天より星を降らす
エルメルマータの操る馬車は、どんどんと、マギア・クィフへ向かって進んでいく。
「むぬぬぬぬ! 気配を感じるですぅ~~」
エルメルマータが馬車を止め、耳をピコピコ動かす。どうやら敵の気配を感じ取ったようだ。
「魔除けがきかないってことは……相当やっかいな相手みたいね」
イオが険しい表情で、窓から顔をだし、森の木々をにらみつける。
「問題ないですよね」
「ですぅ~!」
エルメルマータがひらり、と御者台から降りる。
「センちゃんにはぁ、最強の神聖騎士がいるからねぇ……!」
えへん、とエルメルマータが胸を張る。
最強のって……。まあ、神聖騎士は一人しか居ないから、彼女が最も強いってことにはなるか。
「そこのエルフ、大丈夫なの? あんま強そうに見えないけど」
「しっけーな!」
エルメルマータがほおを膨らませる。
「大丈夫です。あんまり強そうに見えませんが、これでも凄腕狩人なので」
「そうそう……って、ええ~。センちゃんひどいですぅ~。あんま強そうにみえないなんて~。でも凄腕狩人って言ってくれたから、OKです!」
にぱっとエルメルマータが笑う。
そして、背負っていた梓弓を手に取る。
「な、なにそれ!? 尋常じゃあない魔力が込められてるわよ!?」
「これはセンちゃんの愛が詰まった、武器でうぅ~」
……余計なこと言わないで欲しい。恥ずかしい……。
エルメルマータは静かに梓弓を構え、澄んだ瞳で空を見上げる。魔力がきらめき、風がざわめいた。
「星の矢!」
放たれた一本の魔法矢は、蒼白い光の尾を引きながら上空へと舞い上がる。瞬間――空にきらめく無数の光が炸裂した。
それはまるで、天に瞬く星座が崩れ落ちてきたかのようだった。
矢は星屑となって分裂し、無数の魔矢となって降り注ぐ。音もなく、静かに――しかし確実に、森の奥深くに潜む魔物たちの位置を貫いた。
命中の瞬間、地脈が共鳴したのか、微かに震えが走る。
そして――魔物の気配が、根こそぎ、跡形もなく消え去った。
「よし、クリアですぅ」
「いや……いやいや! いやいやいや! なんなの!? 今の、なんなの!?」
「ふぇ……? 魔法矢ですけどぉ?」
「こんな大規模、かつ正確な軌道で放たれる魔法矢なんて聞いたことないわよっ!」




