ディスイズ
歩く…
暗い暗い夜道…
走る…
街灯の明かりを頼りに…
曲がる…
コンクリートに囲まれた十字路…
振り返る…
街灯に照らされた電信柱…
感じる…
生の狂喜を…
悟る…
自らの最期を…
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俺にとってゲームは生活の一部となるだろう。
親から何も言われない、囚われない。
なぜなら…
「今日から一人暮らしだから!!」
3人家庭ならちょうどいいくらいの広さの1LDK。
日照権に配慮したベランダに繋がる窓。
今日中にやろうとしてもできないであろう未開封のダンボール達…。
ほんとに今日から一人暮らしが始まるんだ…!!
とりあえず必要なものだけ先に設置していく。
ゲーミングPCに…、ゲーミングチェア…。
プレステにSwitch…。
さらに、今まで買ってきたゲームグッズの数々…。
今買うとウン十万はくだらない代物もある。
あとは寝具。
おっと、冷蔵庫は重要だな。
目立たないところに置いておいてっと。
これだけ設置した後、俺は残ったダンボールを案の定片しもせずゲームを始めた。
引っ越しする前に買って一人暮らしになったらやろうと思っていたゲームだ。
このゲームは「DEEP」という一人称のゲーム。
やり始めると深くハマってしまいずっとやってしまうらしい。
現実世界を忠実に再現されていて、地球の地形、街はもちろん、人間関係やその人の人間性まで不気味なほどに再現されているゲームだ。
そう…、本当に不気味なほどに…。
他にも再現している所もあるが細かいから分からない。
分からないならやればいい。
ということで、早速やることにした。
最初の設定部分が怖いくらい細かい。
正直面倒くさい。
本当の個人情報を書かなきゃいけないらしい。
正直怖いが、オフラインゲームなので情報が他人にバレることはないだろう。
ここで既に20分経っている。
そして、キャラメイキング。
自分の顔の写真を撮って、それに合わせて自動でキャラメイキングをしていく。
それが終わったらスタートだ。
「…ッ!?」
スタートした瞬間リアルすぎて驚いた。
しかも、自分の今いる所…、"ここ"からスタートした。
個人情報書く時に、住所を書いたからだろうか。
引越しする前の部屋だからか、ゲーミングPCもない。
窓の外を見ると、人がこっちを見ている。
何も無い部屋すぎて、長居してもつまらないから外に出よう。
外に出てさっきの人のそばまで行く。
動きが人間すぎる…。
こいつも、俺と同じように周りを見渡している。
話しかけると自分の声に反応して喋ることが出来る。
「あのーすみません」
それに気づくとその人は走って逃げてしまった。
不審者のNPCなのかな?
ホラーゲームかっての。
とりあえず探索してみると、様々な人がいたし、地理だって細かい所まで再現されていた。
気づくとゲーム内で夜になっていた。
ここまで忠実に再現されたゲームならと、外を見てみると現実でも夜だった。
確かにずっとやってしまうゲームだ…。
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こんな生活をずっと続けていた。
完全にハマってしまったようだ…。
ゲーム内でこの部屋の窓から外を見ると毎回同じやつがいるが、あいつは何なのだろう?
そんなことを考えながら、俺は深夜だがお腹が空いたから、コンビニでエナジードリンクと、カップラーメンを買った。
その帰り道。
民家が建ち並び、それをコンクリートブロックの、俺より少し低めの壁が囲っている。
先は見えないが、奥へ奥へ街灯の明かりだけがぽつりぽつりと続いている道。
そんな闇夜に紛れ、俺はなにかを感じ取っていた。
俺は背後からの確証のない恐怖から逃れるために走った。
暗いが街灯の明かりがあるから、かろうじて走れる。
このまままっすぐ行けば家だが、もし、後ろからの確証のない恐怖が本当だとしたら、考えるほど恐ろしい。
次の曲がり道曲がって回り道をすることにした。
いるのかも分からない恐怖から逃げ切るために。
俺は全力で曲がり角を駆け抜けた。
家までそう遠くないはずなのに、いつもより長く感じる。
それが単に、回り道をしてるだけとは思えない。
少し走り、息が切れて来たから少し立ち止まり、振り返る。
そこにはあったのは、今まで走ってきた道と、街灯に照らされた電信柱だけ。
だけど、振り返ったことを後悔せざるを得なかった。
なぜなら…─────
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「山田翔太さん、17歳。恋人無し。身長170cm、体重61kgの6月28日生まれ。血液型はA型。視力は左1.3、右1.1。趣味はゲーム。出身地は東京都××区。今は××区××町××番地。1か月前より一人暮らし。好きな食べ物はラーメン。職業は、××スーパーのレジ打ち。シフトは毎週月、水、金、土の12時から21時。PCの機種は××××─────」
その黒いパーカーのフードを口元がギリギリ見える程度まで深く被り、不気味な笑みを浮かべながら俺の個人情報を次々と言っていく女。
なぜ俺の個人情報を知っているのか分からず、冷や汗がぶわっと出るのを感じる。
ふと思い出す。
あのゲーム…、「DEEP」のことを…。
今まで言ってきた個人情報は、俺があのゲームをするために書いたものばかりだった。
「あのゲームはオフラインゲームなはずだ…。なんでお前が俺の情報を知ってるんだ…。」
なぜそんなことを言うのかとも言いたげな顔でこちらを視る。
「あのゲームはオンラインゲーム…。思いませんでしたか?妙に人間関係や人間性がリアルだと…。あれは、NPC全員…プレイヤーなんですよ…。」
中身がプレイヤー…?
正直パッとしなかった。
確かにリアルだ。
だが、ゲームをやってるだけでは、あそこまでリアルな人間関係や人間性は分からないはずだ。
「そんなことは正直どうでもいいでしょう?なんで私が貴方の個人情報を知っているのか…、でしょう?」
「……」
「あのゲームはただ単にオフラインゲームの名目で、個人情報を抜き取るだけのゲームなんですよ!あのレベルのリアリティなら売れるのも当たり前!そして、沢山の人から抜き取る…、ただその中から貴方が選ばれただけなんです!」
狂喜に満ちた顔がフードからあらわになった。
「そんなゲームがあれば私みたいな個人情報をあのゲームから抜き取ろうとする人がいてもおかしくない。まあ簡単に言うと、抜き取ってストーカーしてたんですよ!」
「犯罪者め…!!」
その言葉を聞いた女は何故か首を傾げた。
「何を行ってるんですか、"犯罪者さん"」
「!?」
俺は何を言ってるのか理解できなかった。
俺が犯罪者…、馬鹿馬鹿しいにも程がある。
「何を言ってるんだ」
その女は嬉々として話し出した。
「貴方…、両親を殺してますよね?」
「……」
「貴方は17歳…。しかも、週4のパートの仕事で出る給料なんかじゃ、東京の3人家庭でちょうどいいくらいの1LDKなんか借りることができない…。だからと言って、親の金で借りようとしても、貴方が一人暮らしをどうしてもしたかった貴方の家庭なんだから金を出してくれるような両親じゃないはず。ということは、両親と貴方で最初ここに引っ越す予定だった…。そして、一人暮らしをしたかった貴方は両親を殺し、一人でここに住み始めた…。さらに気になったことを言うと、冷蔵庫が目立たないところに置いてあったところです。比較的目立たないところに置けば死体も保存しやすくて、なおかつバレにくいですからね」
「……」
「違いますか、犯罪者さん?」
「……それでなんで犯罪者になるんだ?ただ邪魔な人を消しただけなのに。邪魔な人を消しただけなのに犯罪者になるのはおかしいよ?君どうか…」
「………」
「してるんじゃないの?」
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見誤った…。
あいつは思った以上におかしい奴だった…。
" 私"は走った…。
街灯の明かりを頼りに…。
私は曲がった…。
コンクリートに囲まれた十字路を…。
私は振り返った…。
街灯に照らされた電信柱があるだけ…。
私は感じた…。
生の狂喜を…。
私は悟った…。
私自身の…最期を……。
"これは"、私の物語…。
この物語はフィクションです