シュバリエの初陣
「えるは、この新しい力を試したいですぅ!」
ふがふがと鼻息を荒くするエルメルマータ。
「なんでそんなにやる気満々なんですか?」
「センちゃんを守るためですぅ~!」
「……微妙に答えになってないような」
まあ、新しいおもちゃを手に入れたらテンションが上がる。多分、それと同じ類だろう。
「ちょうどいいことに、ここは山の中ですし。試すにはもってこいですね」
「? どういうことですぅ?」
「山には“山の怪”って呼ばれる、強い妖魔がいるんですよ」
【びにちる】の設定では、妖魔は“陰の気”が濃いほど強くなる。そして、山のような閉鎖的で影の多い場所には、その陰の気がたまりやすく、強力な妖魔が生まれる。
それが“山の怪”と呼ばれている存在だ。なかなかに厄介な相手である。
「まあ、今のエルさんなら楽勝ですね」
「ですぅ~! 山の怪だろーがなんだろーが、かかってこいやです!」
――と、そのときだった。
ぴんっ、とエルメルマータの耳が立つ。
ばっ、とあさっての方向を見やった。
「どうしました?」
「……【いる】、ですぅ~」
彼女の視線の先には、ただの樹木があるだけ。でも、その目には明確な警戒の色が宿っていた。
わたしも集中モードを起動する――が、敵は表示されない。だが、彼女は弓を構えている。
……神聖騎士としての力が、発動されたのだろう。
「センちゃんを狙うたぁ……ふてぇ野郎です! ぶっ倒しますよぉ!」
神聖梓弓を構えたエルメルマータが、魔法矢を放つ。
バシュッ!
矢は空中で無数に分裂し、放射状に降り注いでいく。
この魔法矢――星の矢。
多数の矢をばらまき、広範囲を制圧・牽制するための技だ。命中率は低く、雑魚処理向け。
……だが、今回の星の矢は違った。
まるで意思を持つかのように、一本一本が正確に、ある一点へ向かって突き刺さっていく。
ズガッ!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
流星の雨が、特定の木々だけをピンポイントで切り裂いた。
「ふぇええ……なんだったんですぅ、これぇ?」
どうやら、放った本人が一番驚いているらしい。
「見てください。これ、あなたが倒した木の妖魔です」
「木の妖魔ぁ~?」
「はい。樹木子っていいます。人面樹に近いタイプの妖魔です」
ズタズタに裂かれた木の一本を指差す。よく見ると、木に人の顔のようなものが浮かんでいる。
枝の一部を拾って、彼女に渡してみる。
「うわっ!? 見た目は木なのに、肌触りが……肉っぽいですぅ。きしょぉお……」
「樹木子の厄介な点は、まず数が多いこと。そして、木に擬態できること。さらに……スキルや集中モードでも、その擬態を見破れないことがあるんです」
このように、隠蔽と不意打ちを駆使してくるタイプの敵は、意外と多い。
「でも、えるが倒せたってことはぁ……」
「はい。神聖梓弓の効果ですよ。敵察知に加えて、放った矢の弾道を操作できます」
「ふぁー!? 矢を操作!? そんなことができるんですかぁ!? すごーい!」
……本当にすごいのは、この子のほうだ。
弾道操作。確かに、矢を自分の意思で曲げたり誘導したりできる機能はある。けれど、今みたいに無数の矢を放って、全部を同時に制御するなんて……本来は不可能に近い。
ゲームで、キャラ100体を一人で操作しろって言われても、無理な話だ。
でも、エルメルマータは――それをやってのけた。
狩人としての本能が、それを可能にしたのだろう。
「弾道操作できるなんて、すごーい! ちらちらっ」
……もっと褒めてほしいらしく、ちらちらとこちらを見てくる。
「はいはい。すごいすごい」
「えへー♡ これでセンちゃんを、ばっちり守れるですぅよぉ~!」




