先読みの作戦
……鬼神の魂を無理やり押し込まれた、わたし。
けれど、鬼神になることはなかった。
「何アホなことぬかしとんねん!」
ふぇる子が、倒れた直哉の背中に足を乗せている。
這いつくばる直哉は、悔しげにこちらを睨んでいた。
わたしはゆっくり立ち上がり、彼を見下ろす。形勢は完全に逆転。
でも、精神的な優位に立ったとは思ってない。だって、勝負はもう――最初からついていたのだから。
狙ったとおりの展開。狙ったとおりの結末。ホッとしたのが正直なところだ。
「温泉やて!? 温泉がなんや言うんや!」
「ふふふん、それはですねぇ~」
なぜかドヤ顔で胸を張るエルメルマータ。……いや、なんでおまえが説明するんだよ。まあ、いっか。
「センちゃんの温泉はですねぇ、鬼になった人間を元に戻すんですよぉ~! だから! 鬼神にもならなかったんですねぇ~!」
「違いますけど」
「えぇー! 違うんですかぁ!?」
「鬼になるのと、鬼神化は別です。鬼神は別の存在に“変える”猛毒みたいなもの。だから、普通の温泉じゃ止められません」
「はえ~……。でもでも、鬼神になる前に温泉入ってたら戻るのではぁ~?」
「鬼神は魂に巣くうんです。たとえ戻しても、またすぐ鬼神にされる。だから……」
「だから、鬼神自身を弱めようって話なんですねぇ~! 聖なる力で! あれ、でもそれって、どうやって?」
「そこで、温泉ですよ。鬼神に、聖なる力を含んだ温泉を“飲ませた”んです」
「へ……?」
「いつ!? どこで!? 鬼神が温泉なんか飲んだんや!」
「ここですよ」
わたしは、自分のお腹を軽くさする。
「ま、まさか……センちゃん、お腹の中に温泉入れてたんですかぁ!?」
「その通り」
鬼神を受肉させるには、魂を飲み込ませる必要がある。
なら、先に、聖なる温泉を飲んでおけばいい。
「これもう……未来予知ありきじゃないですかぁ。あ……!」
エルメルマータがぽんっと手を打つ。
そう、すべては【予知】によって、事前に想定されていた展開だったのだ。
「じゃあ、一郎くんがふぇる子にくっついて来たのも……センちゃんの策?」
「それを、わたしが直接一郎に伝えてたら、どうなったと思う?」
「……そっか、クズが警戒するですねぇ。だって、一郎くんは儀式を台無しにできる力を持ってるし……」
「だから、わたしは白夜様に“定期連絡”だけしておいたんです」
わたしは、出発してから今まで、定期的に通信の魔道具で白夜様に連絡を入れていた。
「連絡が途絶えたら……あ、なるほどぉ」
そのとき、白夜様は未来視を発動し、“この未来”を察知した。
そして、必要な手を――つまり、一郎をふぇる子に隠して送り込むように、指示したのだ。
「センちゃんは作戦なんて言ってないのに、ちゃんと全部動いてたんですねぇ~! さすがぁ!」
「くっそが……なんちゅうやつや……!」
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