赤っ恥
温泉を出て、髪を乾かし……そして気づいた。
「服がない……」
「あれれ~? どこいったのかなぁ~?」
……こいつ。
エルメルマータが、わたしの服を隠したらしい。
「何が目的だ?」
あいつは意地悪じゃない。そういうことをする子じゃない。
「むふふふ~。センちゃん改造計画、発令中なんですよぉ~」
「……なんだそれは」
「センちゃんって、美人でしょー? でも全然おしゃれしないの、もったいないなぁって思ってたんですぅ~」
「はぁ……そう」
服にこだわりがあるわけじゃないけど。
「今回のおしゃれは、じゃーん!」
「ば……!? 馬鹿!?」
この残念エルフ、ベビードールを持ってきた……!
こんなスケスケの、えっちな服を……服とも呼べない代物を、わたしに着ろと!?
「馬鹿じゃないですぅ~。えるですぅ~」
「今度から“馬鹿”って書いて“える”って読みますよ……」
「べつにいいですぅ~。事実ですぅ~」
そこは否定してよ……。
「これ着て、ルシウムさんをドキドキさせちゃいましょう~!」
「…………」
わたしは無言でベビードールを受け取った。
「【錬成】」
土地神の加護、《錬成》。
この頭の悪い服を、普通のドレスへと作り変える。
「ああっ! ベビードールがぁ~!?」
「こんなバカな服、着られるわけないでしょ」
「うう~……」
わたしはさっさと衣服を身につけた。
「でもぉ~? おしゃれして、彼をドキドキさせたいなぁって思わない~?」
………………それは、ある。あるけど。
さすがにあの服を着て、彼の部屋に行くのは、無理がある……。
「男って、ああいうの大好きなんですよぉ? ルシウムさんも、所詮はオス! さっきのベビードール、着ていけば絶対センちゃんに釘付けに……!」
「……彼の部屋に行ってきます。あなたは先に戻ってて」
「ちぇ~、つまんないですぅ~……」
エルメルマータは服を着て、脱衣所を出ていった。
……行った? よし。
わたしは一人、ルシウム様の部屋へ向かった。
……誰もいない、よね?
よし……。
「れ、【錬成】」
服をドレスから、ベビードールへと戻す。
いや、まあ、うん……。
かわいいって、思われたいし……。
彼になら。彼に見せるだけなら……これ、着ても……いいかなって。
「る、ルシウムさま。し、失礼します……」
ああ、駄目。恥ずかしすぎて、顔が見られない。
「その……ちょっと、お話があって……その……」
……彼は、何も言ってこない。
え? 見とれてる……?
それとも、わたしの格好に困惑してる……?
どっちにしても、大人の余裕を見せる彼が動揺してるなら、それはそれで――
「……あなた、なにそのはしたない格好」
「は……?」
そこにいたのは、ルシウム様ではなかった。
孫娘――イオだった。
彼女はあきれた顔で、わたしを見つめていた。
あ、あ、ああぁあああああああああああああああああ――――ッ!!!




