第14話 森の中で無双
あくる日。
わたしは旅装に身を包んでいた。
アインの村にて。
「では、行って参ります。アインス村長」
奈落の森の入り口に立つ、わたし。
アインス村長が「ああ、気をつけてな嬢ちゃん」と見送りしてくれる。
「ふん、一体何処へ行こうというのだ?」
トリムがわたしに尋ねてくる。
「これから奈落の森に入って、素材を集めてこようかと。一人で」
「な!? ひ、一人で……か?」
「ええ、一人で」
「バカが君は! いいか良く聞くんだ」
トリムが指を立てていう。
「この奈落の森には、高ランクモンスターがうろちょろしてる。しかも、最近の調査では、特別に強い個体が発見されたらしい!」
「ええ、知ってます」
この時代、この時期、この森には【アレ】がいるだろう。
そんなのはわかってる。
どれだけ、この森で周回作業してきたと思ってるんだ。
「だいいち、あんたも何こんな女の子ひとり、森に送ろうとしてるんだっ! 村長! 危険だとは思わないのか!」
……おや?
なんだかトリム、わたしのこと心配してない?
「なんだその顔は?」
「いえ、心配してくださるんですねと思って」
「ふ、ふん! 勘違いするなよ!」
びしぃ! とトリムがわたしに指を向ける。
「別に君が心配なのではない!」
「じゃあ、どうしてわたしの身を案じるような発言を?」
「そ、それは……。別にいいだろうっ!」
「ええ、まあ」
どうにもこの人の、わたしへの態度が軟化してるような気がする。
わたしは何かしただろうか……?
アインス村長は頭をかく。
「大丈夫だぜトリム坊。なにせ、この嬢ちゃんめっぽう強いし。そりゃあんたも知ってるだろ?」
「それは……」
氷竜を倒したところを、トリムは目撃してる。わたしが弱くないことはわかってるんだ。
「じゃ、いってきます。ルシウムさまには、出かける旨伝えてあります。夕方までには戻ります」
「おう、気ぃつけてなー」
……さて。
わたしが森に入る理由は、2つ。
ひとつは、素材を集めるため。そして、もう一つはスタンピードの回避だ。
現状、奈落の森は、森の恵みが足りていない状況にある。
魔除けのお香のおかげで、魔物は人里に降りてこない。
が、魔物達の飢えが解消された訳じゃあないのだ。
極限まで腹を空かせたら、彼らは魔除けを突破してまで、領地に雪崩れ込んでくる危険性が高い。
その前に、その問題を解決しておこうというのだ。
「おい待ちなよ君」
「あれ? トリム様……?」
彼が後ろから着いてきたのだ。
「どうして着いてきたのですか?」
「別に、僕が何処へ行こうと、僕の勝手だろう?」
「ああ、ルシウムさまのためですね」
後妻が死ねば、あの優しいお爺ちゃんのことだ、心を痛めてしまうだろう。
だから、わたしがちゃんと帰ってこれるよう、着いてきてくれたのだ。護衛として。
なんだか、本当にいい人だな。まあルシウムさまの孫だからか。
「ふんっ。いずれにせよ君のためではないことは、あらかじめ言っておく!」
しばらくわたしたちは歩いて行く。
「お、おいおかしいぞ」
「何がですか?」
「魔物が、さっきから襲ってこない」
入り口から歩いて30分ほどが経過。
【目的地】までは、まだかかる。とはいえ、結構な距離を歩いてるというのに、魔物とはエンカウントしていない。
「それはそうでしょう。魔物避け温泉に入りましたので」
「は……? な!? なんだそれは!? どういうことだ!?」
しばらく暇なので、わたしは彼とおしゃべりする。
「魔除けのお香については、ルシウムさまから伺ってますね?」
「ああ……信じられないが、そんなアイテムがあるんだな。もしかして、そのアイテムを持ち歩いてるのか?」
「いいえ」
「なぜだ? 魔物を退けるのだろう?」
「ええ、ですが、魔除けの匂い袋は、設置することで、効果を発揮するのです」
つまり、身につけて歩いても効果がない、ということだ。
どうして、と言われると、そういうアイテムだからとしか答えられない。
ここは完全にゲームの中ではない……が、ゲームの法則が作用する。
【びにちる】では、匂い袋は装備するアイテムじゃあない。だから、持ち歩けない。
「ならば、どうして魔物が我らを避けてるのだ?」
「魔除けの温泉を作ったからです」
「魔除けの……温泉?」
「ええ、匂い袋の中身を、温泉にツッコんだのです」
薬草を温泉に入れると、怪我が治る温泉となった。
なら、魔物を避ける匂い袋の中身をいれれば、魔物を避ける匂いをまとえるようになるかな……と。
「確かに、君からはとてもフローラルな、良い香りがするが……これが魔物が嫌いな匂いなのか?」
「そうなんじゃあないですかね」
匂いの善し悪しなんて、どうでもいい。重要なのは、効果がきちんと発揮するかどうかだ。
歩いてても魔物がよってこないことから、この【魔除け温泉】は、しっかり効果を発揮してるということ。
「にわかには信じられんな……」
「では、わたしから離れて見てはどうでしょう?」
「ああ、そうだな。試してみる」
彼がわたしから数メートル離れる。
その瞬間……。
「ブボォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
黒い毛皮の猪が、トリム様めがけて、襲いかかってきた。
「黒猪!」
レベル70くらいの、猪型モンスターだ。
大きな体、鎧のように硬い毛皮を持ち、鋭い槍のような牙を持つ。
猪突猛進という、防御を無視した攻撃を放ってくる魔物だ。
レベル以上に厄介なのが、その猪突猛進スキルだ。
いくら硬い鎧をきこもうが、防御系のスキルや魔法で防ごうが、それらを突破してクリティカルヒットを与えてくる。
運が悪ければ、即死する。
トリムは飛翔の魔法を使って、その場から一時離脱。
が、その際に足に牙がひっかかったらしい。 右足から血が垂れていた。
致命傷には至っていない。なら、わたしが先にすることは、魔物を倒すことだ。
「ブボォオオオオオオオオオオオオ!」
ズガンッ……! ズガンッ……!
わたしが取り出した銃で、黒猪の両目を狙撃した。
黒猪は視力を失い、木に激突。
そのまま気を失う。
わたしは黒猪に近づいて、4,5発銃弾をぶち込んだ。
「…………」
「魔除け温泉はちゃんと効果ありましたね……って、どうしたんですか?」
トリムが目をむいている。
「やはり……君は、オカシイ。戦いに慣れすぎてる」
「…………」
「普通、あんな恐ろしい魔物を前にしたら、萎縮するものだ。女性ならなおさら……。しかし君は、手慣れたものかのごとく、倒して見せた」
ゲームでは何度も、黒猪を倒してきたから。
そのモーションもわかるし、猪突猛進スキルが、対人スキルであることも知ってる。
人に対する防御無視の攻撃を、できるようになるスキルだから、木や岩に誘導してぶつければ、ダメージが通る。
だから、回避して木にぶつけよう。……そんな風に冷静に考えられるのは、ゲームで何度もこいつと戦ったことがあるからだ。
「本当に君は何者……?」
「言ったでしょう? 単なる小娘ですよ」
異世界から転生してきた、と言っても、どうせ信じないだろうから、言わない。
わたしは腰を抜かしてるトリムに手を差し伸べて、起こす。
勢い余って、彼がわたしに抱きついてきた。
「す、すまん……」
「いえ、気にしてませんので。さ、いきましょうか」
【あれ】が暴れ出す前に、どうにかしないと。
「……こんなもので、惚れるような、チョロい男ではないからな! 勘違いするなよ!」
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