第12話 孫の視力を、温泉で回復させる
領地に、ルシウムさまの孫、トリムがやってきた。
「ところでお爺ちゃん、どうして偽装の魔法薬で、姿を変えてるんだ……?」
わたしたちはツヴァイの村へとやってきた。
トリムがルシウムさまに尋ねる。
「偽装の魔法薬……?」
確かに外見を変える魔法薬アイテムは存在する。が……。
「いえ、魔法薬は使ってませんよ」
「またまた、お爺ちゃんは冗談がツマラナイよ」
「え……?」
「…………え?」
ぽかん、と大きく口を開くトリム。
「じょ、冗談だよねお爺ちゃん……? 魔法で、姿を変えてるんでしょう?」
「いいえ、違いますよ」
……なるほど。理解できた。
「トリムさまは、魔力感知スキル持ちなんですね?」
魔力感知とは、魔力を感じ取ることで、敵の位置や、魔力量をはかることができるスキルだ。
人間によって魔力量(MP量)は異なる。
ルシウムさまは外見が若返ったとは言え、魔力量は以前のままだ。
トリムは魔力感知を使い、彼が自分の祖父だと思ったのだろう。
で、そんな祖父は外見を魔法薬で変えてる……と思っていたと。
「いいえ、実際に若返ったんです」
「は!? な!? な、何を言ってるんだお爺ちゃんっ! 若返る……? いったいどうやって? まさか! 悪魔とでも契約したのか!」
【びにちる】世界には悪魔が存在する。
悪魔と契約すれば、大いなる力が手に入るのだ。が、その代償にデバフや、バッドステータスを食らったりする。
「いいえ、違いますよ」
「じゃあどうやって!?」
「温泉に入ったのです」
ぽっかーん……とする、トリム。まあ気持ちはわからなくもない。
「お、温泉……? なんでそこで温泉が出てくるんだ……?」
「セントリアさんの作った温泉に入ったら、若返ったのです」
トリムが半笑いになる。
「は、はは……! お爺ちゃんってば、何バカなことを言ってるんだい? 温泉に入って若返る……?」
「バカなことではありませんよ、トリム。本当です。彼女の作った温泉に入ったら、こうなったのです」
「なん……だと……?」
眼鏡の奥で、トリムの目が大きく見開かれる。
「や、やっぱり魔法で姿を変えてるんじゃあ……」
「トリム。信じられないという気持ちは理解できるよ。でもね、どうして私が家族である君に、嘘を言わねばならないんだい?」
「それは……」
トリムはお爺さんが嘘をつくような人間ではないと、知ってるのだろう。
「そんなバカな……若返りだって? 帝国の国家錬金術師でさえ、若返りの秘薬を作ることは不可能なんだぞ!? 外見を一時的に変化する、これが、魔法薬の限界地点のはずだ!」
「でもトリム。お爺ちゃんはこうして、若返りましたよ?」
実物がある以上、若返りの秘法(温泉)があることを、信じずにはいられないのだろう。
「本当に? 本当に、この女が作った温泉で、若返ったの?」
「トリム」
ルシウムさまは穏やかな笑みを浮かべたまま、けれど、はっきり言う。
「この女、ではありません。彼女はセントリアさん。私の妻です」
「お爺ちゃん……」
きっ、とトリムが私をにらんできた。なんだろうか?
「おい悪女! 僕のだいじなお爺ちゃんに、一体どんな薬物を処方したんだ!」
ああ、なるほど。どうやら私が、ルシウムさまに洗脳の魔法薬(人体に悪い系の)かなんかを、処方したと思ってるんだろう。
「そんなことしてませんわ」
「嘘をつけ!」
「嘘ではないと言ってますでしょうに」
疑う気持ちも理解できる。
実家に帰ったら、祖父が若返ってるし、悪女の味方になってるわけだから。
どう考えても、新しくやってきたこの悪女が、領主に何かをした。
そう疑うのも無理はない。
「セントリアさん」
スッ……とルシウムさまが深々と頭を下げる。
「孫が、大変失礼しました」
……ほんと、律儀な人だ。自分が何かをしたわけじゃあないのに。身内のおいたを、ちゃんと謝罪してくる。
わたしは彼の、そういう真面目なところに、好感を持てる。
「いえ、トリムの言ってることはもっともなことですから」
さて……どうするか。このまま家族からずっと、疑念を持たれ続けるのは嫌だ。
ずっと、ルシウムさまを、悪女に騙された哀れな人、と思われるのは、あまりいい気がしない。
……そうだ。ちょうど、テストしたいと思っていたところでもあった。
「では、実際に体験してみるのはどうでしょう?」
「なに? どういうことだ」
「わたしの作った温泉に入ってみては、というご提案です」
「…………」
うさんくさいものを見る目を向けられる。
だが……はぁ、とため息をつく。
「わかった。入ってやろうじゃあないか」
ということで、わたしたちは領主の館へと移動する。
土地瞬間移動で。
「なにいいいい……!?」
領主の古城にて。
トリムは驚きの声を張り上げた。おそらくは、この転移の力に驚いたのだろう。
「き、貴様……! 今まさか……転移魔法を使ったのか!? あの古代魔法の一つの!?」
【びにちる】では、現代では使い手が限られてる、あるいは、使い手が存在しない魔法を、古代魔法と呼ぶ。
古代魔法はレベルアップで覚えることができない。
魔法の構造が書かれてるレアアイテムの魔法スクロールに加えて、高い魔法適性、そして魔法訓練が必要となる。
NPCで古代魔法を習得してる人は居なかった。プレイヤーですら、習得を諦める人が多かった。(非効率的だからだそうだ)
古代魔法の一つ、転移魔法を使ったことで、彼は驚いてるのだろう。
トリムは宮廷魔導士だ。魔法の腕には自信があるのだろう。そんな中で、古代魔法を使った(と思われる)女が目の前に現れたのだ。
驚き、動揺するのは無理もない。
「転移魔法ではありません」
「なっ!? と、ということは……転移スキルだと!?」
「ええ。わたしには土地神の加護がありますので」
「………………」
トリムが向ける目には、疑いの色が、より濃くなってるように思えた。
「氷竜を倒した戦闘力、謎の武器に加えて……この力……。常人とはとても思えない」
ぶつぶつと後ろで何事かをつぶやいてる。
わたしたちは、古城にしつらえた温泉へとやってきた。
「これがセントリアさんの作った温泉です。おや? 湯船の数が増えてますね」
露天風呂の前までやってきたわたしたち。
ルシウムさまが、目を丸くしてる。
若返りの湯の他にも、新しい湯船ができてるのだ。
「ポコポコとアワがたってますね……。これはいったい?」
「炭酸風呂です」
「ほぅ、炭酸風呂?」
「ええ。二酸化炭素を発する温泉です。血行をよくする効果があります」
まあ、それだけではないんだけども。
「さ、どうぞトリムさま。長旅でお疲れでしょう」
「…………ふん。着替えてくる」
ちなみにこの古城には、男湯女湯が存在しない。大衆浴場じゃあないから。
ほどなくして、タオルを巻いたトリムが現れる……のだけど。
「トリムさま。どちらへ向かってるのですか?」
壁に向かって、トリムが進んでいるのだ。
くるっ、とこっちを見る。
「…………」
目が、3だった。のび太くんかあんたは……。
「もしかして、目が悪いのですか?」
「そうだよ、眼鏡がなければ何も見えないんだ。それがどうした?」
「いえ、なら好都合かと。温泉に入れば、その悩み【も】解決するでしょうし」
「悩み【も】……? よくわからんが、まあいい、お爺ちゃんの顔を立てて、入ってやる」
トリムが湯船にチャポンと入る。
「んっ、はぁああ………………………………」
トリム様が、ため息をつく。
とろけた表情を見て、ルシウムさまが微笑む。
「心地よいでしょう?」
「ま、まあね……。って、え、えええっ!?」
さっそく、温泉の効果が現れたようだ。
「し、視力が! 視力が……回復してる!? 眼鏡が無くても、お爺ちゃんが見えるよ!」
……どうやら、さっそく温泉の効果が出てるようだ。
「いったい、どうなってるのだ……?」
「この炭酸風呂は、入ると血行が促進され、血の巡りがよくなります。視力を司る筋肉のこりがほぐれ、結果、視力が回復するのですよ」
「信じられん……。宮廷に仕える治癒師でも、天導教会の司祭ですら、視力は回復させられんぞ……」
さて、まあ炭酸風呂の効果は、それだけじゃあない。
ちょうど良いことに、彼は魔法使い。実験させて貰うよ。
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