第10話 天才魔導士な孫が、来る
この領地にきてから、10日ほどが経過した。
領地に住まわせてもらうことになったわたしは、ルシウムさまの、仕事の補佐を行っている。
そんなある日のこと。領主の古城にて。
「大変です!」
衛兵が、ルシウムさまの元へやってきたのだ。
「氷竜が、現れました!」
「なんですって!?」
ルシウムさまの顔から血の気が引く。
当然、わたしはこの魔物……氷竜について知ってる。
レベルは平均190だ。(このゲーム、レベル上限が100じゃあないのだ。ポケモ●みたいに)
大灰狼のレベルが65だったことを考えると、3倍の強さを持つ、魔物ということになる。
しかも、氷竜の厄介なところは、当たれば重度の凍傷を負う氷結のブレスを放ってくるところにもある。
「すぐに向かいましょう」
と、わたしがルシウムさまに提案する。
「手伝っていただけますか? セントリアさん」
「無論です。領主の妻ですから」
「ありがとう。本当に心強いです。場所はどこですか?」
ルシウムさまが衛兵に問いかける。
「ツヴァイの村です」
「ケミスト領の、端の村ですね」
ツヴァイの村は、お隣、マデューカス帝国との境目にある街だ。
ゲーム時代、そこで補給を行ったことがある。
「いきましょう、ルシウムさま。土地瞬間移動!」
わたしは転移スキルを発動させる。
ツヴァイの村へと、一瞬で移動する。
ツヴァイの村は、アインの村よりも小規模な村だ。
森から遠いから、村を守るのが、石の壁ではなく、木製の柵だ。
現場の衛兵達は、わたしたちがやってきたことに、驚いていた。
「領主様!? もう来てくれたのですか!?」
「ええ。被害状況をおしえてくれますか?」
「それが……今のところ、被害はゼロです」
レベル100オーバーのドラゴン相手に、プレイヤーでもない衛兵が無傷……?
以前、大灰狼に手を焼いていた衛兵が……?
ルシウムさまも、状況に困惑していた。
「どういうことですか?」
「お孫さまが、今、戦っております」
「トリムがっ? なるほど……それなら」
トリム・ケミスト。確か、ルシウムさまのお孫様。
マデューカス帝国で、宮廷魔導士をやってるそうだ。
帝国は実力主義だ。若くして、宮廷で働けるということは、相当レベルの高い魔法使いなのだろう。
少し、いや、だいぶ気になる。
なぜマデューカスで働いてる彼が、急に、領地へやってきたんだろうか……?
「様子を見に行ってきます」
「わたしも」
わたしたちはツヴァイの村を出て、現場へと向かう。
どごぉおん! という激しい爆発音がした。
そして、わたしたちの目の前に、巨大なドラゴンが落ちてくる。
「氷竜ですね」
全身が氷でできた、巨大なドラゴン。ゲームで何度も見た、氷竜だ。
氷竜が苦悶の表情を浮かべて、倒れている。
かなりダメージを負ってるのは見てわかる。
レベル100オーバーの竜を、倒すなんて……。
「中々やるじゃあないの、トリム・ケミストくん?」
空中に、一人の少年が立っていた。
背が高い、赤髪の男の子。年齢は15,6だろうか。
魔法使いのローブに身を包み、眼鏡をかけている。
眉間には、深いしわが刻まれていた。神経質そうだな、というのがわたしの所感だ。
「お爺ちゃん」
「トリム!」
ふわり、とトリムが着地する。
「無事だったかい? 怪我は?」
「大丈夫だよ、お爺ちゃん」
「そうかい、それは……良かった……」
心の底から、ほぉ……と安堵の息をつくルシウムさま。
一方で、トリムがわたしをギロリ、とにらみつけてくる。
「貴様が、セントリア・ドロだな?」
「はい。トリム・ケミストさま。お初におめにかかります」
わたしはトリムに挨拶をする。
じろじろ、と彼がわたしを、まるで値踏みするように見てくる。
「なにか?」
「ふん。何でも無い。別に、話に聞いていたのと違って、随分と見た目が美しいな、なんて思ってなんかないんだからな」
「…………」
トリムはわたしをにらみつけてくる。
その刺すような視線からは、わたしに対して、嫌悪感を抱いてることが伝わってくる。
わたし、というより元悪役令嬢を嫌ってるのだろう。
無理もない。彼女の悪名は、国内外にまで響いてるレベルだから。
「しかし、トリム。一体どうしてここに?」
「お爺ちゃんが心配だったからに決まってるだろう?」
「私が心配?」
「こんな悪女を、側に置いてるんだから!」
びしぃ! とトリムがわたしを指さしてくる。
やっぱりこの子、ルシウムさまが心配で、様子を見に来たようだ。
お爺ちゃん思いの良い子だな、というのがわたしの彼への印象。
「トリム。心配してくれてありがとう。でも、手紙には心配ないと伝えたはずでしょう?」
「あんなこと書かれたら、余計に心配になるに決まってるだろっ」
どうやら彼がここにきたのは、ルシウムさまが手紙を出したかららしい。
一体ドンナ内容だったんだろう……。
と、考えるのは後だ。
「ルシウムさま。トリムさま。戦闘準備を」
「はぁ? 何を言ってるのだ貴様?」
「氷竜が来ます」
「バカか。僕が今倒しただろうが?」
「はい。ですが、あなた様は片割れを倒しただけです」
わたしは【びにちる】をやりこんでいたから、知っている。
この3月は、氷竜たちの繁殖期。
やつらは常に、ツガイで行動すると。
「あなた様が倒した竜のツガイが、やってきます。片割れを倒したことで、より凶暴化して」
「そんなバカなことが……」
そのときだった。
「ギャァオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
上空から、1匹の氷竜が突如としてこちらへ、襲いかかってきたのである。
やはり、ツガイがいたか。
「問題ない! 火炎連弾!」
上級火属性魔法を放つことができるのか。
【びにちる】の世界では、攻撃魔法は下級、中級、上級、極大、と四つのランクに別れてる。
火炎連弾は、上級の魔法。
放たれた無数の炎の弾丸が、氷竜に襲いかかる。
命中すれば、氷竜は倒せただろう。命中すれば……ね。
スカッ……!
「な!? 避けた!?」
驚くトリムをよそに、氷竜がこちらに向かって、氷結ブレスを放ってきた。
凄まじい冷気がわたしたちを襲う。
急所に当たると、凍死してしまうほどのブレスが、わたしたちに直撃する。
「くっ……………………。って、あれ? 痛みも、寒さも感じない……? 一体どうして……?」
「ご無事ですか」
わたしは両手足を地面につけて、スキルを発動していた。
わたしたちを、半球状のドームが包んでいる。
「なんだこれは!? 結界魔法かっ?」
「いえ、これは土地神の加護が持つスキルの一つ、【安息地】スキルです」
発動すると、一定時間、敵のあらゆる攻撃を防ぐ領域を展開するスキルだ。
「なんだ、安息地スキルとは! そんなの聞いたこと無いぞ……!」
「まあ、まともに使えるようになるためには、スキルレベルをかなり上げる必要がありますので」
安息地スキルは、レベル1だと、本当に雑魚スキルだ。
発動時間は1秒だし、守れるのは自分だけ。
けれど、スキルレベルを上げると、こうして広範囲の味方まで守れるようになる。
まあ、発動時間は、現時点ではそんなに長くは持たないけど。
「わたしがこの竜を倒します。お二人は安息地のなかにいてください」
「僕も戦う!」
「MPが切れかけてるのでしょう?」
「な!? なぜそれを……」
上級魔法の発動には、かなりのMP(こちらでは魔力という)が必要となる。
番いの竜を倒したときにも、魔法を使っただろうから、現時点でMPはゼロにちかいはず。
「MP切れの魔法使いなんて、役立たずでしかありません。ここはわたしがやりますので」
「ば、バカ言うな! 貴様のようなか弱い女が、一人で勝てる相手じゃあない!」
確かに、ただのか弱い令嬢なら、こんな恐ろしい竜を倒せないだろう。
ズガンッ……!
「な!?」
トリムが、驚く。空中にいた氷竜が、いきなり地面に落ちてきたのだから。
「残念だったわね、氷竜。今おまえの目の前にいるのは、ただの悪役令嬢じゃあないわ」
わたしは懐から取り出した、【それ】の先端を、竜に向けて言う。
「この世界の、廃プレイヤーよ」
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