ふたり湯けむり相談室
……イオ襲来の夜。
わたしは領主の古城の、露天風呂にいた。
「ふぅ……」
湯に浸かってひと息つく。夜空はよく晴れていて、どこまでも澄みきっていた。
「ですぅ~」
月が陰った。
バスタオルに包まれた二つの胸が、わたしの視界をふさぐ。
「……何してるんですか、エルさん」
エルメルマータが、ちゃっかり風呂に入ってきていた。
「いやぁ、センちゃんが荒ぶってたのでぇ」
心配して見にきたらしい。まったく、ほんとに優しい子だ。
「どうぞ」
「失礼するでーすぅ。……ふぅ~っ」
はふん、と息をついて、エルメルマータが湯に肩まで沈む。
「ちょっと落ち着いたですぅ?」
「ええ。心配かけて、ごめんなさいね」
「えるは別に心配してないですぅ。ルシウムさんもぉ」
……それはそれで、なんかイヤだった。ちょっとは心配してほしい。
「精神年齢はおじいちゃんですからぁ、若い孫がじゃれてるな~くらいにしか思ってないのではぁ?」
「ぐ……」
……確かに、そんな気がする。
外見は若く見えても、中身はすっかり老成してるのだ。
その落ち着きが好きなところでもあるけど――同時に、ちょっとだけ……ずるい。
わたしはこんなに彼に心を乱されてるのに、彼はわたしに動揺したりしない。
それが、ずるい。
「センちゃん。ほら、カモ~ン」
ぱぁん、とエルメルマータが自分の胸を叩く。
「……自慢?」
「ちがいますよぉ~。えるに、どーんっと悩みをぶちまけちゃいなよ、ってことですぅ」
……悩みを聞いてくれるってことか。
あんまり、わたしは人に弱いところを見せるのが好きじゃない。
つけ込まれる隙になるって思ってた。
でも、この子になら――。
「ルシウムさまって……わたしのこと、好きなのかな……」
思ったよりも簡単に、弱音がこぼれた。
この子なら、受け止めてくれる。そう思ったからだ。
「センちゃんって、もしかしてぇ……バカ?」
「……は? 急に何?」
……別に人格否定されて怒ってるわけじゃないけど、なぜいきなりバカ扱いなのかは理解できない。
「センちゃん、それはちょっと、ルシウムさんのこと分かってなさすぎですぅ」
「………………………………分かってないよ。全然」
本当に、わたしは彼のことを何も知らなかった。
孫が他にもいたなんて、今日初めて知ったんだから。
「なら、知ればいいんですよぅ」
「……どうやって?」
「二人きりで、旅行するとかぁ!」
「! りょ、旅行……?」
「そうそう、新婚旅行ですぅ~!」
「! そ、そうか……新婚旅行!」
言われてみれば、嫁いできてから、ちゃんと新婚旅行なんてしていなかった。
「新婚なんですからぁ、新婚旅行は当然ですぅ~。
そこでぇ、た~っぷり甘えてくるがいいですぅ!」
「な、なるほど……!」
旅行か……たしかに、ゲームでも「イベントを一緒にこなすと仲良くなる」って定番だった。
「でも、領地のことが……」
「だいじょーぶ! 領地はえるがなんとかするですぅ!」
「……まあ、土地瞬間移動があるから、問題ないか」
「あれぇ!? ここはえるを信じて新婚旅行へ行く流れではぁ!?」
「あなたには危なっかしくて、領地運営は任せられません」
「どいひー!」
……領地防衛ならともかく、脳筋なこの子に政務はムリだ。
いっそ、トリムにちょっと頼んでみようか。
……まあ、いずれにせよ、旅行に行ってみるのは、悪くない案だ。
よし――
そうと決まれば、すぐ実行!




