表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

110/150

報酬


 東都の壊れた建物を直して回るのに、そんなに時間はかからなかった。

 愛の力でパワーアップしているため、スキルの効果範囲も広くなっていたこと、そして何より、直哉を結界内で倒せたことが大きい。

 修復を終えたわたしは、はく王女とともに、城へと戻ってきた。

 そして、城の天守閣へとやってくる。


 上座に座っていたのは、極東のお偉いさんたち。

 白夜様が、わたしに向かって深々と頭を下げる。


「この度は、本当にありがとうございました」

「気にしないでください。わたしがやりたくてやったことです」


「そうはいきません、西方の聖女様」


 ……今後は、その名前で通されるらしい。

 まあ、天使様と呼ばれるよりはマシか。


「貴女に対して、極東は報いたい。二つほど、ご提案をさせていただきたい」

「提案……?」


 なんだろうか……。

 白夜様がうなずくと、側近の方が巻物を差し出してくる。


「目を通しても?」

「もちろん」

「では……拝見させていただきます」


 ……巻物には、簡単に言えば、極東とケミスト領の間に友好条約を結びたい旨が記されていた。

 何かあったときには人員を派遣してくれる。特産品は割高で買い取ってくれる。などなど――。


 そして、有事の際には、極東ヒノコクの名のもとに、ケミスト領とその民を保護するとのこと。

 しかも、見返りはゼロ。


「あの……どう見ても、わたしたちにとって都合の良い……良すぎるような内容なのですが……」

「ええ、承知しています」


「……友好条約というわりに、こちらが差し出すものも特に書かれていないようですが」

「貴女と友好的な関係でいられること。それ自体が、我々にとって十分すぎる価値なのです」


 ……まあ、客観的に見れば、西方の聖女わたしは、極東の人たちからすれば救世主的存在だ(自分で言うのは恥ずかしいけれど)。


 救世主がそばにいる――それによって、極東の人々は精神的な安寧を得られる。

 この地に発生する妖魔は、人の負の感情から生まれるもの。

 裏を返せば、精神が安定していれば、妖魔の発生を抑えることができる。


 理屈は通っている……か。

 不均衡な関係は争いの火種にもなるけれど、この提案はむしろ理にかなっていた。


 領主であるルシウムにも条文を見せると、彼は一読して、こくんとうなずく。


「わかりました。この条約を結びましょう」

「ありがとうございます。貴女が聡明な方で良かった」


 この人は、ちゃんと極東の未来を見据え、わたしとの協力関係を提案してきた。

 視野の広い人だ。


「それで、もう一つの提案というのは?」

「親善大使として、白を貴女の領地においていただきたいのです」

はく王女を……ですか?」


 はい、と白夜様がうなずく。

 たしかに、条約を結んだのなら、親善大使を置くのはごく自然な流れだ。


はく王女は、符術を習得しております」

「! なるほど……」


 符術。つまり、転移の呪符を彼女が作れるということ。


「きっと、貴女の役に立つはずです」

「……お心遣い、感謝いたします。わたしたちとしては願ってもない話です」


 転移の呪符は基本的に使い切りだ。

 補充するには、時間も労力もかかる。


 一方で、はく王女が一人いれば、呪符は必要なだけ作れる。もちろん、彼女が協力してくれれば、だが……。


 とはいえ、彼女が断るとは思えない。

 “提案”という形を取ってはいるが、ようするに、これはわたしたちへの報酬なのだ。


 しかし、表立って褒美を与えれば角が立つ。

 特にゲータ・ニィガあたりは、うるさく口を挟んでくるだろう。


 だからこそ、“提案”という形で差し出してきたのだ。


「色々と、お気遣いありがとうございます」

「なに、貴女たちから受けた恩に比べれば、ささいなものです」


 白夜様が立ち上がり、こちらへと歩み寄ってくる。

 わたしもまた立ち上がり、彼に歩み寄る。


「これから、良い関係を築いていきたいものですね」

「はい」


 こうして――ケミスト領は、極東ヒノコクという後ろ盾を手に入れたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★茨木野の新連載です★



↓タイトル押すと読めます↓



『【連載版】追放聖女はキャンピングカーで気ままに異世界を旅する』

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ