整形の湯
エルメルマータがこのままだと、マギア・クィフには入れない。
その問題を――そう、温泉で解決することにした。
「だからさ、外見を魔法で変えるのはバレるってば」
場所は、ケミスト領古城の露天風呂。
わたしたちは、そこで湯気に包まれていた。
「まーま、センちゃんには秘策があるようなのでぇ」
「秘策って……これのこと?」
目の前にあるのは、試作中の温泉。
「本当に温泉でどうにかなるわけ? うさんくさすぎるんだけど」
「百聞は一見にしかずですぅ~」
エルメルマータは上着を脱いで、迷いもなく全裸になると、そのまま湯に入る。
「あ、あんた……思いきり良すぎじゃない……?」
「えるとセンちゃんは、固い絆で結ばれてますぅ!」
「いや、でもさすがに躊躇なく飛び込める場所じゃないでしょ、ここ……」
「いけるですぅ~」
……まあ、本当にいろいろあったし、この子との間には、確かに絆がある。
信頼してくれるのは、やっぱり嬉しい。……ちょっと危ういけど。
「でも、なーんにも起きないですぅ?」
「いや……待って! 耳、耳が……伸びてる!?」
「ふぇええ!?」
にょきっ、とエルメルマータの耳の形が変化した。
よし、うまくいってる。
「なにこれ!? 外見を変える魔法……?」
「いいえ。言うなれば、外見を“改造”する魔法です」
「が、改造……?」
わたしはうなずき、イオに説明する。
「この温泉に入ると、体の形を思うままに整えられるんです。二重になりたいと思えば二重に。胸を大きくしたいと思えば、大きくなります」
正直、あまり言いたくないけど……いわば【整形】温泉だ。
「つまり、体の構造そのものを変えちゃうってこと……? どういう理屈なのよ」
「血行やリンパの流れを調整し、細胞分裂を促進、あるいは抑制することで、外見を変えるんです」
「いや、できるわけないでしょ!?」
「できます。この温泉なら」
まあ、効果は一時的で、時間が経てば戻ってしまうけども。
「あのぉ~。えるのおっぱいが、かーなーりしぼんでるんですけどぉ~」
……確かに、エルメルマータの無駄に大きかった胸が、ぺたんこになっている。
「エルフにそんな大きな胸の人はいないので。薄くしておきました」
「……私怨入ってないですぅ?」
「まさかそんな幼稚なことするわけないでしょ、まさかそんな」
「ですよねー! センちゃんがそんなことするわけないですよぉね!」
……エルメルマータの、純粋すぎるところが時々、ちょっと心配になる今日この頃だった。




