第13話 魔法の力を伸ばす温泉
領主の孫、トリムが炭酸風呂に入った結果、視力が回復した。
「すごいですね」
ルシウムさまが感嘆の声を上げる。
「トリムは生まれつき酷い近眼でした。それが、一発で治るなんて……」
「くっ! 確かに凄い効能だ……」
トリムが悔しそうに言う。まあ実際に入ってみるまでは、本当にそれが存在するかどうかなんて、わからないから。
さて。
「トリムさま。他に何か気づきませんか?」
「そういえば……肩や首の痛みが消えたような……」
「ええ。血行を促進することで、疲れ目だけでなく、肩こり、腰痛が一発で消えます」
「確かに……くっ! すがすがしい気分だ。まるで10時間くらい熟睡した後のようだ……まだ入って5分くらいしか経っていないの……くっ!」
よし、ちゃんと作用してる。
炭酸風呂は、血行促進効果がある。これにより、肩などのコリ、目の疲れ、そして冷え性も治るのだ。
それも、入ったら一発で。
普通、温泉に入ってすぐ、効果は現れない。けれど、神の力によるバフで、効果は増強されている。
だから、入ってすぐに効果が現れるのだ。
「セントリアさん。今回はどうやって、この温泉を作ったのですか? 美容温泉のときのように、何かアイテムを混ぜたのですよね?」
と、ルシウムさまが尋ねてくる。
美容温泉の時は、美容にいい果実を混ぜて作った。
怪我を治す温泉は、薬草をまぜた。
「はい。今回の炭酸温泉は、こちらを混ぜました」
わたしが取り出したのは、白い粉だ。
「これはなんですか?」
「炭酸水素ナトリウムです。重曹ですね」
わたしのスキル、【採掘】で、地中から炭酸水素ナトリウムを取り出す。
あとは温泉を掘る際に、これを混ぜる。それにより、二酸化炭素が発生するお風呂が完成したのだ。
「こんな白い粉を混ぜただけで……こんな凄い温泉を作ってしまうなんて……」
先ほどまであった、わたしへの疑念は薄れているようだ。
警戒心が薄れてる。よし。
「トリムさま。実は、今試作の温泉があるんですよ」
「なに……?」
「はい。魔法使いの方にぜひ入って欲しい温泉がありまして……」
「……僕に実験台になれと?」
「話が早くて助かります」
領地には魔法使いがいないので、この試作温泉の効果がわかりにくかったのだ。
そんなときに、宮廷魔導士が来た。
またとない実験の機会である。
出会った当初の彼なら、多分断ってきただろう。
だが……炭酸温泉で、温泉の効果を味わった今なら……。
「ふん。いいだろう。実験台になってやる」
「助かります。ではこちらへ……」
わたしは別の湯船へと移動する。
「な!? なんだこの……紫色のお湯の温泉は!?」
トリムが見て驚いてる。
湯船にはラベンダーのような、紫色の液体が満たされている。
「鉱石の成分によって、変色してるのでございます」
「鉱石……?」
「はい。さ、どうぞ」
「…………ああ」
トリムは恐る恐る、温泉に浸かる。
「ふぅうう……」
深く、彼がため息をつく。
「なんだ、さっきのように、コリが一瞬で解れるようなことはないな」
「効果がわかりにくいんですよ、この温泉。しばらく浸かっててください」
トリムが大人しくしてる。
ややあって。
「もういいか?」
「ええ、どうぞ。では、着替えて戻ってきてください」
「わかった」
トリムが去っていくの一方で、ルシウムさまが言う。
「驚きました。トリムが、初対面の人に、あそこまで懐いてるところを、初めて見ましたよ」
「懐いて……る?」
どこがだろう……。
「彼は幼い頃から頭の良い子でした。ですが、実はかなり人見知りなのですよ」
「へえー……」
人見知り? あれが?
最初からガンガン、わたしとしゃべってたような……。
「孫と仲良くしていただき、ありがとう、セントリアさん」
「当然ですよ。彼もわたしの家族なんですから」
「ふふふ。本当に、噂はあてになりませんね」
ややあって。
彼が着替えて、露天風呂へと戻ってきた。
「で、何をさせるんだ?」
「魔法を撃ってもらいたいんです」
「は……?」
トリムが目を大きくむく。
「僕はさっき、氷竜との戦いで、魔力をほとんど使ってしまったんだぞ?」
「わかってます。ですが……大丈夫です。魔法は使えるはずです」
「いや……氷竜との戦いはついさっきだ。こんな短時間で魔力が回復するわけ……………………まさか!」
さすが、若くして宮廷魔導士になっただけある。
頭が良い。わたしがこの温泉の効能をあかすまえに、気づいたようだ。
「いや、そんな……まさか……そんなことが……ありえない……」
「どうしたんです、トリム?」
魔法使いではないルシウムさまは、ぴんと来ていないようだ。
ばっ、とトリムが空中に手をかざす。
「火炎連弾!」
瞬間、トリムの手のひらのまえに、人間くらいの大きさの火の玉が出現。
「なっ!? なんだこの大きさ!?」
……やはり、こうなったか。でもこちらが想定してる以上の効果だ。
巨大な火の玉が分裂して、空中に弾丸となって射出される。
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!
……火の弾丸の雨あられが、空中に放出された。
「凄いです……。氷竜での戦いのときよりも、多くの火の玉が射出されてるように見えました」
ルシウムさまにも、変化に気づいたようだ。
「いや、それだけじゃあないよ、お爺ちゃん!」
彼が自分の両手を見て叫ぶ。
「火炎連弾を撃ったのに、まだまだ、魔力がつきる様子がないんだ!」
「? どういうことですか、トリム?」
「火炎連弾は、上級魔法だ。魔法はランクが高くなればなるほど、消費魔力が多くなる。僕の場合、2発撃つとほぼ魔力が尽きる」
「それは、火炎連弾を使うと、トリムの魔力の半分がもっていかれるということかな?」
「そう! でも、今魔法を撃ったけど、まだまだ魔法が撃てそうなんだ!」
「!? それは……つまり……まさか……いや……そんな……」
そう、この温泉の効果は、魔力を回復させることだけにあらず。
「魔力量を、増やすことができるんだ!」
【びにちる】では、魔力を増やす方法は一つしかない。
幼い頃に、魔法を使うこと。これだけだ。
NPCたちは、成長してからでは、魔力量を伸ばすことができないのだ。
(例外として、主人公だけはレベルアップボーナスで、魔力を伸ばすことができる。ゲームの都合上だろう。頑張ってもMPが伸びないのでは、お客さんが怒ってしまうだろうし)
「信じられない……おとなになってから、魔力量を伸ばすことができるだなんて!」
「変化はそれだけですか?」
「いや、違う! 魔法の威力も上昇していた!」
思った通りだ。この温泉、魔力量および、魔法出力(ステータスで言うと、魔法の攻撃力となる【知性】ステータス)が向上するようだ。
「魔法出力をあげるためには、たゆまぬ鍛錬が必要なんだ……。こんな、温泉にちょこっと入っただけで、魔法使いとして強くなれるなんて……凄すぎる……」
どうやらこちらが想定した通りの効果を、新しい温泉は発揮できるようだ。
「い、一体どうなってるんだ!? この温泉にはどんな秘密が!?」
「秘密と言うほどではありません。この温泉には、作成のさい【魔力結晶】を混ぜているのです」
「魔力結晶だと!? ダンジョンで取れる、魔力が結晶化した……あの魔力結晶か!?」
「はい」
魔力結晶プラス温泉プラス神の力、それに作り出されたのが、この温泉だ。
「名付けて、魔力温泉です」
「なんてことだ……。こんなのの存在が知れ渡ったら、トンデモナイことになるぞ……。魔法界に、革命が起きる……!」
ルシウムさまは、感心したように何度もうなずく。
「さすがです、お嬢さん」
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