またかよ
いざ、マギア・クィフへ向けて出発。
馬車は、奈落の森を進んでいく。
そして――出発から一時間が経過した。
「おかしいでしょ!?」
正面に座るイオが、声を荒げる。
ちなみにエルメルマータは御者台で、手綱を握っていた。
「そうですね」
何がおかしいのか。わたしは聞かずとも、だいたい察していた。
「魔物が出ないことですよねぇ? だから言ったじゃないですかぁ~。魔除けの温泉に入ったって」
エルメルマータがむふーっと鼻を鳴らし、胸を張る。
「いや、それもそうなんだけどさ。もっと他に、変な点あるって気づかない?」
「ほえ~? いへーん?」
エルメルマータは、まるでピンと来ていない様子。
イオは深いため息をついた。
「虫よ、虫!」
「えるを無視ってことぉ~?」
「ちっがう! 虫に全然刺されてないでしょって話!」
……そっちか。
「ふえ? どういうことぉ?」
「……あんた、一応冒険者やってたんでしょ? ならわかるでしょ。森の中って、虫だらけなのよ。ヤブ蚊とか、クモとかさ」
「あー……で?」
エルメルマータののんびりした返しに、イオが盛大なため息をついた。
「こんな深い森の中に入ってるのに、まったく虫に刺されない。これ、おかしすぎると思わない?」
「そうそう! 普通じゃない!」
わたしが補足すると、イオが大きくうなずく。
一方のエルメルマータは「ほえ~」と、やっぱり理解していない。
「える、いつも奈落の森で狩りしてますけどぉ~? 虫に刺されたことなんて、一度もないですぅ? それが普通じゃ?」
「んなわけあるかい……! どうせ、セントリアがなんかやったんでしょ?」
指摘され、わたしはあっさりと認める。
「はい。虫除けの温泉に浸かってますので」
「またか……! どんだけ温泉の効能、多岐にわたるのよ……!」




