イオと温泉
イオと温泉に入ることになった。
領主の古城にある、露天風呂にて。
「…………」
「イオさま? 何をやってるのですか? 明後日の方向見て」
バスタオル一枚に着替えたわたしたち。
イオは、湯船のない方を見ていた。
「何って、別に。風呂に入るだけよ」
「そっちは何もないですけど……」
「ぐ! わ、わかってたわよ」
イオがふらふらとわたしの横を通りすぎていく。
だが、つるんっ。
「きゃ!」
ずでん、とイオがその場に尻餅をつく。
「いったー! 何するのよあんた!」
「わたし何もしてないですけど……」
……そこで、わたしは気づく。現在、イオはメガネ尾を外してる。
彼女は、目をめちゃくちゃ細くしてものを見ていた。もしかして……
「目が悪いのですか?」
「そ、そうよ。悪い?」
「あ、いえ。でしたら、こっちのお風呂がいいですよ」
わたしはイオの手を引いて、湯船へと向かう。
「さ、ここに浸かってください」
「……怪しい」
「怪しくないです。ただの温泉ですよ。さぁ」
わたしは先に湯船に入ってみる。
イオはわたしを睨んだ後、湯船に足をつける。多分わたしが先に入ったことで、警戒レベルを下げたのだろう。
イオは両足をつっこみ、そして、体を漬ける。
「はぁ……いいお湯ね」
「そうでしょう? ケミスト領でほれる温泉は最高なんです」
「んっ! あ! な、な、なにこれぇ……♡ か、からだぴ、ピリピリって、あ、あ゛ぁああああ♡」
妙に艶っぽい声を出すイオ。
確かに、この温泉はピリピリとしてる。
「ちょっとあんた! あっ、ど、毒入れてるんじゃあないわよね!?」
「麻痺毒ではありませんよ。それより、なにか気づきませんか?」
「何かってなに……? 別に変わったところ、な、んて……」
どうやら変化に気付いたようだ。
「め、目が! 目がよくなってるわ! メガネがなきゃ何も見えなかったのに!!」
さっきまで足元がおぼつかなかったのは、視力が悪かったから。しかし、温泉に入ったことにより、視力が回復したのである。
「な、なにこれ一体……?」
「電気風呂ですよ」
「でんきぶろ……?」
「ええ。温泉の一つです。微弱な電流を流すことにより、体の凝りをほぐすという効能がある温泉です」
それにより、視力が回復したのである。
「信じられない……視力を回復させる温泉なんて……」
「まだまだ、他にもいろんな効能の温泉がありますよ。魔法効果をあげる温泉とか」
「はぁ〜? そんなの……」
あるわけない、と断定はしなかった。自分自身、視力が回復した、ということを実感したばかりだから。
「さ、温泉につかりましょうか。話はそれからです」




