聖女さま褒められた
白王女とともに、東都を見て回る。
……とは言っても、報告通り、壊れている家はあまりない。
そこまで時間はかからなそうだった。
でも……。
「西方の聖女様だーっ!」
わっ……! と、東都の人たちが押し寄せてくる。
「せいほうの……せいじょ……か」
「そうじゃ! セントリアは、ここ極東では有名人なのじゃー!」
白王女曰く、今回の功績がわたしにあることを、皆知っているそうだ。
……なぜ知ってるんだろう。広めたやつがいるな。
「エルさん?」
「ですぅ?」
「あんたでしょ」
「まぁね!」
胸を張るな。ぶるんと。
「友達の活躍は、みーんなに知ってもらいたいんでぇす」
「……全く無駄なことを」
「無駄じゃあないですよぅ。頑張ったことは、ちゃんと評価してもらいたいもんですよぉう。ね?」
……まあ、そうかもしれないけど。
わたしは、親しい人たちが認めてくれれば、それで十分なんだけど。
「ありがとうっ、聖女様!」「西方の聖女さまのおかげで、極東は救われたよ!」「ありがとぉー!」
あっという間に、人だかりができてしまった。
……嫌な気持ちには、ならない。なるほど……エルメルマータの言うとおり、ちょっと報われた気がする。達成感、ってやつだろうか。
「うちでお礼させてくれ!」「いや、うちで!」「ちょっとぉ! 聖女様はうちでお茶してくんだよぉ!」
……それにしても、人多すぎないだろうか。まだ復興作業があるんだが。
「お気持ちは感謝いたしますわ。でも……わたしにはやるべきことがあるので、あとにしてもらいたいです」
「そうじゃ! 西方の聖女どのは、これから壊れた建物を治して回るのじゃ!」
おお……! と東都の人たちが歓声を上げる。……だから、余計なこと言わなくていいのに。
「聖女殿は素晴らしいお方だ!」「やはり聖女に相応しい!」「聖女様ばんざーい!」
……なんとも、据わりが悪い。わたしは聖女なんかじゃない。
悪女なのに……。
まあでも、だ。
「ゲータ・ニィガの人たちに言われるよりは、悪くないでしょぉ~?」
にこにこーっと笑うエルメルマータ。
……時折、鋭いこと言うんだからこいつは。
「えっへん! えるはお姉ちゃんなので、妹ちゃんの思ってることは、わかるんですなぁ!」
「はいはい」
エルメルマータのこういう調子に乗るところも含めて、愛おしい。
わたしは白王女とエルメルマータを連れて、東都の街を歩く。
……その後ろから、ぞろぞろと東都の人たちがついてくる。まるで大名行列だ。
「あの……ついてこられても、別に何かあるわけじゃないですよ」
と言っても、彼らは戻らない。
で、わたしは壊れた長屋の前へとやってきた。
土木建築スキルを使って、ずぉ! と建物を建て直す。
陰陽スキルのおかげで、今までのものよりも立派な建物になった。
「うぉお! すげええええ!」「一瞬で家が建ったよ!?」「てゆーか、なんか豪華になってねえか!?」「さすが聖女さま……!」
わぁ……! と大歓声が上がる。
「で、でも聖女様……」
一人のおばあさんが、わたしに話しかけてきた。
「どうしました?」
「わ、わしゃ……対価が払えませんじゃ……」
「いえ、対価は要りません」
「な!?」
おばあさんがその場で腰を抜かす。エルメルマータが素早く抱き起こした。……こういうところ、好きなんだよな。
「えるのこういうとこ、すきっしょ~?」
「ええ、はいはい」
「雑ぅ!」
こういうところは嫌いだ。で、おばあさんに、わたしは言う。
「対価は望んでおりません」
「で、では……なにを……?」
「あなたがたが、健やかに暮らせること。それが、わたしの望みです」
じわ……とおばあさんの目に涙が浮かぶ。
「ああ……偉大なるノーアル神さま……。天使さまを派遣していただき、感謝申し上げます……」
……天使?
わたしか? わたしなのか……。
「いえ、天使ではなくて……」
「そうですぅ! センちゃんは、この世界に舞い降りし、聖女にして天使なのですう!」
おおおお! と皆さんがまた歓声を上げる。……なんだこれ。
「エルさんも、余計なこと言わなくて良いから……」
「ありがとうございますじゃ、天使様」
「いえ、だから……天使でもないんですが……」
わたしは、人として当然のことをやってるだけで、天使と呼ばれるいわれはないのだが……。
「西方の聖女様は天使様らしいぞ」「まじかよ、どうりで美しいと思った!」「天使様ばんざーい!」
……結局、そのあとも、いちいち万歳されたり、大げさに褒められたりして、余計に時間がかかってしまった。
「必要だったんですか、このパフォーマンス」
「ですよぉ。東都の人たちに、元気をわけてあげないとぉ」
「元気……」
「ですですぅ。みんな怖いことあって、不安な気持ちがいっぱいだったからさぁ~」
……なるほど。エルメルマータの言うことには、一理あるかもしれない。
まったく、この子は基本アホだけど、こういう細かいところに気づくんだから。
「えるは基本アホだけど、気遣いできるでしょ~?」
「……そうですね。そういうところに、救われてます」
「えへ~♡」
そんなふうに、わたしたちは東都の街を治して回ったのだった。




