます」
裏を返すと……。
「毒胞を取り除ければ、殺戮の天使は食べることが可能となります」
「な、なんだそれは……そんなの、聞いたことないぞ……」
「そうでしょうとも」
「何故君はソンなことを知ってる……? これに限らずだが」
岩塩の場所、殺戮の天使の無毒化の仕方。
その答えは……全て同じ。
ゲームをやりこんだから。それしかない。
「知ってるから、としかお答えできません。今のところ」
ここがやりこんだゲームの世界で、このゲームをやりこんでいるから、色んなことを知ってる。
そう、正直に明かしたところで、このゲームのNPCである彼が、理解できる話とは到底思えない。
「…………そうか」
と、なんだかトリムは納得したようにうなずく。
「ご納得なされたのですか?」
「完全にじゃあないが。確かに、知識を引き出すスキルというものは、この世に存在する。君もそういうスキルを持ってる……ということにしておくよ」
スキルでは無く技術なのだが……。
まあ、そう思いたいなら、そう思ってればいいと思う。
「しかし……殺戮の天使……はぐ、美味いな……」
「でしょう? ご飯に混ぜても美味しいし、土瓶蒸しにしても美味しいです」
「ふぅん……。で、君はどうして殺戮の天使なんて採取したんだい?」
「魔物をおびき出すためです」
「なっ!? おびき出す……だと!?」
「ええ。たいそうな美食家な魔物ですので」
それに素材である殺戮の天使も回収しておきたかったし。
これで、ここへ来た目的2つを、一気に終わらせるつもりだ。
「しかし魔除けの温泉の効果で、魔物は寄ってこないんじゃあ……」
「そうですね。ただ、魔除けが効かない魔物も存在します。鼻がない魔物だったり……」
ドゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
そのとき、わたしたちの前に、巨大な魔物が、上空から降ってきたのだ。
『へぇ……美味しそうな匂いがすると思ってやってきたら、人間。美味しそうなもの食べてるじゃあないの』
「あ、ああ……」
トリムが、腰を抜かす。
わたしたちの目の前にいるのは……巨大な、白い毛皮の狼。
「初めまして、【森の賢狼】フェンリルさん」
『あら、アタシのことを知ってるのね?』
「そりゃ、もう」
ゲーム時代に、何度も遭遇してるからね。
ということで、わたしはこのフェンリルをおびき出すために、ここでたき火をしていたってわけだ。
トリムが腰を抜かして、ガタガタと振るえてる。
まあ、気持ちはわかる。森の賢狼のレベルは、四桁。
そう、四桁、なのだ。正直まともにやって勝てる相手じゃあない。
『悪いけど……今最高にイライラしてるの。飯だけ置いて消えなさい。そうすれば、逃がしてあげてもいい』
「それはできない相談だね」
『はぁ……!? なにあんた、アタシに楯突くつもり!?』
「いいえ。ただ……わたしはあなたと交渉したいの」
『交渉? はっ! 人間ごときが、この森の賢狼フェンリルに、交渉? 身の程をわきまえなさい!』
ごぉお……! と彼女の体から冷気が発生する。
氷竜も、同じことができた。でも、氷竜よりも、この賢狼のほうが……レベルが上だ。
『アタシ……すっごいイラついてるの! だから……八つ当たりさせてもらうわね!』
目の前に氷の槍が、無数に出現した。
氷槍連射。
上級の氷魔法だ。巨大な氷の槍を作り、マシンガンのごときスピードで連射する。
「おわった……」
トリムがもう諦めてる。でも、わたしは前を見据える。
諦める?
勝負は、こっからだから。
『消えなさい!』
ズドドドドドドドドドドドド……!
『ふんっ。他愛ない』
「なにがですか?」
『な!? あ、あんた……どうして生きてるの!? 氷槍連射で、串刺しにしたはずなのに!』
まあ、何の知識もなかったら、魔法の餌食になっていただろう。
「わたしは、氷槍連射の予備動作を、知ってるからね」
敵の攻撃が来るタイミング、射程、全てを知ってるわたしにとって、攻撃を回避することなんて容易い。
『ああ~~! もう! イライラするわねあんた! ぶっ殺してやる! 後ろの人間もろとも!』
「やらせはしないわ。この人は……わたしの大事な人だから」
ルシウムさまの、だいじなお孫さまだから。
「セントリア……」ぽっ。
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